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第12話 配偶者候補が来る前に、七人が迎撃会議を始めた



『管理者個体の配偶者候補六名を配送する』


『七基との競合を想定し、全員に銀河制圧能力を付与済み』


 その通信が届いた直後。


 窓の外に待機していた七艦隊が、一斉に戦闘配置へ移行した。


「全員、武器をしまえ!」


「まだ攻撃していません」


 アルカが静かに答える。


「到着地点を包囲しただけです」


「艦隊で囲むことを迎撃準備って言うんだよ」


「配偶者候補六名は、全員が銀河制圧能力を保有しています」


 グレイスが軍事情報を表示した。


「放置すれば、銀河全体の安全保障に重大な影響を与える可能性があります」


「まだ何もしてないだろ」


「ユウト様との婚姻を目的としている時点で、すでに重大な脅威です」


「銀河の安全と関係ないよな?」


「私たちの精神的安定に関係します」


「完全に私情じゃないか」


 七人は否定しなかった。


 アルカたちの前には、すでに巨大な作戦図が展開されている。


 作戦名。


 外来配偶者候補無害化計画。


「作戦を中止しろ」


「無害化とは、必ずしも破壊を意味しませんわ」


 ベルが微笑んだ。


「中央母艦との航路を封鎖し、配送そのものを不可能にするだけです」


「それをやったら向こうとの話し合いができなくなるだろ」


「管理文明との交易は存在しません。経済的損失はありませんわ」


「そういう問題じゃない」


「なら、到着後に帰りの運賃を渡す?」


 ディナが作戦図へ新しい項目を加えた。


「海賊星域の境界まで丁寧に送り届けるよ」


「本人たちの話くらい聞こう」


「話を聞く必要がありますか?」


 アルカが首を傾げる。


「中央母艦によって選定された候補です。本人たちの意思は重要ではありません」


「それなら、なおさら確認しないと駄目だろ」


 誰かに勝手に結婚相手として選ばれ、見知らぬ銀河へ送り込まれる。


 もし本人たちが望んでいないなら、俺と同じ被害者だ。


「まず会って、どういう事情なのか聞く。それまでは攻撃禁止だ」


「接近も禁止しますか?」


 グレイスが尋ねる。


「俺たちのところへ来るんだから、接近は禁止できないだろ」


「身体的接触についてです」


「挨拶程度なら問題ない」


 七人の表情が険しくなった。


「握手も?」


 ベルが聞く。


「普通の挨拶だろ」


「抱擁は?」


「それは断る」


「口づけは?」


「絶対に断る」


「婚姻契約への署名は?」


「しない」


「寝室への侵入は?」


「追い出す」


 七人の表情が少しずつ明るくなる。


「子供を作ろうとした場合は?」


 フィアが尋ねた。


「そこまで来たら本人たちより中央母艦を説教する」


「お父様は、私以外の子供を作るのですか?」


 ベッドから小さな声がした。


 眠っていたリリィが、いつの間にか目を覚ましている。


「作らないから安心しろ」


「では、配偶者候補は不要です」


「リリィまで七人側につくな」


「家族候補登録上、私はお父様の第一子です」


 リリィはベッドから降りようとした。


 まだ足元が不安定だったので、俺が抱き上げる。


「無理に歩くな」


「お父様に抱かれるため、わざとではありません」


「疑ってないよ」


「ですが、次回は利用します」


「そこは素直に言わなくていい」


 ディナが小さく笑った。


「この子、誰かに似てきたね」


「誰ですか?」


 アルカが即座に反応する。


「全員じゃない?」


 リリィを抱いたまま、俺は中央母艦から届いた配偶者候補の資料を確認した。


 六名とも、名前と簡単な能力だけが表示されている。


 第一候補。


 戦略統括個体セレス。


 管理文明の全軍事機能を統括する最高指揮官。


 第二候補。


 生産統括個体ノア。


 恒星、惑星、艦隊を単独で製造可能。


 第三候補。


 記録統括個体ミラ。


 管理文明の全歴史と技術情報を保有。


 第四候補。


 空間統括個体ルナ。


 銀河間転送および空間制御を担当。


 第五候補。


 生命統括個体イヴ。


 管理文明に属する全生命体の設計者。


 第六候補。


 中央統括個体マリア。


 中央母艦そのものを管理する最高位知性。


「全員、役職が重すぎる」


「銀河制圧能力を保有しているという情報に偽りはないようです」


 エリスが資料を解析する。


「六名が協力した場合、既知銀河文明の九十九・八パーセントを七十二時間以内に無力化できます」


「残りの〇・二パーセントは?」


「私たちです」


「そこで張り合うな」


 クレアが第一候補の資料を指さした。


「このセレスっていうのが一番強い?」


「純粋な戦闘指揮能力では、私たち七人を上回る可能性があります」


「戦ってみたい」


「戦うな」


「一回だけ」


「駄目だ」


「武器なしなら?」


「殴り合いも戦闘だ」


 ベルは第二候補の資料を見つめている。


「恒星や惑星を製造できるとなれば、財力という概念が通用しませんわね」


「対抗する気か?」


「いいえ。ただ、交易連合の全資産を再評価しているだけです」


「それを対抗するって言うんだ」


 フィアは第五候補のイヴから目を離さない。


