第9話 マフィアとの交渉
魔道具の性能が良過ぎて売れないという現実があるが、性能を悪くするなんてことは俺には考えられない。
それはエンジニア魂に反することだからだ。
俺はそれで考えた。
目立つとやばいこの世界では、人身売買やマフィア、闇バイトが存在するため、慎重に行くしかないと思った。
「マイラ、準備はできてるか?」
「うん、うち、短剣も2本装備したし、暗器の針も持ってるからね~!」
朝一で買ってきたスペルブックをしっかりと抱きしめ、色々とプログラムを書き込んだソースコードのファイルも確認した。
これからマフィアに殴り込む。
「よし、出陣するぞ」
マイラと二人、スラムの一角の家に入った。
入ってすぐの入口の影に男が潜んでいるのが見えたのは、マイラのおかげだ。
彼女がいなかったら、男が完全に影に入っていたため、俺は気が付かなかっただろう。
「おいマイラ、今日は早いじゃねぇか。特上の獲物でも仕留めたのか?」
「元締め、いる?」
「ああ、いつもの奥の部屋だぜ」
見張りは顎をしゃくり、入れということらしいと俺は受け止めた。
不測の事態を想定して何パターンかの作戦を立ててはいる。
俺達は奥の部屋に入った。
中年の男が三人いて、椅子に座っているのが元締めで、脇に立っている二人が用心棒だろう。
「おいマイラ、上納金はどうなってる?」
「いいえ、交渉に来たっつーの!」
「上納金の交渉か?」
「うちさ、マフィアから足洗いたいんだよね~」
「冒険者ギルドに出入りしてるって噂だが、裏切るつもりならその考えは捨てとけ。稼ぎの良い子飼いを手放したくないからな。足を洗うなんて考えも無しだ」
「まあまあ、対価なら用意したから心配するな」
俺は口を挟んだ。
「小僧、黙って引っ込んどけ」
「見てみろよ」
俺は魔法で2メートルほどの火球をただ出した。
用心棒が緊張したのが分かったが、火球が動かないのを見て、僅かに緊張を解いた。
プログラムの変更はこんな感じだ。
fire_ball.size_cm=200; /* 大きさ */
strcpy(fire_ball.command_the_magic, "燃え続けて浮かぶ"); /* 魔法への指示 */
while(1); /* 無限ループ */
「対価はお前たちの命だ。マイラが足を洗うのを大人しく認めろ」
「ほう、面白いこと言うじゃねぇか」
元締めが眉をしかめ、目がギラリと光った気がした。
これはプランBが必要かもな。
「おい、魔法の対策なんか何もしてないとでも思ってんのか? ちょっとでも壁にぶつかれば大爆発だぜ、笑わせるなよ」
「相打ちか。それも良いだろうな。」
「ふはははっ、脅す奴ってのは焦りまくってる、玉砕もいいとこだな。弱気な姿勢が見え見えだぜ」
参ったな。
はったりでもないが、死ぬのも勘弁だ。
やはりプランBだ。
「じゃあ、全員の喉を掻き切るしかないっしょ!」
「マイラ、落ち着け。冷静にやろうぜ」
俺は火球の魔法を強制終了し、代わりに水球を魔法で出した。
水球の構造体はこれだ。
typedef struct {
int temperature; /* 温度 */
double x; /* X座標 */
double y; /* Y座標 */
double z; /* Z座標 */
int size_cm; /* 大きさ */
char shape[80]; /* 形状 */
char command_the_magic[80]; /* 指示 */
} water_magic;
水球は徐々に大きくなっていく。
敵の用心棒が武器を構え、マイラも短剣を抜いて構えた。
大きくする部分はこう。
water_magic water_ball;
water_ball.size_cm=10; /* 大きさ */
strcpy(water_ball.command_the_magic, "水分を集めて浮かべ"); /* 魔法への指示 */
while(1){ /* 無限ループ */
water_ball.size_cm++;
}
水分を集めるので、大きくなるのに時間が掛かる。
本当に水で殺すのなら、樽に入れた水でも用意しないと。
「弱気が何だって?」
「小僧、脅しは全く通じねぇってことを教えてやるぜ」
「脅しじゃねえ、交渉だ。それとも水魔法に呑まれて、溺れるか?」
マフィアを舐めていた訳ではないが、怪我ぐらいは覚悟しないといけないかなと思った。
水球の大きさはすでに3メートル近くなり、用心棒が壁際に下がっている。
椅子に座っている元締めが、その水球に飲まれそうだった。
「よし、俺の話を聞け。お前の言い分、さっさと言ってみろ」
「ふふふっ!」
マイラが含み笑いをする。
「このマフィアの影のボスは今日から俺だ。マイラを解放しないなら、俺がボスになる」
「がはは。小僧、お前、俺は気にいったぜ」
そう言うと思ったよ。
これは想定していた。
影のボスは名誉会長みたいなものだが、切り札でもある。
しかし、影のボスには実質の権限はない。
「じゃあ、選べ。溺死するか、俺を影のボスとして認めるか、どっちだ?」
「仕方ねぇな。負けちまったぜ。お前、なかなかやるな。名前はなんだ?」
「タイトだな」
「おい、タイト。お前の提案、俺は認めるぜ。今日からお前が影のボスだ」
「やっぱりね~、ビビってたんじゃん! ウケる~!」
俺は水球を消した。
そして、自作の高く売れるはずの魔道具50個を机の上に置いた。
「これを売ればしばらくは足りるだろう。マフィアの人間には、何か真っ当な仕事を見つけさせるんだな。影のボスとしてはごく潰しは要らない」
「おい、影のボスってのは口を出さねぇもんだぜ」
「影のボスに逆らうの? マジでヤバくね?」
「ガキは黙れ! お前みてぇなガキが情婦気取りなんざ、百年早ぇんだよ!」
「言っておくが、マイラは友達だ。金を出して、たまに何か頼むのが影のボスってことだろう。そして、ケツ持ちをするってわけだ」
「その通りだが、くっ、俺の弱気を見抜かれたか。ああ、そうだよ。魔法対策なんてはったりだ。スラムの小さいマフィアにそんな金なんかねぇ。ところで、上への上納金はどうするつもりだ?」
異世界のマフィアにも上がいるのかと思った。
日本の反社組織もそうだったなと考えた。
スラムにアジトがあるだけで、ここの組織が弱小なのは解っていた。
「魔法ネットを使わせろ。対策を練る」
俺は、マイラが闇バイトの情報を得た魔法ネットの魔道具があるのを聞いて知っている。
情報を得た者が優位に立つ、それが常識だ。
そろそろ、魔法システムへの賄賂も送らないといけないと考えている。




