第4話 開かれた扉と、やる気ゼロの司祭
豪華な馬車に揺られながら、湊は窓の外を眺めていた。
街道を走る馬車の車輪は、本来ならガタガタと振動を伝えるはずだが、なぜか湊が座っている場所だけは、雲の上に浮いているかのように滑らかだった。
「(……これも地母神の畏怖の効果か。道そのものが、俺を揺らさないように凹凸を消してる気がするな……俺、もしかして地母神さんに嫌われてる?)」
なんだかちょっと落ち込むな。
馬車が到着したのは、深夜。
辺境の交易都市にある古びた教会の前に停止した。
太陽の印の旗は掲げられているものの、壁の塗装は剥げ、神聖さよりも「役所」のような生活感が漂っている。
馬車から降りた湊は、固く閉ざされた古びた扉を見上げる。
辺境の小さな教会と聞いていたが、見上げるほどには大きなものだった。
すると、音を立てることなく、湊を歓迎するように扉が開く。
誰も触っていない扉が開いた奇跡に、騎士たちは、「やはり本物だ」と囁きあった。
湊はそんな抑えきれない歓声を背後に、いい加減この過剰な演出に飽き飽きしていた。
そこへ、面倒くさそうにあくびをしながら、中年の司祭が姿を現した。
「……あー、カイル隊長。ご苦労さまです。中央の巫女様から連絡は受けてますよ。『至高の御方』をお連れするとか何とか」
司祭――バレルは、カイルの階級章を見て一応は深々と頭を下げるが、その態度はどこか投げやりだ。彼は出世争いから脱落し、この辺境に飛ばされてから、神への信仰も、権威への敬意も、とっくに枯れ果てていた。
バレルは湊を一瞥し、心の中で毒づく。
「(……綺麗な顔したお坊ちゃんじゃないか。中央の連中も、こんな『貴族の道楽』に騎士団を動かすなんて、平和なこった)」
「バレル司祭! ミナト様は、伝説の月の……!」
カイルが熱弁を振るおうとするが、バレルはそれを手で制した。
「はいはい、隊長。そういうのはいいですから。……あー、ミナト様でしたっけ。部屋は用意してあります。一応、一番いい部屋(といっても掃除はしてませんがね)を使ってください。飯は一階に用意させますよ」
「(……ああ、助かる。この人くらいの、適当な対応が一番落ち着くわ)」
湊は、過剰に神格化してくる騎士たちよりも、サラリーマン時代によく見かけた「やる気のない窓口担当者」のようなバレルの態度に、むしろ親近感を抱いていた。
しかし。
バレルが「とりあえず案内しますよ」と、湊を教会の中へ招き入れようとした時だ。
ボオォォッ!!
「うわあああ!?」
教会の入り口に置かれた、聖なる火を灯す魔導灯が、湊がその横を通り過ぎた瞬間に爆発的な勢いで燃え上がった。
火はバレルを焼くことはなく、しかし彼を威嚇するように激しく逆立ち、そして湊の方へと優しく「お辞儀」をするように揺れた。
「……なんだ!? 爆発か!? ったく、この灯火もガタが来てやがる。修理予算なんてねえってのに!」
バレルは焦げた眉をさすりながら悪態をつく。
一方、背後のカイルたちは、その奇跡に「おおお……聖火が主を歓迎しておられる……!」と咽び泣き、石畳に額を擦りつけていた。




