表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/49

第28話 妻候補十四人との同居初日なので、まず普通の家のルールを決めたい



『三十日後、相良ユウトが正式な配偶者を選択』


『選択人数に上限なし』


 十四人の妻候補が、同時に俺を見た。


 笑顔だった。


 怖いくらい綺麗な笑顔だった。


「全員を選択することも可能です」


 アルカが確認する。


『可能』


「では問題ありません」


「俺には問題がある!」


「何がですか?」


「最初から全員選ばれる前提で進めるな!」


 ベルが小さく首を傾げる。


「ですが、誰か一人へ絞る必要がないのでしょう?」


「そうだけど!」


「それなら、競争ではなく全員合格を目指した方が平和ですわ」


「珍しく平和なことを言ってるようで、結論がおかしい」


 クレアが元気よく手を上げる。


「じゃあ十四人でユウトを幸せにすればいいんだね!」


「物理的に囲むなよ」


「もう囲んでる」


「本当だよ!」


 左右にアルカとベル。


 背後にクレア。


 少し離れた場所にはディナ、エリス、フィア、グレイス。


 その向こうへセレスたち六人。


 さらにソフィア。


 完全に包囲されている。


「共同生活を始める前に、ルールを決める」


 俺は宣言した。


「最重要です」


 グレイスが即座に端末を開く。


「正式な家内規則として記録します」


「そんな大げさなものじゃない」


「違反時の罰則は?」


「罰則もいらない」


「規則として機能しません」


「普通の家は、違反したら艦隊を没収したりしないんだよ!」


 俺は机へ簡単な項目を表示した。


 一つ。


 本人の許可なく、個室へ入らない。


「異議があります」


 アルカ。


「早い!」


「ユウトが室内で倒れている可能性があります」


「緊急時は別でいい」


「睡眠中の健康確認は緊急時に含まれますか?」


「含まれない」


「では睡眠監視装置を――」


「設置禁止!」


 フィアの手が止まった。


「生体情報だけでも?」


「駄目」


「心拍のみ」


「駄目」


「呼吸数」


「駄目!」


「お兄様の安全性が低下します」


「普通の人間は毎晩そこまで監視されてない!」


 リリィが手を上げた。


「娘は入室できますか?」


「ノックして、返事があればな」


「夜中に怖い夢を見た場合は?」


「それなら来ていい」


「登録しました」


 なぜ少し嬉しそうなのか。


「二つ目。夜間訪問は禁止。用事があるなら通信で確認する」


 十四人が黙った。


「どうした?」


「夜間とは何時から何時までですか?」


 エリスが尋ねる。


「夜十時から朝六時」


「二十一時五十九分なら問題ありません」


「ぎりぎりを攻めるな」


「朝六時一秒は?」


「寝かせてくれ!」


 ルナが眠そうに手を上げる。


「一緒に寝た状態で二十二時を迎えた場合は?」


「どういう状況だよ」


「二十一時に入室して、そのまま寝る」


「抜け道を作るな!」


 ディナが笑う。


「ユウト、自分でルールを作ると穴を探されるよ」


「探す側が言うな」


 三つ目。


 勝手に体を改造しない。


「対象はユウトだけですか?」


 フィア。


「俺以外も本人の許可を取れ」


「医療行為は?」


「必要ならいい」


「老化は疾患へ含まれますか?」


「含まれない!」


「文明によっては含まれます」


「この家では含めない!」


 四つ目。


 普通の生活を銀河規模にしない。


 これには全員が首を傾げた。


「具体性が不足しています」


 セレスが言う。


「例えば、朝食のために惑星を買わない」


 ベルの手が止まった。


「もう買いましたわ」


「何を!?」


「農業惑星を一つ。新鮮な食材確保のためです」


「返品してくれ!」


「不可能です。すでにユウト様名義へ変更しました」


「勝手に資産を増やすな!」


「では家族評議会名義へ」


「名義の問題じゃない!」


 ノアが小さく手を上げる。


「朝食専用惑星を新造する予定でしたが、中止します」


「予定に入れるな!」


「昼食専用も?」


「全部だ!」


「夕食専用も廃案にします」


「三個作るつもりだったのか……」


