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第24話 家族四十八億人は、さすがに多すぎる



『全宇宙の候補者が、ユウトの家族になりたいと申請しています』


 目の前に表示された数字は、四十八億。


 しかも一秒ごとに数千万件ずつ増えている。


「止めろ!」


『申請受付機能は、家族評議会設立規定に含まれています』


「受付を止められないなら、承認を止めろ!」


『全申請を保留へ変更』


 表示の色が青から黄色へ変わった。


 ひとまず家族が数十億人単位で増える事態は防げたらしい。


「申請の内訳は?」


『子供関係登録、十八億二千万件』


『兄弟姉妹関係登録、十一億件』


『配偶者関係登録、九億六千万件』


『親関係登録、三億一千万件』


『ペット関係登録、六億一千万件』


「最後は何だ!?」


『管理者相良ユウトによる飼育を希望する生命体からの申請』


「六億匹も飼えるか!」


『申請者には惑星規模生命体、銀河生物、概念生命も含まれます』


「家に入らないだろ!」


「父さん」


 ハルが申請内容を確認している。


「配偶者申請のうち、八十二パーセントは家族評議会への参加資格のみを目的としている」


「それでも多すぎる」


「残る十八パーセントは、純粋に父さんとの婚姻を希望している」


「一億人以上いるじゃないか!」


「ユウト」


 通信画面の向こうで、アルカの青い瞳が細くなった。


「配偶者申請のみ、すべて拒否してください」


「全部保留でいいだろ」


「拒否してください」


 ベルたち六人も、そろってうなずいている。


「身元確認も行わずにユウト様との婚姻を申請するなど、礼儀に反しますわ」


「確認した後ならいいのか?」


「確認後、私たちが個別にお断りいたします」


「お前たちが断るのかよ」


 セレスたち六人とソフィアも、別の通信画面から参加してきた。


「中央母艦が選定した配偶者候補以外は、安全性を保証できません」


「選定した六人もまだ候補だからな」


『私は候補ではありません』


 ソフィアが穏やかに訂正する。


『共同管理者制度を利用するための、最適な婚姻相手です』


「候補より一歩進めるな」


「お父様」


 リリィが申請一覧を指さした。


「子供申請を一部承認してもよろしいでしょうか」


「どうして?」


「弟や妹が増えれば、私は長女としての権限を得られます」


「家族内の地位を固めようとするな」


「姉さん」


 ハルがリリィを見る。


「私は弟として不足か」


「ハルだけで十分です」


 リリィは即答した。


『候補者リリィとハルの幸福度上昇』


「家族会話をいちいち採点するな!」


 選定終了まで、残り二十二時間ほど。


 今は四十八億件の申請を処理している場合ではない。


 だが家族評議会を成立させなければ、候補者たちは消去される。


「アグニ」


『何だ』


「お前が賛成票を入れれば、全会一致になるんだよな?」


『私を家族として登録すればな』


「脅して家族になるのは違うだろ」


『先ほどお願いへ言い換えた』


「内容が同じなんだよ」


 赤髪の少女姿となった恒星生命体は、腕を組んだ。


 見た目は幼いが、中には三千文明が暮らしている。


 年齢も九千歳を軽く超えている。


「どうして娘になりたいんだ?」


「リリィとハルは、お前に自分で生きる方法を教えられる」


「ああ」


「私も九千年、三千文明を守ることだけを考えてきた」


「十分立派だと思うぞ」


「だが、守る以外の生き方を知らない」


 アグニは、自分の小さな手を見つめた。


「恒星として生まれ、文明を内部へ抱え、外敵から守る。それが私に設定された役割だ」


「疲れたのか?」


「分からない」


 アグニは正直に答えた。


「疲労という感情を、これまで考えたことがない」


「じゃあ、これから考えればいい」


「誰と?」


「三千文明の人たちと話しながらでもいいし、俺たちと一緒に考えてもいい」


「それが家族か?」


「少なくとも、命令するだけの関係じゃないな」


