↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode33「アリオーソ」
PR
196/234

㉝-4 セシュールの隠れ里①

 静けさは先ほどの現場をより一層、異常なもののようにしていく。

 薄暗く気味の悪い空間は、マリアの不安を増大させた。


「……皆いる?」


 人の気配に気付いたマリアは、声を上げた。

 それぞれの声が聞こえだし、マリアは胸をなでおろした。


「皆いるみたいね。ティナ……、先生、傷はどう?」

「私は大丈夫ですよ、マリア」

「本当に? ごめんなさい、私……」

「大丈夫です。嘘ではありませんよ。アドニスさんの魔法で、出血は止まっています。ですが、ゲオルク——レオンは脇腹と足を撃たれていますから」


 ティナはレオンへ手を差し伸べた。その手に覆いかぶさるように、大きな手が伸びてくる。


「アルベルトさん……」

「止血してあっても、ティナさんは怪我人だ。無理をすると、マリアが辛くなる。レオンは俺が支えるよ」

「……有難う御座います」


 アルベルトの差し出した手を取らず、レオンは気まずそうに視線を外していた。


「どうしたんだ、レオン」

「アル……。僕は……」


 ティナはアルベルトを見つめると、首を横に振った。レオンの複雑な事情を考え、アルベルトは手を引いた。


「レオン、お前の事情を俺は知らない。だけど、無理はしないで頼って欲しい」

「…………」

「はい。その時はお願いします」


 レオンの代わりに、ティナがそう答えた。

 ぎくしゃくした三人を見つめていたマリアに、水滴が顔に降ってきた。


 マリアはその場を確認した。


 ひんやりとしており、ある程度の湿度があるようだった。


 少なくとも、診療所からは離れているだろう。

 とても静かであり、銃声も聞こえてこない。

 話し声が響いていることから、洞窟の中である可能性もある。


 少なくとも、ラウルやレンは近くにはいないようだ。


「ここはどこ?」


 マリアの言葉に、ティナが顔を上げた。


「ボーデン湖の地下のようですね」

「ボーデン湖の、地下!?」


 ボーデン湖といえば、スイスとドイツの国境沿いにある巨大な湖のことである。

 マリアはボーデン湖を訪れたことは無いが、その地下にこのような空間があることなど知る由もない。


 その時、マリアの耳に足音が聞こえてきた。

 足音の方角からは、明かりが揺れている。

 その光は足音と共に、揺らめきながら近づいていた。

 それがランプの光であることに気付いたのは、マリアだけではない。


「何者だ!」

「待って、アドニスさんかも……」


 そう言いつつも、マリアは手に持つ拳銃を握り直した。

 ティナを撃った瞬間が、頭を過ぎる。


「……子供の背丈です」


 ティナの言葉と同時に、洞窟が明るく照らされ、目が眩んだ。


「こちらに居ましたか」


 眩しくて見えないが、少年のあどけない声が聞こえた。少年はランプを自分の背丈より上へ向けると、その正体を現した。


「良かった。撃たれてしまうかと思いました」

「お前は誰だ」


 警戒するアルベルトだったが、少年は妙に落ち着いていた。

 少年は帽子を被っており、継ぎ接ぎだらけのオーバーオールを着ていた。


「ヴァルク・ラダ・チェーニーです。とはいえ、名乗っても分からないかと」

「そうだな」

「俺はレスティン・フェレスから来た一族の末裔です。そう言ったら伝わると、聞いていますが」


 ヴァルクと名乗った少年は、オーバーオールのポケットに手を入れた。

 拳銃を取り出すと思ったアルベルトは、マリアを庇うように手を広げた。


「これを見せれば、少しは信じてもらえますかね」


 その手には銀に輝く懐中時計があった。


「それ、レンの!」


 マリアの声に、少年は反応する。


「そうですよ。……レンの名前までご存じなんですね」

「君は一体……」

「そうですねー。僕は認めていませんが、一応息子みたいな感じですかね」

「何?」


 マリアはアルベルトを宥めると、前へと歩み出た。


「私たち、そのレンに撃たれたりして来ているの。わかる? 信用するには、その懐中時計は逆効果よ」

「……そうか。間に合わなかったのか」


 『間に合わなかった』

 ラウルも同じことを口にしていた。アルベルトだけではなく、マリアもその言葉には反応した。


「間に合わなかったって、どういうこと?」

「うーん。何かあれば、ここへ皆さんを飛ばすから、説明するようにと伺っています。俺は丸腰の子供ですから、撃ち殺したくなったらいつでも撃ってもらって構いませんので……」


 ヴァルクは笑みを浮かべた。その笑みに、マリアはアルビノの少年レンを思い浮かべた。


「怪我人もいるのでしょう? ここはさすがに場所が悪いので、俺らの村に案内します。といっても、年下の弟みたいなのが居るだけで、もうほとんど絶(・)滅(・)しているのですが」


 少年のトゲのある言葉に、マリアとアルベルトは顔を見合わせた。

 少年ヴァルクとのやり取りを黙って見ていたティナが、ゆっくりと立ち上がった。


「有難う御座います。ラダの子よ」


 深々とお辞儀するティナへ、ヴァルクは目を丸くした。


「驚いた。ラダって聞いて、ラダの子って言われるなんて。久しぶりだなあ」

「…………」

「案内する村の名は、セシュールの隠れ里って言います。ちゃんとした名前はないんですよ」


 少年はランプを掲げると、手招きした。


「どうぞ、こちらです。俺らは、貴女方を歓迎します」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。