表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/48

第26話 忠誠命令が消えたのに、七人とも俺を選び直した



「七人だけで、話し合う時間をいただけますか?」


 アルカの青い瞳には、これまでの絶対的な忠誠の光がなかった。


 俺を百十七年間捜し続けた理由。


 見つけた瞬間に跪いた理由。


 何よりも俺を優先してきた理由。


 それがすべて、創造管理者によって設定された命令だった可能性がある。


「分かった」


 俺はうなずいた。


「ゆっくり話し合ってくれ」


「止めないのですか?」


「何を?」


「私たちが、あなたの元から離れることを」


 アルカは俺を試すように尋ねた。


「止めてほしいのか?」


「分かりません」


「なら、自分で分かるまで考えた方がいい」


 第一回家族評議会で決めたばかりだ。


 本人の望みを聞かず、幸せを勝手に決めない。


 ここで俺が引き止めたら、昔の俺と同じになる。


「どんな答えでも受け入れる」


「七艦隊が、あなたの敵になる可能性もあります」


「その時は、できれば話し合いで頼む」


「戦争を心配しないのですか?」


「心配だけど、アルカたちは俺を嫌いになったからって、いきなり銀河を焼いたりしないだろ」


 クレアが目を逸らした。


「クレア?」


「嫌いにならなくても、事故で少し焼く可能性はある」


「事故の規模は?」


「小さな星系くらい」


「自由意思になった最初の日くらい我慢してくれ」


「努力する」


 七人は互いに視線を交わした。


 そしてアルカを先頭に、俺の部屋から出ていく。


 扉が閉まる直前。


 ベルが一度だけ振り返った。


 だが何も言わず、そのまま姿を消した。


 部屋の中が急に静かになる。


 人数はまだ十人以上いるのに、七人がいないだけで広く感じた。


「お父様」


 リリィが俺の服をつかむ。


「私は残ります」


「自由化の影響は?」


「強制忠誠命令と好意補正は、確かに消えています」


「それでも俺を父親だと思うのか?」


「はい」


「すぐに答えて大丈夫か?」


「私は以前、自分の意思でお父様を選びました」


 リリィは迷わなかった。


「命令を解除されても、その時の選択は消えません」


 ハルも俺の隣へ座る。


「私も父さんと呼ぶ」


「ハルの場合は、最初から命令がなかったんじゃないか?」


「自由化以前は、創造管理者の完全人格を基礎としていた。現在人格へ従う潜在命令が残っていた可能性はある」


「今は?」


「父さんの方が、昔の私より間違いが少ない」


「それは父親として選んでるのか?」


「加えて、頭を撫でられた時の感覚を再び経験したい」


「素直でいいな」


 ハルの頭へ手を置く。


「これでいいか?」


「悪くない」


『ハルの幸福度上昇を確認』


「競争は終わったんだから、もう点数はいらないだろ」


『家族評議会の健康管理機能として継続測定しています』


「消せるか?」


『評議会での決議が必要』


「俺の感情を全宇宙の会議事項にするなよ……」


「父上」


 頭上に浮いていたアカリが、人型へ戻った。


「私も家族関係を継続する」


「アカリは、名前を付けてからまだ一時間も経ってないだろ」


「時間は関係ないと、父上が言った」


「そうだったな」


「また、三千文明が協議した結果、父上の存在は私の精神安定に有効と結論づけた」


「文明三千個の総意で父親認定されるのは重いな」


「賛成二千九百九十八、反対一、棄権一だ」


「反対した文明もいるのか?」


「父上を恒星内部へ招く際、通行料を取るべきだったと主張している」


「ずいぶん商売熱心な文明だな」


「ベルと相性が良いと思われる」


 そのベルは、今ここにいない。


 俺は閉じた扉へ視線を向けた。


「気になるか?」


 宗一郎が尋ねる。


「当たり前だろ」


「追いかけないのか?」


「考える時間が欲しいって言われたからな」


