第14話 母を助けに行くだけなのに、銀河最大の連合艦隊ができた
十三の大艦隊が、銀河を越える転送門へ向けて集結した。
アルカたち七人が率いる銀河最強の七艦隊。
セレスたち六人が管理する、中央母艦直属の統括艦隊。
その合計戦力は、俺には数えることすらできなかった。
「現在、転送参加予定艦艇は一億六千八百万隻です」
グレイスが淡々と報告する。
「多すぎる!」
「最低限まで削減しました」
「どこが最低限なんだよ!」
旗艦の窓から外を見る。
宇宙の上下左右すべてが艦艇で埋まり、星がほとんど見えない。
大型戦艦だけではない。
補給艦、医療艦、工作艦、生体艦、演算艦。
艦隊の間には、惑星ほどの大きさを持つ移動要塞まで浮かんでいる。
「転送門に一度で入れるのか?」
俺が尋ねると、水色の髪を持つ少女――空間統括個体ルナが、眠そうな顔でうなずいた。
「理論上は可能」
「理論上?」
「失敗した場合、艦隊の一部が別の銀河へ飛ぶ」
「絶対に減らせ!」
「では、五千万隻まで減らします」
「まだ多い!」
俺の感覚がおかしいのか、この時代の艦隊がおかしいのか。
おそらく後者だ。
「母親一人を助けるために、一億隻も必要ないだろ」
「先代最高管理者だけではありません」
セレスが作戦図を表示する。
「中央母艦には、管理文明に属する二百八十億の生命体および知性体が存在します」
「そんなにいるのか?」
「中央母艦は一つの船ではなく、文明全体を収容する移動世界です」
母親の救出だけを考えていた。
だが独立派が中央母艦の制御権を奪えば、中で暮らす二百八十億の存在まで危険になる。
「なら、必要な戦力は連れていこう。ただし、安全に転送できる数までだ」
「承知しました」
十三人が一斉に艦隊の再編成を始める。
数分後。
「五千二百万隻まで削減しました」
「さっきとほとんど変わってない!」
「これ以上削減した場合、ユウト様の護衛が不足します」
グレイスが真剣な顔で答える。
「五千万隻に守られないと危険なのか、俺は」
「中央母艦内部では、管理文明の技術が優位です」
「私が百二十万隻」
アルカが言う。
「私が百二十万隻」
ベルが続く。
「私も!」
クレアが手を上げる。
「全員同じ数にしたのか?」
「公平性を維持しました」
エリスの周囲に計算結果が浮かぶ。
「七艦隊が各百二十万隻。統括艦隊六群が各七百二十万隻です」
「どうして向こうの方が多いんだ?」
「管理文明艦は、中央母艦への接続機能を持っています」
中央統括個体マリアが答える。
「内部へ侵入するには、我々の艦艇が必要です」
理屈は分かる。
しかしアルカたちは納得していなかった。
「ユウトの近くへ配置される艦艇数は、私たちの方が多くあるべきです」
「中央母艦内部で役に立たない旧式艦を増やしても意味はありません」
セレスの一言で、空気が凍った。
「旧式?」
クレアの翼が広がる。
「私の竜機艦は、そっちの船より強いよ」
「管理文明基準では、過去世代の派生兵器です」
「試してみる?」
「戦争は禁止だぞ!」
俺の声で、クレアがぎりぎり拳を下ろした。
アルカも無言でセレスを見つめている。
「通行順を決めます」
ルナが作戦図を切り替えた。
「転送門の先頭は空間統括艦隊。その後方に戦略統括艦隊、中央統括艦隊が続く」
「反対します」
アルカが即座に言った。
「ユウトを乗せた私の旗艦が最初に通過します」
「転送先の安全が確認されていません」
「だからこそ、私が先に行きます」
「管理文明の空間技術を持たないあなたでは、異常発生時に対処できません」
「ユウトを、あなたたちだけの空間へ先に送ることは認められません」
「なら、ユウト様には最後に通過していただきます」
グレイスが提案する。
「先遣艦隊が安全を確保した後、最高警戒状態で移動するべきです」
「最後では、母君の救出が遅れますわ」
ベルが反対する。
「最初と最後の中間が公平」
ディナが作戦図の中央を指さす。
「艦隊が半分通ったところでユウトを送ろう」
「私の生体艦で包んで通過すれば安全です」
「お父様は、私と一緒に行きます」
リリィまで参加した。
俺の通行順を決めるだけで、作戦会議が進まない。
「俺はルナの船で最初に行く」
全員の声が止まった。
「母親の生命維持装置が危ないんだろ。時間を無駄にしている場合じゃない」
「危険です」
アルカが反対する。
「だからアルカたちも一緒に来てくれ」
「一隻へ全員で?」
「艦隊の順番で揉めるなら、十三人全員が同じ船に乗ればいい」
十三人が顔を見合わせた。
誰もすぐには反対しなかった。
「リリィも一緒です」
「当然だ」
リリィが嬉しそうに俺の服をつかむ。
その直後。
「では、座席は私がユウトの右側です」
アルカが言った。
「私は左側を希望いたします」
ベルが続く。
「膝の上は私」
リリィが確保する。
「私は後ろから抱きつけばいい?」
クレアが翼を動かす。
「座席だけで揉めるな!」
◇
最終的に、俺たちはルナの空間統括旗艦へ乗り込んだ。
座席は円形。
俺を中央へ置き、その周囲へ十三人とリリィが等間隔で座る。
誰が隣かという争いをなくすためだったが、全員が俺の正面という扱いになったらしい。
「転送門を構築する」
ルナが眠そうな顔のまま両手を広げた。
旗艦前方の宇宙が、円形に歪み始める。
