第41話 親子授業なので子供に誰と来たいか聞いたら、俺だけは全員に指名されました
「親子交流授業には、母親も参加可能と記載されています」
アルカの一言をきっかけに。
十四人の妻候補による会議が始まった。
「リリィさんについては、最初期から共に過ごした私が適任です」
「待ってくださいませ」
ベルが微笑む。
「学校は社会を学ぶ場所でもあります。経済教育なら私の方が――」
「アカリなら戦闘訓練できるよ!」
「親子授業で戦闘訓練するな!」
俺が止める。
グレイスまで資料を出した。
「児童向け銀河防衛講座を用意しました」
「どんな内容?」
「戦艦の艦種識別から始めます」
「初等教育じゃない!」
「簡易版です」
「通常版は?」
「敵艦隊の包囲殲滅まで」
「簡易版で頼む!」
フィアも手を上げる。
「私は人体の構造を――」
「模型までなら」
「実物を」
「駄目!」
「では培養臓器を」
「もっと駄目!」
俺は頭を抱えた。
こんな状態で学校へ十四人連れていったら。
親子授業ではなく銀河首脳会議になる。
「決めた」
全員が俺を見る。
「本人たちに聞こう」
「本人?」
「リリィ、ハル、アカリ」
三人へ視線を向ける。
「誰と一緒に親子授業へ出たい?」
十四人が固まった。
「なるほど」
ハルがうなずく。
「父さんが最初に決めた規則か」
「ああ」
本人のことを。
本人抜きで勝手に決めない。
「三人が来てほしい相手を選べばいい」
「公平です」
アルカが即座に認める。
ベルも少し考えてからうなずいた。
「異論ありませんわ」
「じゃあ」
俺は三人を見る。
「誰がいい?」
三人は顔を見合わせた。
まず。
リリィ。
「お父様」
「うん」
「お父様に来てほしいです」
「俺は最初から行く予定だよ」
「では、お父様で」
「母親側の話だぞ?」
「必要ありません」
十四人の空気が凍った。
「リリィ?」
アルカが呼ぶ。
「はい」
「もう一名選べます」
「お父様がいれば十分です」
「……」
強い。
「ではハル」
「父さん」
「お前も俺?」
「ああ」
「一応、もう一人選べるけど」
「父さんがいい」
また十四人が沈んだ。
最後。
「アカリは?」
「父上」
「やっぱり?」
「父上の仕事を聞きたい」
「三人とも俺なの!?」
「はい」
「ああ」
「そうだ」
十四人が完全に沈黙した。
「お父様」
リリィが少し首を傾げる。
「問題がありますか?」
「いや、ないけど」
「本人へ聞くことが重要だと、お父様が教えました」
「そうなんだけど」
正しい。
正しすぎる。
『親子交流授業参加者』
『相良ユウト一名』
青い球体が表示する。
『十四候補、全員不参加』
「順位に影響しますか?」
エリスが真っ先に聞いた。
『子供本人の意思を尊重した場合、減点なし』
十四人が同時に息を吐いた。
「そこは気にするんだな」
◇
翌週。
親子交流授業の日。
俺は作業着を着て学校へ向かった。
百十七年前。
廃棄宇宙船管理区で使っていたものと似た、ごく普通の整備服だ。
「父さん」
ハルが俺を見る。
「その服で行くのか」
「ああ」
「最高管理者用正装は?」
「着ない」
「家族評議会議長服は?」
「そんなの作ったの?」
「アルカたちが」
「絶対着ない」
リリィが嬉しそうに俺の袖をつかむ。
「私は、この服のお父様が好きです」
「そう?」
「はい。昔の記録で最も多く着ています」
アカリも観察する。
「父上が宇宙船を直していた時の服か」
「だいたいこんな感じ」
「今日は何を話す?」
「船の管理人について」
「宇宙を作り直した話ではなく?」
「絶対しない」
「なぜ?」
「普通の職業紹介だから!」
◇
教室には三十人ほどの子供がいた。
保護者も十数人。
会社員。
店員。
輸送船乗り。
農業区画の技師。
本当に普通だ。
「では本日は」
担任の先生が前へ出る。
「保護者のみなさんのお仕事について聞いてみましょう」
最初は。
パン屋。
「毎朝、みんなが食べるパンを焼いています」
「おおー!」
子供たちが喜ぶ。
次。
輸送船の操縦士。
「荷物を星から星へ運びます」
「かっこいい!」
次。
人工農園の管理者。
どれも興味深い。
「普通っていいな……」
俺が呟くと。
「次はリリィさんのお父さんです」
「来た」
前へ出る。
「相良ユウトです」
「お仕事は?」
先生が聞く。
「今はちょっと特殊なんですが」
ちょっとどころではない。
「昔は、廃棄宇宙船の管理をしていました」
「廃棄宇宙船?」
子供の一人が手を上げた。
「捨てる船?」
「そう」
「壊れてる?」
「壊れてるのも多い」
「何するの?」
「使える部品を分けたり、危ないところを確認したり、直せそうなら直したり」
「地味」
教室に笑いが起きる。
「そう。地味なんだ」
俺も笑う。
「でも大事だぞ」
ホワイトボードへ簡単な船の絵を描く。
「例えば、この船」
「ぼろぼろ!」
「エンジンが動かない」
「捨てる!」
「でも原因が一本の配線だったら?」
「なおす!」
「そういう仕事」
子供たちが少し前のめりになる。
「全部新品に交換すれば簡単だけど」
一本の線を描く。
「使えるものまで捨てたら、もったいない」
「じゃあ直す?」
「直せるなら」
「直せない時は?」
「その時は、次に使える部品を残す」
一人の少年が手を上げる。
「船って死ぬの?」
