間話 神々の遊戯、あるいは至高の迷走
それは、天界の退屈が生んだ、美しくも奇妙な「間違い」だった。
太陽聖教総本山
黄金の光が降り注ぐ聖域で、太陽の聖巫女クラリスは、物理的な「尊死」の危機に瀕していた。 祭壇から溢れ出すのは、神託という名の「弟自慢」だ。
『ねえクラリス、見て! 私の可愛い弟が、あんなに必死に「自分は人間だ」と思い込もうとしているわ! あの必死な顔、たまらなく愛おしいと思わない!?』
太陽神にとって、月の神である主人公の降臨は、少し困った、けれど最高に可愛い「おままごと」に映っていた。
かつて、月の神ミナトは天界から一人の人間を覗き込んでいた。
その人間は同名。過酷な労働に身を削り、終わりある命を必死に輝かせて生きる「月城湊」という魂。 永遠を生きる神にとって、一瞬で燃え尽きるからこそ眩いその魂は、あまりにも羨ましく、美しく見えたのだ。
『あの子ったら、あんな「人の子」の泥臭い生き方に影響されちゃうなんて、変な趣味よね。でも、そんな風に迷走しちゃうところも、お姉ちゃんとしては「萌え」の一言に尽きるわ!』
神の望みは、神の力によって叶えられる。
「終わりある人間になりたい」と願った月の神は、自ら記憶を封じ、憧れた魂の記憶を自分に焼き付けて地上に落ちた。
太陽神は、それが一時の気まぐれだと知りながらも、弟が選んだ「社畜」という設定すら「可愛いオプション」として全肯定し、地上を焼き尽くさんばかりの熱視線(親愛)を送っていたのである。
「……神様、お願いです。その熱い想いをあと三割削ってください。聖都の噴水がさっきから沸騰しています」
クラリスの懇願も虚しく、太陽神は『弟の安全(忖度)のためなら、世界の理なんていくらでも書き換えてあげる!』とはしゃぎ続けるのだった。
月光教総本山
一方、静寂に包まれた月光教の聖域では、月巫女ルナが血の涙を流さんばかりの悔しさに震えていた。
「……なんということ。お月様が、あんな『太陽の女』に好き勝手されているなんて……!」
月光教が主の降臨に気づいたのは、太陽神が「弟見つけた!」と世界中に光を撒き散らした後だった。 ルナたちが占術で見たのは、太陽の過剰な加護(忖度)に晒され、「バグだ、請求が怖い」と震える主の痛々しい姿。
月光教の教義では、月は静寂と安らぎを守るもの。
それなのに、今の主は太陽の熱に晒され、本人の意図しない「奇跡」を強制的に発動させられている。
「太陽神様は仰られた……『弟が人間になりたがっているから、お姉ちゃんが全力でサポートしてあげる』と。ですが、あれはサポートではありません、ただの拉致です!」
ルナは、人間の巫女としての限界を噛み締めていた。 神が直接介入してくる太陽聖教に対し、月光教は主が自ら力を封じているために、接触すらままならない。
「お月様……いえ、ミナト様。あなたは、あんなにボロボロになって輝いていた人間の魂に、何を見たのですか? 私たちが、必ずやその『迷い』からお救いし、夜の静寂へお連れ戻しいたします」
太陽神は「可愛い弟のバカンス」を盛り上げるために。 月光教は「太陽の魔の手から主を奪還」するために。
二つの勢力が、ミナトが隠れ住む辺境の教会へと、それぞれの「正義(と愛)」を掲げて進軍を開始する。
その頃、当のミナトは――。
「……なんか今日、日差しが物理的に『よしよし』って言ってる気がするんだけど、気のせいかな。怖いな。明日には寿命とか10年分くらい引かれてそうだな……」 と、教会の隅で膝を抱えていた。




