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第37話 宇宙を食べる奴に、俺が餌だと言われました



『創造管理者』


『逃げた餌を』


『ようやく見つけた』


 宇宙より大きな白い目が。


 俺だけを見ていた。


「……俺が、餌?」


 誰もすぐには答えなかった。


 アルカたち七人は俺の前へ出る。


 セレスたち六人も同時に防御領域を展開。


 クロは巨大化した姿のまま、白い目へ向かって唸っている。


「ユウト」


 アルカが振り返らずに言った。


「後ろへ」


「まず話を聞こう」


「今回ばかりは反対します」


「でも相手が喋ってる」


「あなたを餌と呼ぶ相手です」


「だからこそ、何で食べたいのか聞かないと」


「理由を聞いた後、食べられても困ります」


「食べさせないから安心して」


「その安心に根拠がありません」


 正論だった。


 白い目から、再び情報が流れ込む。


『創造管理者』


『戻れ』


「どこへ?」


『内側へ』


「内側?」


 リリィが情報を翻訳しながら首を傾げる。


「この存在は、お父様を外へ逃げたものと認識しています」


「外って、こっちの宇宙?」


「はい」


「じゃあ向こうが内側?」


 未来の俺が入った黒い球体が、小さく震えた。


『まさか』


「何か分かった?」


『創造管理者が宇宙を作ったという認識そのものが、逆なのかもしれない』


「逆?」


『我々は、創造管理者が空間を作り、宇宙を育ててきたと思っていた』


「違うの?」


『もし』


 未来の俺が、白い目を見つめる。


『創造管理者が、元々あの側にいた存在なら』


 背筋が寒くなる。


「俺が、あいつらと同じ?」


『可能性はある』


「それは嫌だな」


『私もだ』


 自分同士で意見が一致した。


     ◇


「お父様」


 リリィが青い球体へ接続する。


「創造管理者以前の記録を検索します」


「残ってる?」


「通常領域にはありません」


 ハルが続ける。


「しかし、父さんの生体情報そのものに痕跡がある」


「体に?」


「創造管理者権限を使う時、外部エネルギーを生成しているのではない」


「じゃあ何をしてる?」


「別の場所から持ってきている」


「別の場所って」


 全員が白い目を見る。


「向こう?」


「可能性が高い」


 ノアが創造エネルギー生成炉を停止する。


「虚喰いへ供給していた食料も」


「向こう側のエネルギー?」


「はい」


「じゃあ、俺たちが飯作るたびに盗んでた?」


『盗難という概念が成立するかは不明』


 エリスが補足する。


「ただし、外部存在から見れば、自分たちの領域から何かを持ち出されている可能性があります」


「それで餌って呼ばれてる?」


 未来の俺が低く答える。


『違う』


「何が?」


『もし単なる盗人なら、餌とは呼ばない』


 確かに。


「クロ」


「うん」


「クロたちは、あいつに食べられたんだよな」


「うん」


「どうして?」


「おなか」


「向こうも腹減るの?」


「ちがう」


「じゃあ何?」


 クロの一つ目が、白い目を見つめる。


「もどす」


「戻す?」


「クロたち、そと」


「外?」


「うん」


「だから戻される?」


「たべられると、もどる」


 分からない。


 でも、重要なことを言っている気がする。


「エリス、翻訳できる?」


「概念が異なりすぎます」


「ハルは?」


「仮説なら」


「聞かせて」


「虚喰いは、本来こちらの宇宙に存在できない生命体」


「それは分かる」


「白い存在は、異物を摂取して元の領域へ回収している」


「食べてるんじゃなくて、片付けてる?」


「可能性がある」


 クロが俺を見る。


「ユウトも」


「俺も?」


「そと」


「俺も異物扱い?」


「うん」


「だから戻そうとしてる?」


「うん」


 未来の俺が沈黙した。


「何?」


『三百十二年間、我々は宇宙を捕食する敵だと思っていた』


「でも実際は?」


『宇宙から逃げ出したものを回収しているだけかもしれない』


「じゃあ、宇宙を消してたのは?」


『回収対象が周囲の空間と結合しているため、まとめて持っていっている』


