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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode32「D-Mollの消失」
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㉜-3 G線上の歪み①

 フリージアは部屋で着替えていた。レンに用意されたネグリジェに袖を通し、ボタンを掛け間違えないよう、一つずつ留め終えたころだった。


 部屋の外から物音とアルベルトの叫び声が聞こえてきた。慌てて部屋を出ると、レンが意識を失い倒れているところだった。

 アルベルトに抱き起こされても、レンはぐったりとしている。


 激しく動揺したフリージアは顔に手を当て、絶叫した。


「ティニア様ああああ!」


 少女の絶叫はアルベルトの心を深く突き刺し、今までとは違う絶望を抱かせた。

 駆け寄ってきたフリージアの顔は真っ青だ。


 そんなフリージアを前に、アルベルトに抱きかかえられたレンは、ピクリとも動かない。


「しっかりしろ、ティニア!」

「そんな……。ティニア様、眼をあけて!」


 フリージアは、ぐったりとしたレンを見つめる。震える手でレンの頬へ触れた。頬は異常なまでに冷たい。


「……フリージアは、ここで大人しく待っていてくれ」

「え、ティニア様は⁉」

「すぐに診療所へ連れていく」


 アルベルトは自身の手が震えていることに気付いた。首を横に振り、両腕でレンを抱きかかえる。

 フリージアは力なく垂れ下がった手を取った。その手は指先まで冷たく、まるで人形の様だ。


 フリージアの歯は、がくがくと震えだした。


「だ、だいじょうぶなの?」

「……息はしている。いつもと違うが、きっと大丈夫だ」


 それは自分に言い聞かせる言葉。

 目の前のすべてが脆く崩れ去り、足元から奈落の底へ落ちるかのようだ。


「とにかく、お前は家に居てくれ!」


 アルベルトは診療所へ駆け出した。


 フリージアは立ち尽くし、その場に崩れ落ちた。アルベルトの遠ざかる足音だけが、フリージアの耳に残っていった。


 フリージアは床に転がっていた銀の懐中時計を手に取った。

 時計を頬に当てると、祈るように抱きしめた。



 ◇◇◇



 診療所へ駆け込んだアルベルトは息を切らせており、最初は話せる状態ではなかった。


 診療所のドアには、休診と書かれた紙が張り出されていた。

 構うことなく、アルベルトはドアを乱暴に叩いた。


 その音を聞きつけ、医師レオンが慌ててドアを開けた。レオンは一瞬で状況を察した。


「こちらです! 処置室へ!」


 レオンの案内で処置室へ入ると、アルベルトは検査台にレンを横たわらせる。アルベルトは息を切らし、その場に崩れ落ちた。


 レオンはすぐに脈拍を計測するものの、何も感じられない。浅くもない通常の呼吸だけが繰り返されており、その胸が上下する。

 レンの肌の冷たさは、一刻を争う事態を予感させた。


「何があったのですか!」

「あ……。ティニアが急に倒れたんだ」

「いつもと違う点はありませんでしたか?」

「……何かの切れるような小さい機械音がしたが——」


 その言葉に、レオンは深い不安を覚えた。


「……待合室で待っていてください」

「レオン! お願いだ、こいつを助けてくれ……」

「全力で対応します、さあ……」


 アルベルトは何度も頷き、処置室を後にした。

 レオンはレンの症状に覚えがあった。だが、それがはっきりと思い出せない。


「どうして……。彼女の症状に、心当たりがあるのに……」


 そう呟いた瞬間だった。

 背後に気配を感じ、レオンは慌てて振り返る。

 同時に、声が聞こえた。


「再起動がかかっています」


 ありえなかった。

 そこにはティナが静かに立っていた。ティナの表情は重く、張り詰めていた。

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