 アグニは、俺の前まで歩いてきた。


「私が間違えた時、お前は止めるか?」


「止める」


「お前が間違えた時、私が止めてもよいか?」


「もちろん」


「では、家族でよい」


「決定が早いな」


「名前を要求する」


「アグニじゃ駄目なのか?」


「それは恒星全体の名称だ。この小さな体には、別の名が必要だ」


 アルカたち七人の空気が変わった。


「ユウト」


「何だ?」


「命名には注意してください」


「どうして?」


「私たち七人は、ユウトから名前をいただいたことで、現在の人格を確立しました」


「リリィとハルも、お父様から関係と名前を与えられています」


 リリィが続ける。


「名前を与えると、家族関係が自動的に強化される可能性があります」


「じゃあ、本人に決めてもらえば――」


「お前が決めろ」


 アグニが即座に拒否した。


「家族になる者から名前を与えられたい」


 見た目は幼い少女。


 赤い髪。


 体からは、炎というより柔らかな光が漏れている。


「アカリ」


「意味は?」


「周りを照らす光」


「私は恒星だ。当然だな」


「気に入ったのか?」


「悪くない」


 アグニ――アカリの体が赤い光に包まれた。


『恒星生命体アグニ、人型端末名をアカリとして登録』


『相良ユウトとの家族関係を構築』


『関係分類、第三子』


「やっぱり娘になってる!」


「父上」


 アカリが俺を見上げた。


「よろしく頼む」


「父上なのか」


「父さんとお父様は使用済みだ」


「呼び分けを考えたのか?」


「三千文明で協議した」


「名前を付けてから数秒しか経ってないぞ」


「三千文明が並列で考えれば十分だ」


 娘一人の返事の裏で、三千文明会議が行われているらしい。


「アカリ」


「何だ、父上」


「賛成票を頼む」


「承知した」


『候補者番号六百六十六』


『家族評議会設立へ賛成』


『全候補者の同意を確認』


『緊急分散継承規定の発動準備を開始』


 青い球体から、宇宙全体へ光が広がった。


『候補者人格回収処理を停止』


『創造管理者認証競争を中断』


「全員助かったのか?」


『家族評議会の正式成立後、選定を終了する』


「まだ成立してない?」


『最終条件』


『構成員全員による第一回家族評議会を開催してください』


「会議をするだけか」


『本拠地として登録された場所へ、全構成員が集合する必要がある』


 本拠地。


 全宇宙管理中枢・ユウトの部屋。


 ベッドと机と風呂しかない、俺の小さな部屋だ。


「構成員は何人だ?」


「父さん、リリィ、私、アカリ」


 ハルが数え始める。


「アルカたち七名、統括個体六名、ユリア。合計十八名」


「十八人なら、詰めれば入れるか」


『ソフィアを忘れています』


「ソフィアは構成員なのか?」


『全候補者代表として参加します』


「十九人か」


「私も入ります」


 アカリが言った。


「今数えたぞ」


「三千文明の代表者も連れていく」


「入るわけないだろ!」


「小型投影端末を使用する」


「それでも三千人だぞ!」


「三千文明の代表を一人ずつ選ぶ必要はありません」


 リリィが提案する。


「三千文明会議全体を、一つの映像端末として表示します」


「画面一個なら、まあ……」


『さらに、候補者一万二千八百七十九名が傍聴を希望』


「却下!」


『家族申請者四十八億名も、会議の公開を要求』


「絶対に却下!」


     ◇


 中央母艦に作られた俺の部屋。


 六畳ほどの室内へ、家族評議会の構成員が集まった。


 狭い。


 とにかく狭い。


 ベッドの上に俺と子供三人。


 床にアルカたち七人。


 セレスたち六人は、壁際に立っている。


 ユリアは唯一の椅子へ座り、ソフィアは窓枠へ腰かけていた。


「どうしてソフィアだけいるんだ?」


『全候補者代表です』


「俺の肩へ腕を回す必要は?」


『場所が狭いためです』


「反対側が空いてるだろ」


 アルカが俺とソフィアの間へ無理やり入る。


「ユウトの周辺空間は、私が管理します」