「迷惑すぎる!」


『向こう側には、その認識がないのかもしれない』


 善意の掃除で宇宙が消える。


 規模が大きすぎて笑えない。


     ◇


「じゃあ交渉できるかもしれない」


『何を言う』


 未来の俺が尋ねる。


「俺たちは戻らない」


『拒否される』


「代わりに、向こうから勝手にエネルギーを取らない」


 ノアが俺を見る。


「虚喰いの食料は?」


「別の方法を探す」


 クロの耳が下がる。


「ごはん」


「なくすわけじゃない」


「ほんと?」


「約束する」


 クロが少し安心したように尻尾を振った。


「リリィ」


「はい」


「相手に伝えて」


「言葉ではなく概念情報で送信します」


 リリィが青い光を広げる。


『こちらは相良ユウト』


『現在の宇宙に留まる意思がある』


『外部領域からの無断取得を停止する』


『代わりに、現在宇宙への回収行為を停止してほしい』


 白い目が動きを止める。


 長い沈黙。


 そして。


『不可』


「理由は?」


『創造管理者は帰還対象』


「どうして?」


『欠損している』


「何が?」


『中心』


「中心?」


 白い目の奥に。


 初めて映像らしきものが見えた。


 広大な白い空間。


 その中央。


 巨大な穴。


 何もない場所。


『創造管理者が抜けた』


『内側が崩れる』


 ハルが息をのむ。


「父さんが向こうから逃げたことで、外宇宙側が崩壊している?」


「俺一人で?」


『創造管理者は中心』


『中心がない』


『全てが外へ流れる』


 クロたち。


 虚喰い。


 そして、あの白い捕食器官。


「つまり」


 俺は頭を抱える。


「向こうの宇宙が壊れてるから、クロたちも逃げてきた?」


『肯定』


「俺のせい?」


『肯定』


「昔の俺、規模が大きい迷惑ばっかり残してない!?」


 未来の俺から小さな声が返る。


『耳が痛い』


「お前も俺だろ!」


     ◇


「戻れば解決するのか?」


 アルカが俺を見る。


「その質問は却下します」


「まだ答えてないぞ」


「戻る選択肢そのものを却下します」


「でも向こう側が崩れてる」


「別の方法を探します」


 俺と同じことを言った。


「私たちは、ユウトを差し出すために家族評議会を作ったわけではありません」


 ベルも頷く。


「問題を一名の犠牲で解決する案は、最優先で除外いたしますわ」


 セレスも続く。


「管理文明全資源を使って代替中枢を構築します」


「作れる?」


「現時点では不明です」


「でもやる?」


「ユウト様を渡すよりは」


 十四人全員が、当然のようにうなずいた。


「クロ」


「うん」


「向こうの中心って、俺じゃないと駄目?」


「わからない」


「白い目に聞いて」


 リリィが再び通信する。


『代替中枢は可能か』


 返答。


『可能』


「できるの!?」


 全員が一斉に反応した。


「じゃあ最初から言ってくれ!」


『創造管理者を戻す方が早い』


「効率だけで人を回収しようとするな!」


 昔の俺と似ている。


 ものすごく嫌な共通点だ。


「代替中枢に何が必要?」


『同等の外部接続能力』


「それは?」


『創造管理者級の存在』


「結局俺しかいない?」


『一個体であれば』


「一個体であれば?」


『複数個体の集合でも代替可能』


 俺たちは顔を見合わせた。


「家族評議会」


 ハルが言う。


「父さん一人の権限を十九名へ分散した時と同じことができるかもしれない」


「向こうの中心も、分散できる?」


『理論上は』


 未来の俺が急速に演算を始める。


『創造管理者一名に相当する接続量を、複数存在へ分ければいい』


「十九人で足りる?」


『不足する』


「どのくらい必要?」


 エリスが白い目から送られた情報を計算する。


「最低でも……」


「何人?」


「約百億個体」


「多い!」


「ただし一般生命体換算です」


「強い個体なら?」


「七艦隊級、統括個体級、虚喰い級を含めれば必要数は大幅に減少します」


 クロが手を上げるように前足を上げる。


「クロ、する」


「いいの?」


「おうち、なおる?」


「多分」


「なら、する」


