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第27話 妻候補十四人の会議なのに、俺には拒否権がなかった



『自由意思による第一回配偶者選定会議の開催を提案』


「開催しない!」


『配偶者候補十四名、全員が開催へ賛成』


「俺の票は!?」


『婚姻対象者の参加は必須ですが、開催可否への投票権はありません』


「婚姻対象者が一番重要だろ!」


 中央母艦の青い球体は、俺の抗議を無視して会議準備を進めていく。


『会場を設定』


『全宇宙管理中枢・ユウトの部屋』


「またここか!」


 六畳ほどの部屋には、すでに二十人近くが詰め込まれている。


 ベッドの上には俺。


 膝にはリリィ。


 右隣にハル。


 頭上には小さな光球になったアカリ。


 その周囲を、アルカたち七人とセレスたち六人、さらにソフィアが囲んでいた。


 どこを見ても妻候補しかいない。


「まず会議を中止する議題を提出する」


『却下』


「まだ内容も聞いてないだろ!」


『配偶者候補十四名が事前に拒否権を行使しています』


「俺が何か言う前から対策されてる!」


「ユウト」


 アルカが俺の右手を握る。


「ご安心ください。無理やり婚姻を成立させる会議ではありません」


「本当か?」


「はい」


「では、私たちの中から誰が最初に妻となるかを決定します」


「同じだろ!」


「全員が最終的に妻となる点は、すでに共通認識です」


「俺にはない!」


 ベルが優雅に微笑む。


「ユウト様。複数配偶者制度は、銀河文明の七十八パーセントで合法ですわ」


「合法かどうかを聞いてるんじゃない」


「残る二十二パーセントにも、私が交渉すれば一週間以内に認めさせられます」


「法律を変えるな!」


「すでに法案を提出しました」


「早すぎる!」


 クレアが元気よく手を上げる。


「私は難しい話は分からないから、決闘で決めたい!」


「却下」


「殺さないよ?」


「そういう問題じゃない」


「一対一で最後まで立っていた人が、一番目の妻!」


「星系がいくつ消えると思ってるんだ!」


「競技場を別宇宙に作れば大丈夫」


「大丈夫じゃない!」


 ディナはベッドの端へ腰かけ、楽しそうに足を揺らしていた。


「じゃあ、ユウトを一番早く連れ去った人が勝ちでどう?」


「犯罪だろ」


「本人が最後に同意すれば合法だよ」


「同意する前提で話すな」


「自由海賊星域では、三日間一緒に過ごせば事実婚」


「その法律も変えてくれ」


「嫌だよ。便利だから」


 エリスの周囲には、十四人分の数値表が浮かんでいる。


「感情値、経済力、戦闘力、生活支援能力、健康管理能力、子育て適性を総合評価します」


「まともな方法に聞こえるな」


「現在の一位は私です」


「自分で作った評価表だろ!」


「計算式は公平です」


「演算能力の項目が全体の四十パーセントを占めてるぞ!」


「宇宙規模の家庭運営には必要です」


「家庭を宇宙規模にするな」


 フィアが俺の肩へ手を置く。


「配偶者には、お兄様の健康を守る能力が最も重要です」


「普通の食事と睡眠で十分だ」


「心臓を三つへ増やせば、突然死の危険が大幅に減少します」


「人間をやめさせるな」


「では予備心臓を外部へ保存します」


「俺の心臓を勝手に複製するな!」


「すでに作成済みです」


「いつの間に!?」


「廃棄許可をいただけないため、永久保存しています」


 自由になったはずなのに、フィアの危険度はまったく下がっていなかった。


 グレイスが机を軽く叩く。


「静粛に」


 部屋の騒ぎが止まる。


「配偶者選定は、感情だけでなく責任を伴います」


「グレイスは分かってくれそうだな」


「私は正式な婚姻契約書を作成しました」


 表示された書類を見て、俺は固まった。


「何ページある?」


「簡略版で八万二千ページです」


「簡略になってない!」


「銀河防衛機構、七艦隊、管理文明、交易連合、各国家の財産権および指揮権を整理する必要があります」


「結婚するだけで宇宙条約になるのか?」


「ユウト様の場合はなります」


「なら結婚しない方が平和じゃないか?」


「その結論は禁止されています」


「どうしてだよ!」


 続いて、セレスたち六人が一歩前へ出た。


「私たちは中央母艦が選定した正式な配偶者候補です」


 セレスが胸へ手を当てる。


「戦略、経済、生産、記録、空間、生命、中央管理。それぞれの分野で最高性能を持ちます」


「一人多くないか?」


「中央管理はマリアです」


「六人なのに七分野あるぞ」


「私は戦略と軍事を兼任しています」


「仕事の面接みたいになってるな」


「婚姻とは、最も重要な長期契約です」


「だから本人の気持ちも聞いてくれ」


「ユウト様のお気持ちは、生活環境を整えた後に確認します」


「順番が逆だろ!」


 ノアが、小さな惑星模型を俺へ差し出す。


「結婚祝いとして、居住用惑星を二百個用意しました」


「多い」


「では百個」


「値引きみたいに減らすな」


「一個では不足します」


「普通の家一軒でいい」


「惑星内部へ家を一軒だけ建設します」


「惑星が余るだろ!」


 ミラは分厚い記録書を開く。


「ユウト様が好む女性の傾向を、過去四十年分の記録から分析しました」


「やめろ!」


「該当する明確な傾向は確認できませんでした」


「安心した」


「ただし、AIや管理知性体との会話時間が、人間女性との会話時間を大きく上回っています」


 十四人が一斉に俺を見る。


「仕事だったからだ!」


「人間女性との交際履歴は?」


 ベルが尋ねる。


「ゼロです」


