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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode31「スカーレットの夢」
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㉛-2 朝焼け

 リビングではフリージアが、あくびをしながら部屋から出てくるところだった。


「アルお兄ちゃん、おはようです。どうしたのですか? 顔色が……」

「おはよう。いや、問題ない。フロウこそ、一人でちゃんと眠れたか?」

「はい!」


 アルベルトが笑いかけると、フリージアもようやく笑顔を見せた。


「ティニア様は、今着替えています。あたしはこのままでいいかなって」

「そうか。朝日が昇るまで、もう少しある。水でも飲むか?」

「もう飲んできました」

「そうか」


 アルベルトはフリージアの前に跪いた。


「なあ、フロウ」

「……はい」

「ティニアと一緒にいるために、どうしたいか決まったか?」

「はい!」


 フリージアは強く頷いた。


「私、もっともっと勉強します。今は文字がやっと読めるくらいだけれど、本もいっぱい読みます。ティニア様が安心できるくらい勉強して、傍で支えていきたいのです」

「そうか。フロウはよく頑張っているよ。……不安なことがあれば、いつでも話して欲しい」

「アルお兄ちゃん……。ありがとう」


 フリージアはアルベルトに抱き着いた。

 幼いなりに、必死に考え抜いたことだったのだろう。


「何でもいいんだ。大したことじゃないことでも、相談したくなったら気軽に話してくれ」

「……あのね」

「どうした?」

「最近のティニア様、全然食べないじゃないですか」

「ああ、そうだな。確かに、痩せてしまったな」

「教会の神父様も、とても心配されていました」

「アドニスも心配していたのか。何か工夫をしないとだな」


 フリージアは頷いたところで、レンの部屋のドアが開いた。見慣れた灰色のワンピースに、茶色のカーディガンを羽織っている。


「遅くなりました。早く行きましょう。朝日が昇ってしまいます」

「そうしよう。ほら、フロウ」


 フリージアは二人の間に納まると、それぞれと手を繋いだ。


「私はずるいですね」

「どうしてですか?」

「ティニア様と、アルお兄ちゃんを独り占めしているから。私はずるいのです。えへへ」

 

 フリージアは年相応にはにかんだ。


「そんなことありませんよ。私も、フロウと居られて嬉しいですよ」

「ティニア様は、アルお兄ちゃんを独り占めしたいでしょ?」

「そんなことはありませんよ」


 可愛らしい会話を聞きながら、アルベルトは玄関のドアを開けた。


 外に出ると、太陽が丁度空へ上がっていくところだった。

 群青色の空が、東の空から淡い橙色へと染まり始めていた。


「きれい……」


 朝日に見惚れたフリージアが思わず呟いた。レンも朝日を見上げているが、表情に変化は見られない。

 アルベルトはレンを見つめた。


 朝日を映し、ティニアの瞳は金色に染まっていた。

 美しかった。朝日より、ずっと尊かった。


 あと何回、彼女と朝日を眺めることが出来るだろうか。

 あと何回、彼女を抱きながら眠ることが出来るだろうか。


 終わりが近づいているような気がして、アルベルトの心をざわつかせた。


 今日はフリージアを孤児院へ預けたら、彼女を診療所へ連れていく。

 医師のレオンなら、症状や痩せてしまったことに気付くだろう。


 アルベルトは目を閉じると、大きく息を吸いこんだ。


 先ほど浮かんだ風景の事が、頭を過ぎった。

 アルベルトは目を開けると、大きく息を吐き出した。

 あれは、何だったのだろうか。


 自身の身体が燃えるような感覚。

 昔から、炎に恐怖を覚えたことはなかった。むしろ、安心さえ感じていた。

 その理由にも疑問は残るが、心に引っ掛かるものがある。


 月だ。

 空一面を覆いつくすかのような、巨大な月は心をかき乱すようだった。


 地球で見慣れている月とは違っていた。


「どうしたのですか? 考えごとですか?」


 レンは心配そうにアルベルトを見上げていた。

 気付けば、建物や山の周囲が燃えるように明るくなっていた。


 アルベルトは、先ほどの光景を思い返していた。


「そうだ。あのあたりから、落ちていったような……」


 アルベルトの呟きを耳にしたレンは口元に手を当てると、首をかしげた。

 太陽は、ゆっくりと高度を上げていく。

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