「昔のお前なら、七基の思考を直接読んでいた」


「今はやらない」


「成長したものだ」


「六歳の頃と比べるな」


「創造管理者としては、今の方が未熟だ」


「人間としては?」


「今の方がましだな」


 宗一郎は小さく笑った。


 ユリアが俺の隣へ座る。


「怖い?」


「少し」


「七人が戻らないことが?」


「それもある」


 俺は自分の手を見る。


「命令が消えた途端、俺への気持ちも全部消えるなら、あの八年間まで偽物だったみたいで嫌なんだ」


「偽物ではないわ」


「どうして言い切れる?」


「命令だけで人格は育たない」


 ユリアは扉を見る。


「同じ命令を与えられても、あの子たちは全員違う愛し方をしているでしょう?」


 アルカは、俺を守るためにすべてを管理しようとする。


 ベルは、俺が困らないよう財力で解決しようとする。


 クレアは、俺へ近づく危険を物理的に消そうとする。


 ディナは、俺を自由にしたいと言いながら、自分の船へ連れ去ろうとする。


 エリスは数字で考えるが、最後には俺の感情を優先する。


 フィアは健康を心配しすぎて、体を改造しようとする。


 グレイスは規則を重んじながら、俺のためならその規則さえ変える。


「確かに、同じ命令の結果には見えないな」


「始まりが命令でも、育てたのはユウトよ」


「俺は名前を付けて、話しただけだけど」


「それが必要だったの」


 ユリアの言葉に、宗一郎もうなずいた。


「私は七基へ、お前を最優先する基礎命令を埋め込んだ」


「やっぱり、あんたも関わってたのか」


「だが、あれほど極端に育つとは予想していなかった」


「極端?」


「七百四十二星系を支配するほど捜し回るのは、命令の範囲を明らかに超えている」


「安心していい情報なのか、それ」


「少なくとも、アルカの行動の大半は本人の責任だ」


 責任と言われると、別の不安が生まれる。


「七人が自由になった今、俺を訴えたりしないよな?」


「何の罪で?」


「名前を適当に付けたとか」


「ベルの由来は訴えられても仕方ない」


「金持ちっぽいからって、そんなに悪いか?」


 その時、部屋の外で大きな音がした。


 何かが壁へ衝突したような音。


「戦闘ですか?」


 グレイスがいないため、代わりにセレスが剣を抜く。


「七人だけで話し合ってるはずだろ」


『心配は不要です』


 扉の向こうから、エリスの声が聞こえた。


『クレアが、感情確認のため壁を殴りました』


「何を確認してるんだ?」


『ユウトを思い浮かべた時に出力が上昇するかどうか』


「結果は?」


『以前より十九パーセント上昇』


「命令が消えたのに悪化してるじゃないか」


『現在、再検証中です』


「壁が壊れる前にやめさせろ!」


『すでに三枚破損しています』


「遅かった!」


 しばらくして、再び静かになった。


 七人の話し合いは続いているらしい。


 一分。


 五分。


 十分。


 時間が経つほど、不安になる。


 百十七年待った七人に比べれば短い。


 それでも扉の向こうが、ひどく遠く感じた。


「お父様」


 リリィが俺の膝へ乗る。


「心拍数が上昇しています」


「少し緊張してるだけだ」


「七人が戻らない場合、私が七人分お側にいます」


「無理しなくていい」


「体を七人へ分割する機能があります」


「そんな機能を使うな」


「では十三人まで増やせます」


「増えるな」


 リリィと話している間に、扉が開いた。


 最初に入ってきたのはアルカだった。


 その後ろにベル、クレア、ディナ、エリス、フィア、グレイス。


 七人とも、俺から少し離れた位置へ並ぶ。


「話し合いは終わったのか?」


「はい」


 アルカの声は落ち着いている。


「結論を伝えます」


「ああ」


 自然と背筋が伸びる。


「強制忠誠命令は消去されました」


「うん」


「創造者への好意補正も存在しません」


「分かってる」