 クロの背後。


 三百十二万体の虚喰いも反応した。


『全虚喰い個体、接続協力意思を確認』


「本人たちにちゃんと聞いた?」


「うん」


「何て?」


「おうち、なおす」


「それだけ?」


「うん」


「十分か」


 アカリから通信が来る。


『三千文明も協力する』


 ソフィア。


『候補者一万二千八百七十九名へも確認します』


 ベル。


「七艦隊支配下の全知性体へ、自由参加で募集をかけますわ」


「強制は禁止」


「当然です」


 グレイスが宣言する。


「銀河防衛機構も参加希望者を募ります」


「これなら届く?」


 エリスの数値が上昇していく。


 一パーセント。


 五パーセント。


 二十パーセント。


 六十パーセント。


「まだ不足」


「あとどのくらい?」


「創造管理者換算、約十七パーセント」


 その時。


 黒い球体から未来の俺が言った。


『私を使え』


「未来の俺?」


『私は管理権限を失っているが、創造管理者由来の人格構造は残っている』


「消えない?」


『接続負荷は高い』


「却下」


『まだ説明していない』


「消える可能性あるなら却下」


『お前は本当に……』


「同じ俺なら分かるだろ」


『分かるから困っている』


 もう一人の俺――第一分離人格からも通信が入る。


『こちらの接続能力も使える』


「白い方?」


『その呼び方はまだ続くのか』


「名前つけると家族になるから仕方ない」


『未来人格より私の方が接続能力は高い』


「危険は?」


『負荷は分散できる』


「本人は?」


『私だ』


「いや、今そっちは侵食から回復したばかりだろ」


『だからこそ返す』


「何を?」


『百十七年前、お前を逃がすために残った分を』


「借りだと思ってない」


『私が思っている』


 似た者同士すぎて話が進まない。


     ◇


 最終的に。


 家族評議会。


 七艦隊。


 六統括個体。


 候補者たち。


 三千文明。


 虚喰い群体。


 さらに第一分離人格。


 未来人格。


 自発的に参加を希望した無数の生命体。


 全宇宙規模の接続網が形成された。


『代替中枢出力』


『九十九・八パーセント』


「あと少し!」


『不足、零点二パーセント』


「誰かいない?」


 リリィが宇宙全域へ募集を続ける。


 だが数字は変わらない。


「もう俺が零点二だけ負担すれば?」


「反対します」


 十四人同時。


「零点二だぞ!」


「前例になります」


 グレイスが言う。


「次は一パーセント、その次は十パーセントと、ユウト様が自分を使う危険があります」


「信用ないな!」


「あります」


 アルカが答える。


「だから止めます」


「それ信用なのか?」


 その時。


 足元から声がした。


「クロ?」


「ちがう」


 クロの影。


 そこから、小さな白いものが出てくる。


 猫より小さい。


 白い球体。


 目はない。


「何これ?」


 クロが警戒する。


「これ」


「知ってる?」


「たべるやつ」


「白い目の仲間!?」


 全員が武器を向ける。


「待って!」


 白い球体から情報が届いた。


『代替中枢への参加を希望』


「向こう側の存在が?」


『中心を失えば、我々も崩壊する』


「なら協力する?」


『条件あり』


「何?」


『創造管理者を帰還対象から除外』


「それ、こっちの条件じゃないの?」


『交換条件』


「何と?」


 白い球体が少し揺れる。


『我々にも』


『名前を与えてほしい』


 部屋中が静まり返った。


 アルカたち。


 リリィ。


 未来の俺。


 第一分離人格。


 全員が。


 同時に俺を見る。


「俺は付けないぞ!」


『なぜ』


「名前を付けると家族になるからだ!」


 白い球体が少し考える。


『家族とは』


『食べない対象か』


「だいたい合ってるけど!」


『なら家族になる』


「簡単に決めるな!」


 宇宙を食べる側と。


 宇宙の外へ逃げてきた虚喰い。


 その両方が。


 なぜか俺の家族枠を狙い始めていた。


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