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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode30「遺された研究施設で」
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㉚-5 眠るもの

 リビングでは、机で横たわるリェイラの側に、メイがクマのぬいぐるみであるミシェルを置いたところだった。リェイラは寝息を立てて眠っており、最悪の事態は避けられた。


 話したいことは色々あったが、ティナの提案でマリアは自室で横になっていた。

 ラウルに何処かへ行かないように再三に渡って忠告はしたが、当てにはならない。


 あんなことがあった後で休めるわけもなく、マリアは起き上がった。

 不意に、会話が耳に入ってくる。

 ティナとラウルだ。

 メイも同室に居ると思われるが、会話には加わっていない。


「聞き耳を立てるんじゃなくて、聞こえてくるんだものね……」


 マリアはそう呟いた。


 ◇◇◇



「もうすぐ夜明けですね」

「…………」

「ラウル」


 ラウルの返答はない。黙って椅子に腰かけたまま、腕を組んでいる。


「未だ私を許してはくれないのですか?」

「……判っているなら聞かないことだ」

「セキュリティーレベルを落としたまま、劇場に赴いたことですか?」


 尚もラウルは何も答えなかった。

 ティナは残ったお湯を沸かしなおすと、紅茶を淹れた。

 赤茶色で満たされたカップを手に取ると、椅子を引いて座った。ラウルとは多少の距離を置いたことになる。


 メイは何も言わず、リェイラを撫でていた。


「護衛の任務を、貴方一人に任せたことですか?」

「いい加減にしろ」


 ラウルはテーブルを叩いた。

 机で眠るリェイラの身体が僅かに揺れる。


 メイは呆れたように、ラウルを睨みつけた。


「いい加減にするのは貴方です。同志ラウル。結界を解いたのなら、静かにすべきです」

「黙れ」

「ティナもティナです。許す許さないは本人の心次第です。許して欲しいのであれば、心を最優先に保護すべきでは?」

「……そうですね。申し訳ありません」


 ティーカップを両手で覆うように持つと、ティナは水面を見つめた。自らの姿はティニア・ボレードに似てはいるものの、全く同じではない。


「そうですね。貴方の姉は、あの時四散してしまいました」

「ティナ……」

「メイも知っているのですね」

「はい。……マリアは知っているのですか?」

「直接は、未だ」


 ティナはマリアの部屋のドアを見つめた。恐らくマリアは起きているだろう。となれば、会話も聞こえている筈だ。隠すわけではないものの、面と向かって話しているわけではない。後ろ髪が引かれる。


「隠し事の多い奴だな」

「同志ラウル……!」

「フン」


 その時、マリアの部屋のドアが僅かに開いた。

 横になっていたはずのマリアは、心配そうに顔を覗かせる。


「私の事を気にして話せないなら、席を外すわよ」

「いえ、そう云う訳では……」

「そう云う訳なのだろう? ボレードが……」

「ラウルも、いちいち煩いのよ」


 マリアがそう言った時だった。リェイラがうめき声を上げた。


「う、ああ……」

「リェイラ、大丈夫ですか。メイはここにいます。ミシェルも」


 リェイラの小さな手を、メイがそっと握った。リェイラは尚も苦しそうに声を上げる。


「ミシェル……」

「そうです。ミシェルは此処にいますよ」


 リェイラは涙を零しながら、ミシェルを抱きしめた。


「また、夢を見ているのですね」


 メイは悲しそうに呟いた。


「夢?」


 マリアの問いかけに、メイは静かに頷いた。


「マリアも見たことがあるでしょう。紫がかった空に、広い草原。そして、黒い影——」

「おい、メイ」


 言いかけたメイを、ラウルが黙らせた。

 確かに同じような夢を、マリアは何度も見ている。


「……レスティン・フェレスの夢です」


 ラウルを無視するように、メイは答えた。


「レスティン・フェレスの夢……」

「母として覚醒し、母として成る過程。計画が失敗、中止しても、リェイラは夢と共に苦しみ続ける」

「母として……」


 ティナは静かに席を立つと、お湯を沸かし直した。ラウルのように、メイの話を止める素振りはない。


「ヴェルローラの悲願の為なのよね、母って……」


 マリアの問いかけに、メイは頷いた。


「はい」

「メイも知っているのね」

「私は設計者から、リェイラを守るようにプログラムされました。その過程で、母についても聞いております。……例えプログラムが無くとも、私のやるべき事は一つだけです」

「その母なんだけれど……」

「はい」


 メイはリェイラを撫でた。リェイラは落ち着きを取り戻し、寝息を立てている。


「一体、誰の母なの?」


 お湯の沸いた音がした。

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