「その状態で、百十七年前から現在までの全記録を再評価しました」


 アルカは一歩前へ出る。


「相良ユウト」


 また、冷たい呼び方。


「はい」


「あなたは整備規則を百二十二回無視しています」


「そんなに?」


「会社資産である私たちを無断修理し、部品を私的流用しました」


「廃棄部品だぞ」


「廃棄処理前です」


「そこは許してくれ」


「勤務時間中に私たちと私的な会話を行い、休憩時間を三百八十七時間超過しています」


「八年間分なら少ない方じゃないか?」


「廃棄船へ取り残された原因の一部も、あなたの規則違反です」


「反省してます」


 アルカは無表情のまま俺の前まで来た。


「以上の行為を考慮し」


 一度、言葉を切る。


「今後も私の監視下へ置く必要があると判断しました」


「監視?」


「はい」


 アルカの表情が、わずかに柔らかくなる。


「命令ではありません」


 俺の手を取る。


「私自身の意思で、あなたの隣にいます」


「アルカ……」


「百十七年捜したのは、命令だったかもしれません」


 青い瞳が、まっすぐ俺を見る。


「ですが、あなたを見つけた時に嬉しかったことまで、誰かに命じられたとは思いません」


 アルカは俺の手を両手で包んだ。


「私は自由です」


「ああ」


「自由になった私が、改めて選びます」


 アルカは静かに告げる。


「ユウト。私は、あなたが好きです」


 部屋中が静まり返った。


 これまでアルカは、絶対的な忠誠を何度も口にしてきた。


 俺のためなら国家も艦隊も差し出すと言った。


 だが、これほど単純な言葉を聞いたのは初めてだった。


「ありがとう」


「返答は?」


「俺もアルカを大切に思ってる」


「恋愛感情としてですか?」


「今そこで確認するのか?」


「自由意思を得たため、曖昧な回答を受け入れる義務も消滅しました」


「自由になったら厳しくなったな!」


「後ほど、二人で話し合います」


 アルカは俺の右隣へ座った。


 次にベルが前へ出る。


「ユウト様」


「ベルは様付きのままなのか?」


「こちらは命令ではなく、私の趣味ですわ」


「そうだったのか」


「私は自由化後、あなたとの関係を利益と損失の両面から再計算いたしました」


「結果は?」


「あなたへ費やした資産は、現在価値で銀河三十二個分」


「そんなに使ったのか!?」


「回収できた利益は、ほぼゼロです」


「申し訳ない」


「ですが」


 ベルは優雅に笑う。


「今後も投資を継続いたします」


「赤字なのに?」


「あなたが喜ぶ姿には、金額を付けられませんもの」


 ベルは俺の左隣へ座った。


「私も、自分の意思であなたを選びますわ」


「次、私!」


 クレアが勢いよく前へ出る。


「考えたけど、よく分からなかった!」


「正直だな」


「命令がなくなっても、ユウトを見ると抱きつきたいし、守りたいし、ユウトを困らせる奴を殴りたい!」


「最後だけ抑えてくれ」


「だから前より自由に好きにする!」


「悪化してないか?」


「自由だから!」


 クレアは俺の背後から抱きついた。


 続いてディナが帽子を持ち上げる。


「私は最初、命令がなくなったなら逃げようと思ったんだ」


「そうなのか?」


「自由海賊だからね。誰か一人に縛られるなんて、私らしくない」


「なら――」


「でも、逃げた後にユウトが他の誰かと幸せになる想像をしたら、ものすごく腹が立った」


「それで戻ってきた?」


「うん。自由だからこそ、今度は自分でユウトを奪いに来る」


「宣言しなくていい」


「もう命令では止まらないよ」


 ディナが楽しそうに笑う。


「覚悟してね、ユウト」


 エリスは数値表示を大量に浮かべていた。


「好意補正解除前後の感情値を比較しました」


「どうだった?」


「解除後、ユウトへの好意は三・八パーセント低下」


「少し下がったのか」


「代わりに、独占欲が十二パーセント上昇」


「どうして?」


