第1話 異世界へ
なんだこの目線は、背が縮んだせいだろうか。
胸が痛いし、あばら骨が折れてる気がする。
「ぐっ。痛い。やめろ」
兵士に腹を殴られ、死の危険を感じた。
後頭部を殴られた。
なんで殴られるのか分からないし、意図も掴めない。
やばい、殺す気で攻撃されている。
事情も知らずに、死にたくない俺は、とにかく時間を稼ぐことだけを考えた。
俺はうつぶせになって亀の姿勢を取り、手足と頭を引っ込めて身を守る体勢を整えた。
柔道の技術を生かしている。
この身体は子供だというのに、大人二人が殴る蹴るなんて何を考えているのか、理解に苦しんだ。
良心はないのだろうか。
ガシガシと蹴られて痛すぎる。
防御姿勢をとっているから多少はましだが、これは死ぬかもしれない。
こんなことで死にたくない。
俺はとにかく考え、たしか、自室でAIに楽しいこと一覧をリンク付きで表示してもらって、それから、ウマ億光年の観光旅行というゲームのリンクをクリックしたはずだ。
なんでこうなるのか、俺には理解できない。
VRゲームにしては痛みがあるのが不思議だ。
あり得ないことだと思う。
AIにこんなことは不可能なはずだ。
ここは豪邸の屋敷で、俺を暴行しているのは剣を腰に吊るした男が二人だ。
彼らが喋っている言葉は外国語のようだが、聞いたことがないのに意味がわかる。
目の前に5センチぐらいの青いイルカが浮かんでいるのを見つけた。
また、タイトルに魔法呪文プロンプトと書かれたウインドウもあった。
「いつでも魔法実行って言って!」
どうやら異世界のようだ。
ウインドウには痛いやめて助けてといった悲鳴が入力されている。
音声入力に違いないが、その文字が邪魔だ。
「コントロールA、バックスペース」
よしよし、消えた。
「炎を発生させろ! 魔法実行!」
「炎を出したよ! 出てるはず!」
どこを見ても、出ていないじゃないか。
この無能。
「出てないぞ! 魔法実行!」
「原因は判ってるよ。これはね、失敗したか、魔力がないんだ」
笑顔の青イルカにムカつく。
そういうことはもっと早く言え。
消したい。
よし、絶対に消そう。
「坊ちゃまに何をしてるの! 坊ちゃま、使ってください! お飲みください!」
メイドが騒ぎを聞いて駆け付けたらしい。
目の前にメイドが投げた小瓶が転がってきた。
ポーションかなと思い、今の状況では飲むしかないと感じた。
俺はポーションを飲んで、少しだけ力が増えた気がした。
これが魔力なのかと考える。
どうやらマナポーションだったらしい。
青いイルカからは使えない匂いがプンプンしている。
こうしてやる。
「お前を消す方法! コントロールA、コントロールC、コントロールV、これを30回繰り返す。……リターン!!!」
推定10億文字のプロンプトを食らわしてやったぜ。
青いイルカが消えた。
スッキリだ。
これで良い。
俺は半透明のキーボードが現れたのを見た。
しかも、見慣れた106キーボードの配列だった。
「やった!これで勝利だ!」
魔力が少ないのは解っているし、失敗はできない。
呪文プロンプトに関しても、異世界にAIはミスマッチだと感じている。
魔法生物や知能ある生き物として考えなければならない。
青イルカは恐らく下っ端で、あいつより本体は千倍、賢いはずだ。
「お代官様(魔法システム様)に、酒、山吹色の菓子、あーれーを用意できるのですが、少々頼み事が……」
空中に『我に相応しい酒、菓子。あーれーとは何だ?!』と表示されたのを見て、俺は成功の手ごたえを得た。
「もちろん! 酒(便利ツールプログラム)、菓子(強化パッチ)、あーれーはあれ(溜まった余分なデータを盛大に吐き出したいでしょ)を用意できる! きっと気持ちいいですよ」
空中に『我にそれは魅力的だが……』と表示されたのを見て、もうひと声だと思った。
「ではあーれーした後のデータを子供(外部記憶装置)を作っていれます。繋げれば好きにアクセスできます」
空中に『我に子供が、気に入った。何でも言ってみろ』と表示されたのを見て、やった成功だと思った。
「魔力消費量を1億分の1にして下さい」
空中に『良かろう。そなたの異世界のプログラムを呪文プロンプトに入れよ』と表示されたのを見て、思考が読まれていると実感した。
ショートカットキーができたのだから、当然読まれているのだろう。
どうやら魔法は呪文だけでなく、イメージでも補間しているようだ。
よし、こんなのはどうだ。
キーボードのキーを叩く。
【
#include <stdio.h>
void main(void)
{
printf("\a"); //ビープ音
}
】
半透明なソースコードが浮かんだ。
ファイル名beep.cでセーブ。
そして、アップロード。
けたたましく庭に響くビープ音。
成功だ。
兵士ふたりは突然の聞きなれない音に驚いたが、その背後に忍び寄ったメイドには気が付いていなかった。
「死ね!」
メイドが蹴る。
「ぐっ……!」
「ぬぐむん……」
メイドが兵士達の股間に蹴りを入れ、兵士ふたりは転がって悶えた。
俺は心の中でざまぁと喝采を送った。
「坊ちゃま、今すぐお逃げください!」
メイドの話では、俺の名前はタイトで、公爵家の次男で庶子だ。
産みの母親は亡くなっていて、正妻が俺を殺そうと画策したらしい。
他にも色々と聞いた。
「ありがとう。でもやることが」
キーボードのキーを叩く。
【
#include <stdio.h>
void main(void)
{
while(1){
printf("\033[5mバリアブル公爵は貴族の風上にも置けない。実の息子を殺そうとした。税も誤魔化している。罪のない人を何人も暗殺している。\a"); //点滅文字とビープ音
}
}
】
文字が門の空中に固定され点滅を繰り返し、ビープ音を連続させた。
体感では魔力は欠片も減っていない。
ざまあみろ。
俺はなぜか日本の自室でパソコンの前に座っていた。
夢じゃないよなと思った。
『お帰りなさい。人体ドローンの短期ログアウト完了』とAIからのメッセージがモニターに表示された。
あとがき
『異世界で俺だけがプログラマー』のリメイクです。
異世界ファンタジーですが、SF的な要素が多いと思います。
頑張って10万字以上を目指したいです。




