第1話 月夜の転移と、過剰なステータス
月城湊は、頭上に輝く大きな蒼銀の月を見上げた。
「どこだ・・・ここ?」
鬱蒼とした森の中。
消え入りそうな声で、湊は辺りを見回す。
そばには、大きな湖があるが、見覚えはない。
直前の記憶は、会社からの帰り道、欲望に負けて、コンビニでアイスを買ったところだった。
車に轢かれたわけでも、過労死しそうになった記憶も、ない。
「というか、めっちゃ汚いな。この湖」
目の前にあるのは、清らかな湖とはとても言い難い。
もはや、大きな沼と言った方がいいだろう。
以前は美しい水を湛えていたのだろうが、何があったのか、周囲の草花は枯れ、底の見えない黒沼と化していた。
湊は、その大沼の側の大木にもたれかかるように、眠っていたようだった。
どこにいるのかもわからなければ、自分が何者なのかも判然としない。
覚えているのは、直前していたことと、名前くらい。あとは、一般常識くらいだろうか。
とはいえ、一般常識として知っていることからすれば、あの大きな蒼銀の月は、漫画的過ぎたが。
「どうしたもんかな・・・」
目覚めてから、湊は途方に暮れていた。
まあ、現実逃避に過ぎない。
あの月からすると、ここは自分が知っている地球ではないか、もしくは朧げな知識の方が間違っているか、だ。
そして、その知識からして、あり得ない事象ではあるが、架空のお話としては、「よくある展開」ではあった。
安全な場所かわからない以上、まずすべきことは———
パンッ!!!
湊は、頬を一つ叩いて、気合を入れる。
「よし、言うぞ。す、ステータス」
妙な気恥ずかしさと共に、この展開での定番のセリフを口にし、そして、目の前に開いたシステムウィンドウに、絶句した。
「ま、まじか。本当にでた・・・。てことは、ここ異世界?」
湊は、月明かりの下、森の中を見回し、遠くから聞こえる獣の声に、気を取り直して、ウィンドウを覗き込む。
急いで移動しなければならないが、その前に自分の力を把握しておかないと・・・!
「って、なんじゃこりゃ?」
***
名前:ミナト(ミナト・ツキシロ)
種族:———【エラー】
職業:———【エラー】
レベル:1(上限突破済)
体力:測定不能
魔力:測定不能
運:満月のため測定不能
【基本性能】
・環境適応:毒・呪い・低温高温・酸欠など、生存に適さないあらゆる外的要因をシャットアウト
・自動翻訳:全言語を認識・出力
・インベントリ:時間停止付き無限収納
・威圧(自動調整):敵対者の戦意を喪失させる
・鑑定:対象の名称と概要を表示
【固有性能】
・夜の主人:夜または暗所において全事象を支配
・静寂の領域:範囲内の動きを鎮静または鈍化させる
・水鏡の真実:液体を媒介にあらゆる情報を参照
・夢の渡りびと:睡眠中の他者の意識に干渉可能
・月下の癒し:月光のもとで、あらゆる損傷を回復
・不浄を嫌うもの:穢れを自動的に浄化
【加護】
・———【エラー】
・創造神の寵愛:世界そのものがあなたを愛します
・太陽神の親愛:あなたの行先に、常に温かい光がありますように
・水神の敬愛:すべての流れは、あなたを潤すために
・地母神の畏怖:大地はあなたの道を妨げません
【称号】
・記憶を失いしもの
・夜に愛されしもの
***
「え?・・・え、何これ?」
言葉もない。
「ツッコミどころが多すぎる・・・」
基本ステータスは、ほぼエラー。
基本スキルはまだいい。パッシブなのかそれ的なスキルは混ざっているがまだいい。
固有スキルもまあ、チートだが、チートすぎるが、まだいい。
何この加護の数!?
いや、待て。
信用していいのか?このステータス。
エラーばっかりだし、これは流石におかしいのでは?
湊は、脇の黒沼を振り返し、ステータスを見て、頷く。
「試してみるか・・・そうだ、試すだけ。ちょっと試すだけ」
俺は固有スキルの一つ、不浄を嫌うものを確認して、沼に近づいた。
あとは、この沼の汚れが、不浄と認識されれば。
いや、こんなばっちいなら、大丈夫だろ。
「えーと、どうすればいいんだ?」
沼のそばに近寄り、沼を覗き込んで、考えることしばらく。
湊は、誰もみてないことを確認して、沼に手をかざし、つぶやいた。
「き、綺麗になあれ」
いや、流石に、無理か?
なんか呪文とか・・・。
と、悩む間もあまり無く、湊が手を翳したその下から、ひとりで小波がたち、波紋が広がり、瞬く間に大沼は、清らかな水を湛えた湖に変貌した。
「うわ、まじか」
光り輝くようなことは起きなかったものの、自分が手を翳したその真下から、水が波を打って、綺麗に変わっていく。
そんな姿を見て、湊は、流石に認めざるを得なかった。
「まじか。異世界、来ちゃったよ」