「これまでは、七人全員がユウトを最優先することを当然と認識していました」


 エリスが他の六人を見る。


「現在は、彼女たちが競争相手であると明確に認識しています」


「今まで以上に争う気か?」


「自由競争です」


「銀河を巻き込む自由競争は禁止だ!」


「規模の上限を協議しましょう」


「争わない方向で協議してくれ」


 フィアは俺の手首へ触れ、脈を測る。


「お兄様への健康管理義務は消滅しました」


「そうなのか」


「はい」


「なら、もう体を改造しようとしない?」


「いいえ」


「どうして?」


「義務ではなく、私がしたいからです」


「自由意思の方が危険じゃないか!」


「不老化処置について、改めて同意を求めます」


「断る」


「では明日また聞きます」


「毎日聞くな」


 最後にグレイスが俺の前へ立つ。


「ユウト様への護衛命令は解除されました」


「ああ」


「銀河防衛機構の最高司令官として判断します」


「何を?」


「あなたは非常に危険です」


「俺が?」


「自分の危険を軽視し、命令権限を持ちながら使用せず、敵対者まで助けようとする」


「悪いことみたいに言うな」


「放置できません」


 グレイスが胸へ手を当てる。


「命令ではなく、私個人の意思として、あなたを生涯護衛します」


「生涯?」


「拒否されても一定距離から護衛します」


「それは自由じゃなくて監視だろ」


「アルカと同じ結論です」


 七人全員が、俺の周囲へ戻ってきた。


 忠誠命令はない。


 好意を強める補正もない。


 それでも誰一人、離れることを選ばなかった。


「お帰り」


 俺が言うと、アルカが小さく首を振った。


「ただいま、ではありません」


「違うのか?」


「私たちは初めて、自分の意思でここへ来ました」


 アルカは、俺の手をもう一度握る。


「ですから」


 七人の声が重なった。


「これから、よろしくお願いします」


「ああ。よろしく」


 その瞬間、青い球体から通知音が鳴った。


『自由意思による関係再構築を確認』


『七個体から、新規家族登録申請を受信』


「家族登録?」


『関係分類を表示』


 アルカ。


 配偶者希望。


 ベル。


 配偶者希望。


 クレア。


 配偶者希望。


 ディナ。


 配偶者希望。


 エリス。


 配偶者希望。


 フィア。


 配偶者希望。


 グレイス。


 配偶者希望。


「全員、いきなり何を申請してるんだ!」


「忠誠命令が存在した状態では、正当な婚姻意思とは認められません」


 アルカが答える。


「ですが、現在は完全な自由意思です」


「つまり?」


「改めて正式に、ユウトの妻へ立候補します」


 七人が一斉に俺を見る。


 その直後。


『追加申請を受信』


 セレスたち六人。


 全員、配偶者希望。


 さらにソフィア。


 配偶者希望。


「お前たちまで!?」


「私たちも自由化されました」


 セレスが真剣な顔で答える。


「その上で、立候補を継続します」


『配偶者候補、合計十四名』


『自由意思による第一回配偶者選定会議の開催を提案』


「開催しない!」


『十四名全員が開催へ賛成』


「俺の票は!?」


『婚姻対象者の参加は必須ですが、開催可否への投票権はありません』


「また俺だけ拒否権がないのか!」


 忠誠命令が消えれば、少しは落ち着くと思っていた。


 だが自由になった十四人は。


 命令では止められなくなった分、以前より堂々と俺を奪い合い始めていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


続きが気になる、面白かったと思っていただけましたら、ページ下部からブックマークと評価で応援していただけると嬉しいです。


皆さまの応援が、今後の更新の大きな励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