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月夜の迷い子  作者:
第一章 月は地上に降り、人はそれを奇跡と呼ぶ
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第2話 歩くたびに世界が忖度してくる件について

「・・・よし。現状は、把握した。俺は異世界に転移した。

しかも、バグレベルのチート山盛りで。

この容姿もその一環なんだろう」


湊はしばらく、呆然と湖に移る銀髪の自分を見ていたが、我に返ってつぶやいた。

そして、自分に必死に言い聞かせる。


綺麗になった湖に移るのは、銀髪のイケメン。涼やかな切長の目だが、人相が悪くはない。

どちらかといえば、黙っていても賢そうに見える。いわゆるミステリアスクールな外見だった。

もちろん、記憶にある俺の顔ではない。

記憶は朧げだが、多分違う!

そもそも、現代日本にこんな容姿いないだろ!?


湊は、ため息を堪えた。

目の前に浮かぶ半透明のステータス画面には、環境適応やら、創造神の寵愛やら、この世界を知らない俺でも以上だとわかるものばかり並んでいる。

見るからに、「お前死ぬことなんて早々ないから好きにしなさい」と言わんばかりのチート。


物語のように神様と会ってもいないし、そもそも死んだ記憶もないのに、気前が良過ぎないか?

誰がくれた能力かはわからないが、正直言って、不気味だ。

あまり過信し過ぎないほうが良いかも。

ま、寵愛ってついてるところを見ると、神様の中では、創造神が一番の候補かな。


「・・・ここで考えても始まらないか。まずは、人里を探そう」

森を抜けようと、綺麗にした湖に背を向けて、一歩踏み出した。

その瞬間だった。


ガサリ、と音がした。

目線の先の木々や、草花がビクッと震え、まるであの伝説のモーゼのように、左右に道を開けた。

「え?生きて・・・えっ?」


思わず、足を止める。

植物たちは怯えるように、微かに震えながら、依然として道を開けている。

奥の方の木々も習うように動いて、首を垂れるように、梢を下げた。


なんだこれ。

「あ、地母神の畏怖って、これか」

畏怖っていうか、完全に恐怖じゃん。

おかげで、朝露でズボン濡れないし、足も枝とかで怪我しなさそうだけど、なんか気まず・・・。


「えっと、ありがとな」

湊は、なんとなく礼を言い、木々から目を逸らしながら、間を通りぬけた。



木々が恭しく道を開ける「モーゼ現象」に引き気味になりながらも、俺は森を進んでいた。 驚くべきことに、この森の歩き心地は最高だった。


「……絨毯かな?」

俺が足を載せる直前に、地面の凹凸が平らになり、ふかふかの苔が絶妙なクッションとなって足を包み込む。

【地母神の畏怖】、恐るべし。

大地そのものが、俺の靴が汚れることすら許さないという意志を感じる。


おまけに、喉が渇いたなと思えば、近くの木の枝がしなり、これ見よがしに瑞々しい果実を目の前に差し出してくる。

【水神の敬愛】のせいか、その果実には驚くほど清らかな水分が凝縮されていた。

「至れり尽くせりすぎて、逆に怖いんだけど……」


そんな贅沢な散歩を楽しんでいた時だった。

「グルルルルッ……!!」

森の奥から、明らかに友好とは程遠い、低く唸るような声が響いた。

見れば、茂みの奥から体長3メートルはあろうかという、漆黒の毛並みを持つ巨大な狼が現れた。 目は血走っており、鋭い牙からは毒々しい涎が垂れている。


「あ、死んだわ」

一瞬、前世(?)の感覚が呼び起され、身がすくむ。

どう見ても、初心者がレベル1で遭遇していい相手じゃない。

だが、その恐怖は1秒も持たなかった。


カチッ、と脳内で何かが切り替わる音がした。


【威圧(自動調整)】が発動しました。 対象の戦意を完全に消失させます。


「……え?」

瞬間、巨大狼の動きが止まった。

それどころか、奴の全身がガタガタと目に見えて震えだす。

さっきまでの獰猛な眼差しはどこへやら、今はまるで「顕現した破壊神を目の当たりにした子犬」のような怯えきった表情だ。

狼は、前脚を折り、地面に頭を擦りつけるようにして平伏した。 クゥーン、と情けない鳴き声を上げている。


「いや、戦えよ。……いや、戦わなくていいんだけど」

あまりの落差に脱力する。

どうやら、俺のステータスにある『威圧』は、俺が何もしなくても「お前、俺に逆らうとか正気?」というプレッシャーを全方位に垂れ流しているらしい。


狼はその後、俺が通り過ぎるまで微動だにせず、俺が視界から消えた瞬間に脱兎のごとく森の奥へ逃げ去っていった。

……たぶん、あの狼は一生トラウマを抱えて生きることになるだろう。


「……これ、人里についても大丈夫か?」

自分の存在そのものが、この世界の生態系や常識をぶち壊している気がしてならない。

不安を抱えつつさらに進むと、ようやく森の出口らしき明かりが見えてきた。



そこには、街道のような道と――複数の松明の火が揺れていた。

「あ、人だ! すいませーん!」

思わず声を上げ、駆け寄ろうとした俺だったが。

向こう側にいた人々――革鎧を着込んだ騎士らしき集団が、俺を見た瞬間に一斉に武器を落とし、その場に膝をついた。

「……は?」


どうやらこの世界、忖度そんたくしてくるのは植物や動物だけではないらしい。

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