↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode32「D-Mollの消失」
PR
192/237

㉜-5 G線上の歪み③

 女性の甲高い声の主、マリアはアルベルトと会話をしているようであり、緊迫した待合室の様子が嫌でも聞こえてくる。


 レオンは拳を強く握ると、ティナへ振り返った。


「機械特有の反応、人間的な反応もある……」


 レオンの頭に、一つの言葉が湧きあがってきた。


 ケルンメンシュ。

 奴らが研究の末にたどり着いた、機械人形に変わる技術。


 悍ましい研究は、孤児たちの犠牲の上に成り立っていた。


 その研究に手を貸したのは、レオン自身だ。

 手に取るように、幾重の言葉や技術、魔法の類が頭の中で割れんばかりに自己主張を始めた。


「そうか。彼女はケルンメンシュに……否、機械人形との融合か——?」


 ブツブツと独り言を言い始めたレオンは、何かに気付いたようにティナとレンを交互に見つめた。

 確かにレンの魂が入っている体は、ティニア・ボレードという機械人形の躯体に見える。


 彼女は過去、講堂で爆散し、跡形もなく砕け散ったはずだ。

 それも、レオンの前世の目の前で——。


「まさか、君の躯体にレンの魂を入れたのか……!?」


 ティナは頷いた。


「……そうです。回収しきれなかった部分は、ケルンメンシュの技術を用いたのです。奴らが、キメラと呼んでいた技術です」

「なんてことだ……。では、今まで彼女を苦しめていたのは——」

「レンの中に私のデータ、記憶や人格が無理やり入り込み、書き換えが発生していました」

「書き換え⁉ ……本来の人格と君の人格が入り混じり、記憶を混乱させていたというのか」

「……はい」


 レオンは息を飲む。


「くそ! 奴らの技術が進歩したのは、僕のせいじゃないか!」


 奴らに、膨大な書物の解読を強要されていた。

 その資料の中には、魂の研究や機械人形の製造方法が書かれていた。


 奴らの名を、ヴェルローラという。

 おぞましいその名を、憎悪を込めて、心の中で唱えた。


「魂の研究……。レンの魂を捕獲し、君の躯体に入れたのか——」

「……ゲオルク。彼女を救えますか?」


 全ての責任は自分自身にある。

 ゲオルクとして生きてきた記憶が、痛みが、それを物語る。


 押し黙ったレオンに対し、ティナは言葉を続けた。


「私のデータによって全て書き換わった後、通常は一度シャットダウンします」

「それが今だと……?」

「全ての機能を一時的に停止した上で、すぐに再起動がおこります。もう手遅れかもしれませんが、どうかレンを——」


 ガタン。


 ティニアとして生きていたレンがベッドの上で一瞬震え、静かに目を開けた。その瞳は淡くもはっきりとしている。


「レン……! 良かった。目覚めたのですか」

「待ってください。再起動したのであれば、彼女は既に——」


 レンは人形のように、まず上体を起こした。遅れて頭がついていき、ゆっくりと顔を上げる。

 首だけをレオンとティナへ向けると、彼女は答えた。


「私はアルブレヒト様付きの機械人形、ティニア・ボレード。再起動を確認。全てオールグリーンです」


 手を開いては閉じるレンは、そう名乗った。


「そんな……」


 ティナはレンへ駆け寄り、手を差し出した。


「レン。私です、ティニアです。そして詩阿であった私です。レン、お願いします。私にとって代わらないで。記憶を忘れないで、思い出して……」


 ティナの必死の呼びかけに、レンは何の反応も示さなかった。それに違和感を感じたレオンは、ティナをレンから引き離した。


「待って欲しい、レンの様子がおかしい」


 ゆっくりとこちらへ体を向けたレンは、その虚ろな瞳の焦点が定まっていなかった。


「ゲオルク」

「……!」

「私はあのケーニヒスベルクではありません」


 レオンを振り切ると、ティナは声を荒げた。


「レン、しっかりしてください。貴女は私ではありません、お願い、思い出して……」

「待ってください。君は確かあの時——“ウイルス”に」


 刹那だった。


 突如、耳をつんざく鋭い音が響き、窓ガラスが粉々に砕け散った。容赦なく破片が処置室へと散らばる。

 ティナが反射的にレオンとレンの前に立ちはだかり、ガラスの破片を受け止める。破片は胸や腕、腹に細かく突き刺さり、赤く彼女を彩った。

 ティナは顔を歪ませ、その鋭い眼光を窓へ向ける。


 音の衝撃から、部屋に雪崩れ込んできたのはマリアであり、アルベルトだった。


「え、ティナ⁉ どうしてここに!」

「ティニア、気が付いたのか!?」


 慌ててレンのもとへ駆け寄ったアルベルトだったが、すぐに様子が可笑しいことに気付いた。


「ティニア……?」

「待って、アルベルト!」


 マリアが叫んだ。


 その時。

 影がかかり、皆は視線を窓へ向けた。


 窓の外に姿を現したのは、右眼に眼帯をした男——ラウルだった。


 その視線は冷たく、男の手に握られた拳銃が不気味に光り、部屋の空気を一瞬で重く凍らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。