「機械だから、人間みたいには死なない」
「じゃあ悲しくない?」
少し考える。
「長く使った船なら、寂しい人はいると思う」
百十七年前。
廃棄区画。
捨てられていた七つのAIコア。
「だから」
俺は言った。
「捨てる前に、本当にもう使えないのか見るのも仕事だった」
リリィが俺を見ている。
ハルも。
アカリも。
三人とも静かだった。
◇
「質問!」
「どうぞ」
女の子が元気よく手を上げる。
「今も船直すの?」
「頼まれたら」
「一番大きい船は?」
「昔なら大型輸送艦かな」
ここで止めるべきだった。
でも。
リリィが手を上げた。
「先生」
「はい、リリィさん」
「お父様は中央母艦も修復しています」
「リリィ」
「中央母艦?」
子供たちがざわつく。
ハルも補足する。
「宇宙再編機構も停止させた」
「ハル!」
アカリまで。
「父上は外宇宙崩壊も直した」
「アカリ!」
先生が俺を見る。
「相良さん」
「はい」
「今のお仕事は?」
「……」
逃げられない。
「家族評議会の……一応、議長です」
教室が静かになる。
「家族評議会って?」
子供の一人。
「宇宙で困ったことがあった時、最後に相談する場所」
「一番えらい人?」
「違う」
即答する。
「一番最後に話を聞く人」
子供たちが首を傾げる。
「命令するんじゃないの?」
「なるべくしない」
「どうして?」
「本人が自分で決められることまで、俺が決めたら嫌だろ?」
「うん」
「だから」
俺は笑った。
「昔とあんまり変わってない」
「どこが?」
「壊れてるように見えても、まず見る」
「うん」
「勝手に捨てない」
「うん」
「使えるなら残す」
「うん」
「本人がいるなら、本人に聞く」
一人の子が言った。
「宇宙船と人って同じなの?」
「同じじゃない」
「じゃあ?」
「仕事のやり方が似てるだけ」
「なるほど!」
納得したらしい。
担任が少し笑った。
「では相良さんのお仕事は」
「はい」
「今も管理人なんですね」
俺は少し驚いた。
「……そうかもしれません」
最高司令官。
創造管理者。
家族評議会議長。
いろんな肩書が増えたけど。
やっていることは。
百十七年前と。
案外変わっていないのかもしれない。
◇
授業終了後。
子供たちが一斉に俺のところへ来た。
「船の修理見たい!」
「今度な」
「本物?」
「学校が許可したら」
「宇宙壊れたの直したの?」
「みんなでな」
「宇宙って直せるの!?」
「できれば壊れてほしくない」
大騒ぎだった。
「父さん」
ハルが少し離れたところから見ている。
「何?」
「楽しかった」
「学校?」
「ああ」
「よかった」
「知っていることを聞く授業でも、退屈ではなかった」
「友達いた?」
「三人できた」
「早いな」
「一人は算数が苦手だった」
「教えた?」
「答えを言った」
「次は解き方だけ教えてやれ」
「なぜ?」
「自分でできた方が嬉しいから」
ハルが少し考える。
「分かった」
リリィも来る。
「私は四人です」
「友達?」
「はい」
「何話した?」
「お父様について」
「別の話題も覚えような」
「努力します」
アカリ。
「私は七人だ」
「多いな」
「内部三千文明の人気遊戯を教えた」
「何?」
「恒星フレア避け」
「普通の子供にできる遊び?」
「簡易版にした」
「ならいい」
◇
帰宅。
扉を開ける。
十四人が待っていた。
「お帰りなさい」
アルカ。
「ただいま」
「授業はいかがでした?」
「普通だった」
「本当に?」
「途中までは」
リリィが嬉しそうに報告する。
「お父様は学校でも人気でした」
十四人の目が変わった。
「誰に?」
アルカ。
「児童です」
「女性教員からの評価は?」
「ベル」
「確認ですわ」
「保護者の女性は?」
ディナ。
「何でそこ聞く!」
グレイスが端末を確認する。
「学校内の成人女性数は――」
「調べなくていい!」
まったく。
普通の生活は難しい。
「それより三人とも友達できたって」
空気が変わる。
「本当ですか?」
アルカの表情が柔らかくなる。
「はい」
リリィが答える。
「明日、一緒に昼食を食べる約束をしました」
「じゃあ弁当作らないとな」
「お父様が?」
「ああ」
その瞬間。
十四人が。
一斉に俺を見る。
「何?」
「弁当」
クレア。
「私も作る!」
「共同生活審査において非常に重要ですわ」
ベル。
「栄養管理は私が」
フィア。
「見た目の最適化を」
エリス。
「警護機能を組み込みます」
グレイス。
「弁当に警護機能はいらない!」
リリィが手を上げる。
「お父様」
「何?」
「明日の昼食は」
「うん」
「お父様の作ったお弁当が食べたいです」
十四人が止まった。
ハル。
「私も」
アカリ。
「私も父上のものがいい」
「分かった」
俺は笑う。
「じゃあ三人分作るよ」
『子供三名の希望を確認』
『十四候補の介入を禁止』
青い球体が先回りした。
「介入禁止!?」
十四人から悲鳴が上がる。
『本人の希望を最優先』
「正しいな」
翌朝。
俺が普通に三人分の弁当を作る。
ただそれだけの予定だった。
この時の俺は知らなかった。
リリィたちが持っていった俺の手作り弁当が。
学校で妙に人気になり。
翌日の夕方には。
『相良ユウト手製弁当・購入希望』
という申請が。
中央母艦居住区から。
三万八千件届くことになるとは。