「もっと狭くなったぞ」


「お父様の膝は私の場所です」


 リリィが座る。


「父さんの右側は私が確保した」


 ハルが腰を下ろす。


「父上の頭上は空いている」


 アカリが赤い光の球となって浮かぶ。


「人間の部屋で恒星になるな。暑い」


「出力は暖房器具程度だ」


「今は暖房いらない」


 部屋の中央に、青い球体の小型端末が現れる。


『第一回家族評議会を開始してください』


「何を話せばいい?」


『議題を一つ以上決定し、全構成員が発言する必要があります』


「じゃあ、最初の議題は――」


「ユウト様の正式な配偶者を決定します」


 ベルが手を挙げた。


「却下!」


「母親候補の選定」


 リリィが続く。


「却下!」


「父さんの一日の睡眠時間を八時間以上へ設定する」


 ハルが提案した。


「それは賛成」


「食事管理も必要です」


 フィアが即座に乗る。


「入浴時間、勤務時間、交友関係も決定しましょう」


「俺の生活を全部管理する会議にするな!」


 アルカが静かに手を上げる。


「では、家族全員に共通する最初の規則を決めます」


「どんな?」


「ユウトを危険へ近づけない」


「反対だ。俺だけ特別扱いするな」


「父上を守るのは、家族全体の利益だ」


 アカリまで賛成する。


「なら、こうしよう」


 俺は全員を見回した。


「困っている家族がいたら、勝手に全部決めず、まず本人の話を聞く」


 アルカたちが黙る。


 母親候補。


 住居。


 護衛。


 艦隊。


 俺のためを思って動いているのは分かる。


 ただ、規模と速度がおかしい。


「本人が望んでないことを、幸せだと決めつけない。意見が違ったら、戦争じゃなくて話し合う」


「捜索区域調整会議は?」


「戦争に含む」


 アルカが少し残念そうに目を伏せた。


「異議のある者は?」


 誰も手を挙げない。


「全員賛成でいいな?」


「はい」


「承知しましたわ」


「努力する!」


「できる範囲で」


「規則として記録します」


「お兄様の望みであれば」


「銀河防衛機構の最高規則へ追加します」


 残る構成員たちも、順番に同意した。


『全構成員の発言および合意を確認』


『第一回家族評議会、成立』


『緊急分散継承規定を発動』


 青い光が、部屋から中央母艦、銀河、そして全宇宙へ広がっていく。


『単独創造管理者制度を廃止』


『全候補者の人格回収処理を永久停止』


『宇宙再編権限を家族評議会へ分散』


『管理文明の最高意思決定機関を変更』


『新規管理中枢』


『全宇宙管理中枢・ユウトの部屋』


「この名前だけは変えてくれ!」


『第一回評議会終了後、変更申請が可能』


「今すぐ終了だ!」


『第一回家族評議会を終了』


 ようやく終わった。


 候補者たちは消えない。


 俺一人が宇宙を管理する必要もない。


 これで普通の生活へ戻れる。


 そう思った瞬間。


 部屋の扉が三回叩かれた。


「誰だ?」


「この区画には、許可された者以外入れません」


 アルカが立ち上がる。


「外部侵入反応もありません」


 再び扉が叩かれる。


 俺が開けると、廊下に一人の老人が立っていた。


 質素な作業服。


 白髪。


 どこにでもいそうな、人間の老人。


 だが、その顔を見たユリアとソフィアが同時に立ち上がった。


「あなた……」


「どうして生きているの?」


 老人は二人を無視し、俺の顔をじっと見た。


「四十年ぶりだな、ユウト」


「俺を知ってるんですか?」


「知っているとも」


 老人は懐かしそうに笑った。


「息子の家族会議に、父親が呼ばれていないとはどういうことだ?」


 その背後に表示された生体情報。


 人類存続管理局、初代局長。


 俺の記録を消し、アルカたち七人の廃棄命令を出した人物だった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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