 ミラが答えた。


「消してくれ、その記録!」


「重要な判断材料です」


 ルナは眠そうな目をこすりながら、俺の左肩へ頭を預ける。


「私は、ユウトの隣で寝るだけでいい」


「一番要求が少ないな」


「毎日」


「少し増えた」


「同じ部屋で」


「さらに増えた」


「同じベッド」


「やっぱり却下だ!」


「眠い……」


「そのまま寝るな!」


 イヴは、俺と十四人の遺伝的相性表を表示した。


「全候補者との子孫設計が可能です」


「表示を消せ!」


「自然方式と人工方式を選択できます」


「説明しなくていい!」


「お父様」


 リリィが俺の膝の上から手を上げた。


「母親候補選定会議の議長として、発言します」


「いつ議長になった?」


「長女なので当然です」


「当然じゃない」


「十四人には、一人ずつ質問します」


 妻候補たちが姿勢を正す。


 俺の話より、リリィの審査の方を真剣に聞いている。


「お父様が管理者を辞め、何の権限もない普通の人間になっても、一緒にいますか?」


「当然です」


 アルカが即答した。


「むしろ余計な国家業務をすべて私が引き受けます」


「ユウト様が無一文になられても、私が銀河経済を支えますわ」


「力がなくても私が守る!」


「自由になったユウトの方が、連れ去りやすいね」


「管理権限の有無は好意値へ影響しません」


「普通の人間なら、健康管理の必要性がさらに上昇します」


「護衛対象としての危険度は増加します」


 七人は迷わない。


 セレスたち六人も同じだった。


「管理文明を失っても、私はユウト様の戦略補佐を続けます」


「何も作れなくなっても、一緒に生活します」


「記録が消えても、また覚えます」


「空間転移が使えなくても、歩いて会いに行く」


「生命設計能力を失っても、食事を作る方法を学びます」


「中央母艦を失っても、ユウト様の帰る場所を守ります」


 最後にソフィアが答える。


『私は宇宙外交の権限を失っても、あなたの隣で話し相手になります』


「全員、合格です」


「待て、リリィ!」


『母親候補審査、十四名全員合格』


「勝手に決めるな!」


「お父様を大切にする意思を確認しました」


「俺と結婚するかどうかは別問題だ!」


「では、お父様へ質問します」


 リリィは俺を見上げる。


「十四人の中に、嫌いな方はいますか?」


「いないけど」


 十四人の表情が明るくなる。


「一緒にいたくない方は?」


「そういうわけでもない」


 さらに距離を詰められる。


「全員が幸せになってほしいですか?」


「それは思う」


『相良ユウトによる全候補者への好意を確認』


「好意の意味が違う!」


『配偶者選定条件を更新』


「更新するな!」


 青い球体に新しい項目が表示された。


『候補者十四名への拒絶感情、なし』


『全候補者との共同生活が可能と判断』


「何を判断した!?」


『配偶者としての適性を確認するため、試験同居期間を設定します』


「必要ない!」


『候補者十四名が賛成』


「また俺以外全員か!」


『期間は三十日間』


「長い!」


『候補者全員が、相良ユウトと同一住居で生活します』


「十四人と一緒に!?」


『子供三名、ユリア、宗一郎を含む』


「家族全員かよ!」


『試験用住居を構築』


 中央母艦が大きく揺れた。


 俺の小さな部屋の壁が、左右へ広がり始める。


 六畳だった空間が、数十畳、数百畳と拡張されていく。


 廊下。


 食堂。


 大浴場。


 庭園。


 訓練場。


 格納庫。


 ついには窓の向こうへ、人工の海と山まで現れた。


「これは住居じゃなくて都市だろ!」


『居住人数に対し、最低限の設備です』


 入口に大きな表札が表示される。


『相良家・配偶者適性共同審査住宅』


「今すぐ名前を変えろ!」


『変更には家族評議会での決議が必要です』


 アルカが俺の右腕を取る。


「三十日間、よろしくお願いします」


 ベルが左腕へ手を添える。


「共同生活であれば、朝食は私が担当いたしますわ」


「昼は私!」


「クレアは料理できるのか?」


「焼くのは得意!」


「食材以外を焼くなよ!」


 ディナはすでに寝室一覧を確認している。


「ユウトの部屋に一番近い場所は早い者勝ち?」


「抽選にしてください」


 エリスが即座に区画を割り当てる。


「公平を期すため、毎日部屋を入れ替えます」


「夜間訪問は禁止だ!」


「自由意思に対する制限ですか?」


「共同生活の規則だ!」


「では会議で決めましょう」


 十四人が一斉に会議室へ向かう。


 俺の夜間立入禁止を決める会議なのに、本人の俺が一番不利な気がする。


「父さん」


 ハルが俺の服を引いた。


「一つ確認したい」


「何だ?」


「試験同居の目的は、最適な配偶者を決定することだな」


「システム上はそうらしい」


「選ばれなかった十三名は、どうなる」


 俺は答えられなかった。


 その疑問へ反応し、青い球体が規則を表示する。


『三十日後、相良ユウトが正式な配偶者を選択』


『選択人数に上限なし』


 部屋中の視線が俺へ集まった。


「上限なし?」


 アルカが静かに確認する。


『全員を選択することも可能です』


 十四人の妻候補が、同時に笑顔を浮かべた。


 試験同居は、誰か一人を選ぶための審査ではなかった。


 全員が選ばれるための三十日間になろうとしていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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