第3話 太陽の騎士と、聖火の意思
「えっと、」
湊が目の前で跪く騎士に困惑していると、一際良さげな装備を纏った男性が、震える声で発言を求めてきた。
「は、発言しても……よろしいでしょうか? 尊きお方……」
「え、いいですよ。というか立ってください」
「滅相もございません……ッ!」
男は顔を上げることすら恐ろしいようで、石畳に額を擦りつけたまま続けた。
「いずこの貴き方か存じ上げぬ我らの無知をお許しください。……お名前を、お伺いしても?」
「ミナトですけど。……あの、そんなに畏まらなくても、ただの道迷いで……」
「ミナト様……! おお、その銀髪、そしてこの肌を刺すような、清冽なる静寂の気配……! まさか、太陽神様と対をなす神話の存在……『夜の主人』が、これほどお若き姿で降臨されるとは……!」
「ええと、神様じゃないです。迷子というか……」
俺の言葉が言い終わらぬうちに、騎士たちの間に電流が走ったかのような衝撃が広がった。
彼らは「真の姿」が見えているわけではない。ただ、彼らの奥底にある生存本能が、目の前の青年に向かって「抗うな、跪け」と絶叫しているのだ。
「な、なんと……! 自らを『ただの迷子』と称されるとは……!」
リーダー格の騎士が、感極まったように声を震わせる。
「強大な力を持ちながら、地位に固執せず、現世を彷徨う旅人として振る舞われる……。その底知れぬ謙虚さ、慈愛に満ちた眼差し! まさに神話に語られる『隠遁せし月主』の記述そのもの……ッ!」
「(…………話が、全く噛み合わない)」
俺はただ「道に迷った」と言っただけなのに、彼らの中では「高貴な神が正体を隠して下界を視察している」という超解釈に変換されているらしい。
ふと、俺の背後でパチパチと音がした。
見れば、騎士たちが持っていた松明の火が、彼らの意志に反して俺の方へと優しく傾いている。
熱くはない。
むしろ、春の陽だまりのような心地よい温かさだ。
【太陽神の親愛】が発動中
火の属性を持つ事象は、あなたを親愛なる友として歓迎します。
「見ろ……! 我ら太陽騎士団が命よりも大切にする『聖火』が、ミナト様を祝福している……!」「……太陽神様が、これほどまでに親愛を示されるお方など、お一方しかおられぬ……!」
騎士たちが次々と、地面に額を擦りつける勢いで平伏し始めた。
いや、待ってほしい。
さっき俺の職業と種族、**【エラー】**だったよね?
エラーってことは「該当なし」とか「バグ」ってことじゃないの?
なんで神様全肯定みたいな扱いになってるの?
「あー……とりあえず、その、頭を上げてください。首、痛くないですか?」
「……ッ! 我ら卑小な者の体調までお気遣いいただけるとは! 嗚呼、なんと慈悲深い……!」
何を言っても「徳が高い」方向にしか受け取られない。
世界全体が俺に対して「忖度」のフルコースを振る舞っている。
まさか、ずっとこれってわけじゃないよね?
カイルと名乗った騎士の隊長は、泣きながら俺を豪華な馬車へと誘った。
「ミナト様、ひとまずふもとの街の教会へ。あそこの司祭は……少々世俗に塗れておりますが、我ら太陽騎士団が全力で御身をお守りいたします!」




