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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode33「アリオーソ」
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㉝-2 止まぬ銃声

 レンの持つ拳銃からは、僅かに煙が上がっていた。


 崩れ落ちたレオンは脇腹を抱え、床に這いつくばった。脇腹からは、どくどくと血が流れだしていた。


 レンが、レオンを撃ち抜いた。

 その衝撃は、マリアだけではなく、アルベルトを更なる絶望へと落とした。


 レンは無表情のままだ。

 その表情からは、アルビノの少年であったレンや、ティニアとして生きてきたレンの面影など感じられない。


 レンは構うことなく、ゆっくりとアルベルトへ銃口を向けた。彼女の小さな手に握られたリボルバーは、金属特有の冷たい光を放った。


「貴方は、アルブレヒト様と同じ色をしています。そして、とてもよく似ている——」


 拳銃を向けられたアルベルトは怯むことなく、レンへ一歩近づいた。


「ティニア。お前が拳銃なんて似合わない、銃を下ろすんだ」


 近づいてくるアルベルトを前に、レンの指が引き金に触れた。

 その瞬間、レオンは傷口を抑えながら叫んだ。


「ダメだ! アルを撃つなんて、絶対に駄目だ……!」

「ああ、ゲオルク。喋らないでください……」


 駆け寄ったティナが、レオンを抱き起こした。

 尚も、レオンの脇腹からは血が流れ落ちていく。


「ぐあ……」

「ゲオルク!」

「だ、大丈夫です。致命傷は避けられています。そうでしょう、レン」

「…………」


 レンは何も言葉を発さず、アルベルトに拳銃を向け続けた。レンの冷淡な瞳もまた、アルベルトへ向けられていた。


「ティニア、どうしたんだ。目を覚ましてくれ!」


 アルベルトの問いに、レンは一瞬だけ眉をひそめた。

 レンはまるで人形のように固い無表情のまま、その言葉を発した。


「私は正常です。我が主に似た方」

「ティニア……!」

「皇帝令に従い、この場を制圧します。このタスクは最重要であり、エラーではありません」


 それでも一歩、アルベルトは彼女を求めて前へ出る。

 リボルバーの回転式シリンダーが僅かに動き、金属の鈍い音が鳴り響いた。


 アルベルトは身を躱したが、頬を銃弾が掠めた。


「アルベルト!」

「だ、大丈夫だ。掠っただけだ」


 マリアの決死の叫びに、アルベルトは手を挙げて対応する。


「ティニア、止めろ……。止めてくれ、頼む……」

「承服出来ません」


 レンの拳銃が鈍い光を放った。


 レオンはティナを振り切り、アルベルトを庇うように前へ歩み出る。

 レンの銃口が、レオンへ向いた。

 そしてその銃声は再び轟いた。


「ぐあっ…………」


 レオンは右足をレンに撃ち抜かれ、その場に崩れ落ちた。


「動かないよう、伝えた筈です」


 マリアはその光景に、レンへの想いを振り切る。


「ッ——!」


 見据えたレンに、マリアはかつての襲撃者の少年を思い浮かべた。

 あどけなく笑い、奇妙な言動を繰り返す少年レン。

 共に暮らし、ティニアとして生きてきた彼女は、もはや存在しない。


 彼女は敵だ。

 敵であると言ったのは、レン自身だ。


 マリアは静かに、拳銃をレンへ向けた。


「レン!」


 マリアの指は震えることなく、引き金に触れた。

 一瞬で、ラウルはレンの腕を引っ張り、庇うようにその銃撃を腕で受けた。


「人形め! レンを撃つなど——」

「マリア、止めて!」


 ティナの叫び声に後ろ髪をひかれたまま、マリアは思い出していた。

 初めて拳銃を握った日のことを。

 これが、人を殺すという術であることを。


 マリアはレンを庇うラウルへ向け、再び引き金を引いた。


 銃声が轟き、ラウルは軽々とその弾丸を避けた。

 構うことなく、マリアは更に引き金を引く。

 マリアからは、朱色の光がぼんやりと浮かび上がった。

 足元には、同じ色の文様が広がっていく。


「ッ——!」


 乾いた音がした。

 マリアの拳銃からは、煙が上がっていた。


 マリアの目の前で、ティナが静かに崩れ落ちた。

 それ以外の音は、何も聞こえなかった。

 ティナはラウルとレンを庇うように、マリアの前へ飛び出したのだ。


「ぐう……!」

「嘘——。な、なんで……! 嘘でしょ……」

「お願い、撃たないで。あなたは優しい子、撃たないで、銃をおろして」


 マリアの手が、指が、歯が震えていく。

 全身に警報音が鳴り響くようだった。


 握っていた拳銃が、カタカタと揺れ出した。


「あ、ああ……。私が、ティナを——」


 マリアの悲痛な叫びだけが、その部屋に空しく響いていく。

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