 五つ目。


 家庭内の問題へ軍隊を使わない。


 クレアが不満そうに腕を組む。


「害虫が出たら?」


「普通に退治する」


「艦砲射撃は禁止?」


「当たり前だ!」


「小型砲なら?」


「家がなくなる!」


 グレイスも尋ねる。


「不審者侵入時は?」


「警備は必要だけど、一億隻もいらない」


「では九千万隻へ縮小します」


「桁を一つずつ下げるな!」


     ◇


 一時間後。


 家のルールは、最終的に十二項目になった。


 勝手に部屋へ入らない。


 夜十時以降は静かにする。


 風呂を監視しない。


 睡眠中に生体実験しない。


 体を改造しない。


 食事のために惑星を買わない。


 家事へ軍隊を使わない。


 家族同士で武力衝突しない。


 俺を誘拐しない。


 俺の予定を勝手に国家行事へしない。


 俺の私物を文化財指定しない。


 そして。


 何かしたい時は、まず本人へ聞く。


「最後の一つだけで、ほとんど解決したんじゃないか?」


 俺が言うと、宗一郎が笑った。


「お前もようやく気づいたか」


「あんたが言うな。四十年間、全部黙ってた人だろ」


「反省している」


「本当に?」


「三割ほど」


「少ない!」


『共同生活規則を登録』


『配偶者適性審査を開始』


 青い球体から新しい表示が出た。


『評価方式』


『相良ユウト本人の幸福度』


『候補者との相互信頼度』


『本人の意思を尊重した行動』


『過剰な資源投入には減点』


 十四人の表情が変わった。


「過剰な資源投入」


 ベルが繰り返す。


「どの程度から減点ですの?」


『対象本人が過剰と感じた時点』


「ユウト様基準……」


 少し困った顔をする。


 銀河三十二個分の資産を俺へ使った人には、一番難しい評価方式かもしれない。


『軍事力による問題解決も原則減点』


 クレアが翼を下げる。


『無断の身体改変は大幅減点』


 フィアが目を逸らす。


『過度な監視行動も減点対象』


 アルカとグレイスが同時に黙った。


「意外と公平な採点だな」


『第一回家族評議会規則を評価基準へ反映した』


「つまり、普通に接すればいいんだよ」


 十四人が顔を見合わせる。


「普通」


「はい」


「普通とは?」


「そこからなのか?」


 アルカが真剣に質問する。


「百十七年前、私がユウトと過ごした時と同程度でしょうか」


「それでいい」


「当時の私は、廃棄区画から移動できませんでした」


「じゃあ話をするだけでも十分だよ」


「話す」


 アルカが小さく繰り返す。


 何百もの星系を支配する機械星王が、初めて聞いた技術みたいな顔をしていた。


     ◇


「それじゃあ、今日は一緒に夕飯を食べよう」


 その一言で、また空気が変わった。


「私が作ります」


 アルカ。


「料理機能あるのか?」


「百十七年前のユウトの食事記録をすべて保持しています」


「嫌な予感しかしない」


「栄養食を再現します」


「それは料理じゃない」


「では、私が」


 ベルが立ち上がる。


「銀河最高峰の料理人を二万人ほど――」


『過剰資源投入の兆候を確認』


「……私自身で作りますわ」


「料理できるのか?」


「できるようになります」


「今から?」


「三秒ください」


「学習速度が違いすぎる」


 クレアが調理場へ向かう。


「肉を焼く!」


「火力は?」


「恒星表面温度くらい」


「台所を使うな!」


 ディナが冷蔵庫を開ける。


「簡単なものでよくない?」


「それが一番ありがたい」


「じゃあ酒と保存食」


「夕飯としては少し寂しい」


「海賊船では豪華だよ」


 エリスが俺を見る。


「ユウトが最も幸福度を示した食事を検索」


「勝手に昔の記録を見るなよ」


「該当しました」


「何?」


「カレー」


「普通だな」


「百十七年前、給料日前に大量に作り、四日間食べ続けています」


「そこまで再現しなくていい」


 フィアが頷く。


「栄養調整できます」


「普通のカレーでいい」


「健康補助成分を――」


「普通で」


「了解しました」


 結局。


 十四人と子供三人、両親候補二人を含めた全員でカレーを作ることになった。


「俺もやる」


