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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode30「遺された研究施設で」
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㉚-3 出逢い

 メイはティナのような微笑みを浮かべると、マリアへ向き直った。

 尚も胸には手を当てており、敵意は感じられない。


「彼女——リェイラが最初に目覚めたのは、1940年です」

「1940年……」

「はい。1940年、12月24日です」


 アウローラの拠点が襲撃されたのは、1936年の12月24日だった。ヴェルローラはマリアを失い、リェイラの製造を始めたのだろうか。


 ラウルは物事をはっきりと言い切る。

 そのラウルが敵であると明言していったわけではないことを、思い返す。


「お判りいただけましたでしょうか」


 メイは胸を掴むように、身を乗り出した。

 ティナはもう警戒してはいなかった。


「お願い致します。このままでは、リェイラの命が危険なのです……!」


 メイは懇願するように、頭を下げた。


「危険って……。まさか、ヴェルローラの残党が!?」


 ティナは拳銃を握り直すと、周囲を警戒した。

 メイはすぐに首を横に振ると、マリアとティナを交互に見つめた。


「貴女方を招き入れるように提案したのは私です。御願い致します。同志ラウルがこの施設を訪れなくなって、もう直ぐでひと月が経過します」

「どういうこと?」

「同志ラウルは定期的に食糧を運んでくれました。しかし、それが尽きてしまい、リェイラには眠ることしか出来ませんでした」

「な……」

「リェイラは瘦せ細り、栄養失調を起こしています。どうか、お願いします。リェイラだけでも……」

「……どこに居るの? その、リェイラは」

「此方です!」

「待ってください、マリア!」


 マリアを止めようとしたティナの叫びに、マリアは首を横に振った。

 メイが目を一瞬光らせると、カシュンという軽い音が鳴った。すると、壁のような扉が音を立てながら自動で開いていく。


 扉が明けきる前に、メイは駆け出していた。


「この通路の先です! 熱源反応が感知出来ていると思われますが、彼女がリェイラです」


 マリアは神経を研ぎ澄ませた。

 通路は一本道で、差ほど長くはない。距離にして数十メートルと言ったところだろう。その奥に、広い部屋があり、熱源反応は一つだけそこに在る。確かに、何かがいる。


 今更疑おうとは思わないものの、ティナは拳銃を構えた。


「リェイラは小さいです。成長が遅いのではなく、成長できなくなったようです。それが、失敗の原因の一つでもありました」


 ラウルから、研究は失敗したと聞いている。となれば、リェイラも犠牲者のうちの一人ではないだろうか。


 マリアはティナへ頷いた。ティナも静かに頷くと、二人は通路へ足を踏み入れた。

 通路に黒焦げはなく、青白い光が足元を照らすように灯っていく。


「事故で火災が発生しましたが、この通路だけは燃えませんでした。設計者ゲオルクが作った秘密通路であったからです」


 メイは足音を響かせながら、通路を進んでいく。マリアはティナへ視線を泳がせたが、ティナは口元に力を入れたまま無言だった。


「ですが、研究や実験は既に失敗に終わり、施設の放棄とリェイラの破棄が決定した後でした。結果、私たちが跡形もなく焼失した事は、彼らにとっては喜ばしい事でした」

「喜ばしいだなんて……」

「着きました」


 メイは壁の前で立ち止まった。

 先ほどの扉のように、自動で開くのだろうか。


「開けます」


 メイの言葉に、ティナは銃に手をかざす。ティナなら、即座に対象を撃ち抜けるだろう。

 カシュンという軽い音と共に、ドアが自動で開きだした。

 ティナはマリアを庇うように、前へ歩み出た。


「——ッ!」


 扉が開き切る前に、マリアは走り出していた。

 だだっ広い部屋の中では、ピンク色の髪の少女がぐったりとして、浅い呼吸を繰り返していた。顔色や唇は青い。


「だ、れ……」


 か細い声がした。


「……ッ! しっかりして!」


 ティナが止めに入る前に、マリアは少女——リェイラを抱き起していた。


「マリア、罠かもしれません!」

「お願いします。助けてください」


 メイはティナの腕を掴んだ。


「貴女の事情は察しています。ですが、お願いします。リェイラだけでも——」


 メイは、銃口をリェイラから自分へ向けようとした。


「そんなことしてる場合じゃないわ!」


 マリアの沈痛な叫びは、二人の視線をリェイラへ向けさせた。


「息が浅いの!」


 ティナなら何とか出来るような、そんな気がした。


「ティナ、助けて……!」


 ティナは強く噛み締めると、マリアの元に駆け寄り、リェイラに手をかざした。

 ティナの手からは金色の光が淡く光り、リェイラを覆いつくしていく。


「危険な状態です。食事を最後に摂ったのは何時ですか?」

「一週間ほど前です」

「そんな……」


 食料など持ち合わせていない。例え持っていたとしても、これだけ衰弱していれば、固形物は飲み込めないだろう。


「御願い致します。どうか、リェイラだけでも連れて行って下さい。御願いです」

「ッ…………」


 マリアはリェイラを背負おうとしたが、ぐったりとしているリェイラを抱えることは出来なかった。

 ティナが首を支えると、マリアは腕に力を入れ、リェイラを抱き抱えた。


「とにかくここを出ましょう。このままでは、この子が死んでしまうわ……‼」

「転送出来そうですか?」

「正直、四人分の転送計算外だけれど、やってみるわ!」


 マリアの言葉に、メイは首を横に振った。


「私は此処に残ります」

「ダメよ、貴女も一緒よ」


 マリアの言葉を噛み締めると、メイは部屋の奥へ駆け出した。


「メ、メイ! 何してるの!」

「この子をおいてはいけません。リェイラのトモダチ、ミシェル」


 それは、大きなクマのぬいぐるみだった。白かったと思われるそのぬいぐるみは、煤汚れなのか黒ずんで見えた。


「私を連れていくのなら、ミシェルをお願いします」

「やってやろうじゃない! メイはその子を大切に持ってきて! 行くわよ!」


 メイは驚きつつも、しっかりと頷いた。


 マリアは目を閉じると、朱色の文様で皆を取り囲んだ。やがて四人とぬいぐるみは発光する。マリアはリェイラへの衝撃を抑えようと、強く抱きしめた。


「一か八かね。行くわよ、実体転送!」


 次の瞬間、四人とぬいぐるみはその場を後にした。

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