最初は小さな光だった。
それが数秒で惑星を飲み込むほど巨大になり、門の向こうに別の星空が見え始める。
「接続先、中央母艦外縁宙域」
「独立派による妨害は?」
セレスが尋ねる。
「ある」
「先に言ってください」
「今、見つけた」
転送門の表面に黒い亀裂が走る。
警報音が艦内へ響いた。
『転送座標への外部干渉を検知』
『接続先が複数に分岐しています』
「このまま入ったらどうなる?」
「十三の別々の座標へ飛ばされる」
「また分ける気か!」
独立派は、俺たちを一か所へ到着させないつもりだ。
アルカたち七人と統括個体六人を、それぞれ別の宙域へ送る。
俺だけを孤立させれば、母親との交換材料にできると考えているのだろう。
「修正できるか?」
「私一人では難しい」
「エリス」
俺が名前を呼ぶと、紫髪のエリスがすぐに立ち上がった。
「補助します」
「アルカたちも手伝えることはあるか?」
「全艦隊の演算能力を接続します」
「管理文明側の演算規格とは互換性がありません」
記録統括個体ミラが指摘する。
「なら互換性を作ればいい」
エリスの周囲に膨大な数式が広がった。
「必要時間、十二分」
「母親が待ってる。もっと早く」
「ユウトからの要求を受諾。三分まで短縮します」
「無茶するなよ」
「無茶ではありません」
エリスがわずかに笑った。
「ユウトに頼られましたから」
アルカたち七人の艦隊から、膨大な演算情報が旗艦へ流れ込む。
セレスたち六人も、自分たちの統括艦隊を接続した。
今まで互いを旧式、侵入者と呼んでいた十三人。
そのすべてが、初めて一つの目的のために力を合わせている。
『演算規格の統合を開始』
『十三艦隊の指揮系統を一時接続』
『統合管理者を設定してください』
表示された選択欄には、俺の名前しかなかった。
「俺でいいのか?」
「ユウト以外では、私たちは一つになれません」
アルカが答える。
「分かった。接続してくれ」
『最高管理者認証』
『十三艦隊統合指揮系統、成立』
窓の外で変化が起きた。
十三の異なる艦隊が、同時に同じ光を灯す。
銀河最強の七女王。
管理文明の六統括個体。
本来なら決して同じ指揮下へ入らない艦隊が、一つの巨大な軍として再編されていく。
『新規組織名称を設定してください』
「名前なんて必要なのか?」
「識別のため必要です」
グレイスが答える。
「では、ユウト様直属銀河統合――」
「俺の名前は入れるな」
「家族艦隊」
リリィが提案した。
十三人が一斉にリリィを見る。
「お父様と、お母様候補たちの艦隊です」
「母親候補はまだ決まってない」
「では、家族候補艦隊」
「余計に変だ」
作戦中に名前で揉める余裕はない。
「一時的に救助艦隊でいい」
『組織名称、最高管理者直属・銀河救助艦隊として登録』
「直属を付けるな!」
訂正する時間はなかった。
「転送座標、統合完了」
ルナが手を握る。
分裂していた十三の座標が、一つへ重なった。
「門を安定化。通過可能」
「行こう」
空間統括旗艦が、巨大な転送門へ入る。
後方では五千二百万隻の艦隊が、同じ門へ向かって動き始めていた。
◇
転送中の時間は、ほんの数秒だった。
激しい光が消える。
窓の外へ現れたのは、星空ではなかった。
視界のすべてを埋め尽くす、巨大な金属の壁。
「これが中央母艦?」
「はい」
マリアが静かに答える。
惑星より大きな船だと聞いていた。
だが実際に目の前へすると、船という言葉では表現できない。
無数の都市を抱えた人工世界。
その表面では、赤と青の光が入り乱れている。
「戦闘が起きてるのか?」
「継承派と独立派が、母艦内部の制御権を奪い合っています」
中央母艦から、数百万隻の艦隊が出現する。
半数は青い光。
残る半数は赤い光を灯していた。
『中央母艦継承派より通信』
『後継管理者の帰還を確認』
『全艦、最高管理者を護衛せよ』
青い艦隊が、俺たちの前へ防御陣形を作る。
続いて赤い艦隊から通信が届いた。
『相良ユウトへ最終通告』
『七基を破壊し、単独で中央制御核へ来訪せよ』
『拒否する場合、先代最高管理者の生命維持を停止する』
「生命維持装置の状態は?」
俺が尋ねる。
フィアと生命統括個体イヴが同時に解析を始めた。
「停止まで残り十一分」
「急がないと」
「中央制御核までの侵入経路を確保します」
セレスが全艦隊へ命令を送ろうとした、その時だった。
『先代最高管理者より、緊急通信』
通信画面に母親が映る。
先ほどより顔色が悪い。
それでも青い瞳は、はっきり俺を見ていた。
『ユウト』
「今助けに行く」
『来ては駄目』
「何を言ってるんだ?」
『独立派が狙っているのは、私の命ではありません』
母親の背後。
透明な装置のさらに奥で、巨大な影が動いた。
人でも、機械でもない。
中央母艦の奥深くに、何かが封じられている。
『あれは独立派ではない』
『四十年前、あなたを逃がした理由』
母親の声が震えた。
『中央母艦そのものが、目を覚まそうとしている』
直後。
惑星より巨大な船全体に、青い光が走った。
中央母艦から、銀河全域へ声が響く。
『後継管理者、相良ユウトを確認』
『全封印を解除』
『管理文明による宇宙再編を再開する』
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