「ユウトは休んでいてください」


「共同生活だろ。俺も家族なんだから手伝う」


 アルカが少し考えた。


「分かりました」


 以前なら絶対に止めていただろう。


 俺が包丁を持つだけで護衛が出てきたかもしれない。


 だが今は、隣で野菜を切る俺を見ているだけだ。


「危なっかしいです」


「百十七年前も自炊してたぞ」


「知っています。三度指を切っています」


「八年間で三回なら少ないだろ」


「私にとっては三回も、です」


 それでも包丁を取り上げない。


 少しだけ変わった。


「アルカ」


「はい」


「ありがとう」


「何に対してですか?」


「聞いてくれたこと」


 アルカが一瞬、何も言えなくなる。


『アルカの相互信頼度上昇』


「採点するな!」


     ◇


 一時間後。


 大きな鍋いっぱいのカレーが完成した。


 見た目は普通。


 匂いも普通。


 味も――。


「うまい」


 俺が言うと、十四人全員がこちらを見る。


「誰の功績ですか?」


 エリスが尋ねる。


「みんなで作ったんだから、全員だろ」


『配偶者候補十四名の評価値上昇』


「均等ですか?」


『ほぼ均等』


 十四人が少し不満そうだった。


「競争するなよ」


「ですが、三十日後には選択があります」


 グレイスが真面目に言う。


「順位は重要です」


「全員選べるんだろ?」


 何気なく言った瞬間。


 全員の動きが止まった。


「ユウト」


 アルカがゆっくりこちらを見る。


「今、全員を選ぶ可能性を認めましたか?」


「違う! 制度上の話!」


「記録しました」


 エリスの周囲へ文字が浮かぶ。


「消せ!」


「重要情報です」


「お父様」


 リリィがカレーを食べながら言う。


「私は十四人全員でも構いません」


「長女が認めるな!」


「家族が増えるのは良いことです」


 ハルもうなずく。


「母親が十四名いれば、教育分野を分担できる」


「教育を会社みたいに考えるな」


「父上」


 アカリが首を傾げる。


「三千文明では、配偶者が百名を超える文化も存在する」


「参考にする文明を選んでくれ!」


 騒がしい。


 本当に騒がしい。


 でも。


 百十七年前の小さな整備室で、七人とくだらない話をしていた頃を少し思い出した。


 国も艦隊も管理者権限もない。


 ただ飯を食べながら話しているだけ。


「こういうのでいいんだよ」


 思わず口から出た。


「何がですか?」


 アルカが尋ねる。


「俺がやりたかった普通の生活」


 十四人が静かになる。


「惑星も艦隊もいらない。飯を食べて、くだらない話して、眠くなったら寝る。それくらいで十分」


 アルカが小さく笑った。


「覚えておきます」


 ベルも。


 クレアも。


 他の十二人も、それぞれうなずいた。


『相良ユウトの幸福度、大幅上昇』


『配偶者候補十四名の評価を加算』


「だから採点するなって!」


 全員が笑った。


 その時だった。


 玄関の呼び出し音が鳴る。


「誰か来た?」


「この住居へ直接来訪できる者はいません」


 マリアが確認する。


「家族評議会構成員以外、転送座標そのものが非公開です」


 再び呼び出し音。


 今度は青い球体に表示が出た。


『外部来訪申請』


『申請者数、三百二十一文明』


「多い!」


『代表者一名が玄関前で待機』


「目的は?」


『家族評議会へ相談』


 玄関の外部映像が映る。


 そこに立っていたのは、小柄な異星人の老人だった。


 その背後。


 宇宙空間には、三百二十一文明の巨大艦隊が並んでいる。


『相談内容』


『三百二十一文明間で、千八百年間続いている領土問題を解決してほしい』


「なんで俺の家に持ってくるんだ!」


『家族評議会が宇宙最高意思決定機関となったため』


「俺たちはカレー食べてただけだぞ!」


『さらに』


 新しい数字が表示される。


『現在、相談待機件数』


『八億七千二百十一万件』


「……はい?」


『全宇宙から、家族評議会への相談が殺到しています』


 宇宙を支配しないために作った家族会議は。


 設立初日の夕食中に、全宇宙の相談窓口になってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