第2話 異世界憑依の理由
『おい、どうなっている?』と書き込む
【説明.Json読み込み】
『俺専用の説明データがあるんだな。なぜだ?』
【ことの発端は博士Xに末期癌が見つかったことです。死を受け入れた博士は残された孫の幸せだけが気掛かりでした。博士は100年以内に世界を滅ぼす脅威を探し始めました。そしてふたつの危険要素を見つけたのです。人体ドローン計画とワープ計画です】
『ふたつとも計画の概要は解る。人体ドローンもヤバいが、ワープも暴走するとヤバそうだな』
【推測の通りです。そしてこの二つの計画を葬り去るためにAI技術を駆使して計画を建てました】
『俺に人体ドローンとワープを使ったな。危ないんじゃないか?』
【博士はAIにハッキングして、技術をAIに解析させ、阻止するために安全な方法を模索しました】
『それで出た答えが毒を以って毒を制すか』
【その通りです。その問題解決策を瞬時に理解する能力こそが求められていたものです】
『言っておくが、俺の能力はそこそこだぞ。大企業には勤めているが、平社員レベルだ』
【理解しています。あなたは今までプロジェクトを失敗したことがありません】
『逃げたことは何回かあるぞ』
【それは解決策を全て検討して、手に余ると判断されたのではないですか】
『まあな、出来そうな野心家とかをおだてて押し付けた。適当な奴がいなければ首にしたい奴に押し付けた』
【愚痴は言いますが、悩んだことがないという性格分析が出てます】
『そうなんだよな。人生でそこそこ深く悩んだことがない。後悔も皆無だ。サイコパスと何度も言われたよ』
【あなたは道を良く聞かれたり、どちらかと言えば空気の読めないお節介者です】
『そうだな。多い日は1日に5回も道を訊かれたことがある。落とし物の届ける回数が滅茶苦茶多かったので、子供の頃に警察から粗品みたいなのを貰ったことがある。あたなは正直良い子供って書かれた文房具だったな』
【どれも解決してますよね。落とし物は持ち主の推理までしている】
『100%ではないが概ねな』
【とにかくあなたは分析力と問題解決力が素晴らしい】
『問題が起こったら、悩む必要なんかないだろう。精一杯やって、無理なら人を頼って、それでも無理なら課題にして心の片隅に置く。仕事は首になりたくないから、無理やり解決したけどな』
【その諦めと全ての失敗を糧にする考え方がレアなんです。普通は悩むとそこで止まります。あなたは止まらない】
生きる意味が見いだせなくて、悩まないが、ただ惰性みたいに生きている。
課題だから、生き甲斐探しは暇があれば、続けてはいる。
理解と分析が早いので、沼る前にすぐに飽きてしまうが。
自分の才能というか限界もすぐに見える。
伸び悩みは課題にはするから、飽きてもたまにやったりする。
道具とか買うと、使わないと勿体ない。
話のネタに多趣味はうってつけだし。
現在、不幸でもないし、幸せでもない。
虚無感でもないし、充足感でもない。
超劣化ミーミルの泉(知識の泉)を飲んだ基礎能力の低い人間だな。
満たされない虚しい思いだけが続いている。
リジュネ状態で、永遠に砂漠を歩かされている気分だ。
『悩んで止まって意味があるのか?』
【いいえ、ですが、そこまで割り切れないのが普通です】
『平和的なサイコパスだからな。どうしても必要なら犯罪も考えるが、犯罪のほとんどは非効率だ』
【選ばれたひとつの理由がそれです。手段は選ばないが、温厚ではあります】
『まあな。ところで短期ログアウトと言ってたが、何なんだ?』
【未完成技術なのでこうなってます。ワープ計画は空間だけでなくて時間も跳躍します。人体ドローンは現在は遺体にしか使えません】
『ふたつの技術の問題点が解ったぞ、ワープの方はタイムパラドックスだな。人体ドローンは生きた人間も可能になるんだろうな。ワープ技術は自由主義の大国。人体ドローンは独裁国だろう』
【すべてその通りです。やはり見込み通りです】
『物騒な未来は嫌だな。時間に関しては今もワープ技術で跳躍しているのか。戻ったのが、クリックしてすぐみたいだからな。人体ドローンはどれぐらいで生きた人間が可能となるのか判らないが、到達は早そうだ』
【人体ドローンはオペレーターとドローンが別々に動くと、記憶や知識のずれが生じてオペレーターが発狂するのです】
『だから俺は狂ってないのか。止まってたからな。ということは異世界のタイトも実質は停止しているのと同じか』
【ワープ技術の時間跳躍を使ってそれを実現しています】
『ワープは今、エネルギーしか送れないんだな』
【その通りです。質量があると必要なエネルギー量が膨大になります】
『他に伝えたいことは?』
【
1.後日、褒美があります。
2.異世界の神と遥か昔に接触してAI技術を伝えました。
3.異世界で死亡すると日本のあなたも死亡します。
4.異世界の身体は電気ショックをワープさせて蘇生しました。
5.神との取引であなたに対する助けは送れません。
6.異世界から魔法技術を持ち帰り地球の滅亡を阻止して下さい。
】
あの青いイルカはやっぱりあれがモデルか。
異世界の魔法技術って言っても今のところプログラム魔法だぞ。
しかもC言語はAIが異世界の神に教えたんだろう。
何を持ち帰れと言うんだ。
いくつかアイデアは浮かんだ。
そのうちのどれかが大当たりだろう。
異世界の言葉が解るのはAIが異世界語を俺の脳にダウンロードしたんだな。
ドローン操作してからのタイトの記憶と知識が俺の脳に入っているし、タイトの脳には俺の記憶と知識が入っている。
異世界言語を脳にダウンロードするなど容易いはず。
異世界の生活知識をダウンロードしない理由はいくつか考えられるが、ヤバそうだから訊かない。
『褒美は何だ?』
【持ち帰った魔法技術はあなたの特許となります】
『会社は辞めた方が良さそうだ』
【それを推奨します。地球の救済確率が上がります】
『異世界の俺の行動はモニターしているのか?』
【はい、監視してます。賄賂の件は見事でした。あの発想は普通ないですね】
『後進国だと賄賂が物を言う。剣を見たから、異世界の文明度とモラルに賭けてみた』
【短期ログアウトの鍵は満足感です。魔力は感情に影響を受けます。個人差があるので満足感だけなのか不明ではあります】
『実質、時間が止まってるってことは浦島太郎になったりはしないんだな?』
【異世界での時間は老化とは関係ありません】
一晩、日本で過ごし、朝一で辞表を出した。
どうやら地球を救わないといけないらしい。
そして、昼頃にまた異世界に強制ログインさせられて、あの門の所に立っていた。
ビープ音は相変わらず鳴っていて、思い知ったかと思った。
みみっちい復讐だが、これが今の精一杯だ。
これが消えなきゃ面白いことになりそうだ。
一矢ぐらいはダメージとなったかなと思う。
いつか殺そうとした正妻とやらは償わせてやる。
「ありがとう」
助けてくれたメイドに礼を言う。
「私も逃げます。もうお会いすることもないでしょうけど、お元気で」
「メイドさんも」
そう言って。俺とメイドは街で別れた。
屋敷の方向に中指を立て、あばよ言い捨てて、振り返らず大通りを歩き、王都の街の人混みに紛れた。
追っ手が来るのを予想して、俺はダメージと疲れを感じながら路地裏に隠れる。
しかし、そこで力尽きてしまったようだ。