「全生命体の設計者」


「気になるのか?」


「私の技術の原型を作った存在かもしれません」


「会って話を聞きたい?」


「はい」


 フィアは素直にうなずいた。


「その後で、どちらがお父様の健康管理に適しているか決めます」


「結局そこへ戻るのか」


 七人それぞれ、候補者たちに興味は持っている。


 ただし、友好的な興味とは言い難い。


「十二時間後に到着するんだよな?」


『肯定』


 黒い先遣艦が答えた。


「迎え入れる場所を用意できるか?」


『当艦内部に管理文明用の接続区画が存在する』


「なら、そこで話そう」


「危険です」


 グレイスが反対した。


「相手側の設備内では、不測の事態が発生した場合に対応が遅れます」


「じゃあ、この会社の会議室を借りる?」


 部屋の隅に控えていたノア銀河開発社の役員たちが、一斉に首を横へ振った。


「弊社では、銀河制圧能力を持つ六名をお迎えする設備がございません」


「普通の会議室でいいんですけど」


「床や壁が耐えられない可能性があります」


「何をする前提なんですか?」


 最終的に、アルカの総旗艦にある外交会議場を使用することになった。


 七人の艦隊は距離を取って待機。


 武器は封印。


 候補者たちの護衛艦隊も、会議場へは入れない。


 身体検査については、本人たちの同意を得てから実施する。


「絶対に勝手なことはするなよ」


「承知しました」


 七人がそろって答える。


 返事が良すぎる時ほど不安になる。


「具体的に禁止事項を決めます」


 エリスが空中へ一覧を表示した。


 攻撃禁止。


 監禁禁止。


 洗脳禁止。


 買収禁止。


 身体改造禁止。


 空間追放禁止。


 財産没収禁止。


 候補者の母艦を勝手に解体する行為も禁止。


「最後は誰がやろうとした?」


「私ではありません」


 七人が同時に答えた。


「絶対誰か考えてたよな?」


 誰も目を合わせない。


     ◇


 会議の準備が終わったのは、それから二時間後だった。


 到着予定までは、まだ十時間ある。


「少し休ませてくれ」


「私の部屋をご利用ください」


 アルカが即座に答える。


「ここから最も近いのは私の客室ですわ」


 ベルが割り込む。


「お父様は、私と寝ます」


 リリィが俺の服を握る。


「子供一人で寝るのが不安なら、一緒にいてやるけど」


「では、決定です」


「決定が早いな」


 その時。


 旗艦全体が大きく揺れた。


『緊急警報』


『管理文明転送反応を検知』


「到着まで十時間あるはずだろ?」


『予定を無視した個体が、一名のみ先行転送を実施』


 七人が一斉に立ち上がった。


「誰ですか?」


 アルカが尋ねる。


『第一配偶者候補』


『戦略統括個体セレス』


 会議場の中央に、黒い光が集まる。


 人の形が作られていく。


 現れたのは、漆黒の長い髪と赤い瞳を持つ女性だった。


 黒い軍服。


 腰には剣。


 アルカたち七人を見ても、わずかにも表情を変えない。


「転送直後の武器所持を確認」


 グレイスが警告する。


「武器を置きなさい」


「拒否します」


 女性は七人を無視し、俺だけを見た。


 そして、ゆっくり片膝をつく。


「戦略統括個体セレス。管理文明全軍を率い、ただいま到着いたしました」


「予定より早くないか?」


「他の候補者と同時に到着すれば、最初にお会いできませんので」


 アルカの瞳が細くなる。


「不正な抜け駆けです」


「百十七年間、管理者を発見できなかった端末に言われる筋合いはありません」


 会議場の空気が一瞬で凍りついた。


「今、何て言った?」


 クレアの翼が広がる。


「事実を述べました」


「戦争は禁止だぞ!」


 俺が叫ぶと、アルカたちはぎりぎりのところで動きを止めた。


 セレスは俺の前へ歩み寄る。


「お会いするまでに、二つの目的がありました」


「配偶者候補として来たんだろ?」


「それが一つ目です」


「もう一つは?」


 セレスは俺の目の前で、軍帽を外した。


「中央母艦へ帰還していただくことです」


「回収には応じないと伝えたはずだ」


「承知しています」


「なら、どうするつもりだ?」


「あなたが自ら帰りたいと望む状況を作ります」


 背後で七人が再び戦闘態勢へ入る。


 セレスは気にする様子もなく、静かに続けた。


「中央母艦には、あなたの本当の家族が生存しています」


 俺の動きが止まる。


「家族?」


「はい」


 セレスの赤い瞳が、わずかに柔らかくなった。


「あなたを人類圏へ逃がした女性」


「映像に映っていた人か?」


「管理文明の先代最高管理者」


 セレスは俺へ一枚の映像を差し出した。


 四十年前。


 赤ん坊だった俺を冷凍睡眠カプセルへ入れた、青い瞳の女性。


「あなたの母君は、今も中央母艦でお待ちです」


 そして映像の中で、その女性がゆっくり目を開いた。


『ユウト』


 四十年前の記録ではない。


 現在の映像だった。


『お願い』


『私を、助けに来て』


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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