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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode30「遺された研究施設で」
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㉚-2 敵か味方か

 マリアが慌てて振り向いた時、暗がりの中で女が両手を上げていた。

 ティナは撃ち抜こうと言わんばかりに銃口を向けた。


「敵意はありません」

「まさか、機械人形……!?」


 驚くティナの言葉に、マリアにも緊張が走った。

 機械人形とは、ラウルと同じくレスティン・フェレスの技術で造られた存在だ。全身が機械で構成されている。


 徐々に目が、暗闇に慣れてきた。


 自分たちのいる場所は、部屋というよりも通路が正しいだろう。壁にはすす汚れのような黒い汚れが目立つ。前に見た光景と同じであった。


 マリアは改めて、目の前の女を見た。

 長い髪はマリアと同じように腰まであるものの、高い位置に一つに束ねられている。身長はマリアやティナと変わらない。

 服装は研究員が身につけるような白衣だが、事故にでもあったかのように、あちこちが破けている。


 機械人形の女は、手を上げたまま口を開いた。


「はい。私は機械人形です。名を、メイと申します。ここには、私以外では一人しかいません」


 メイはマリアへ微笑みかけると、一瞬で表情を変えた。無表情のまま、拳銃を構えたままのティナへ視線を移した。


「私のコアは胸に埋め込まれております。不本意ではありますが、気に入らなければ撃ち抜いて下さい」


 ティナでさえ、反応が一拍遅れた。

 拳銃を構え直したティナに、メイは言った。


「出来れば一発でお願い致します」

「待ってよ! こ、コア……⁉ じゃあ、あなたは人造人間なの?」

「否定します。コアとはメインコンピュータ、私の心臓部です」

「……間違いありませんね。彼女はレスティン・フェレスの技術で作られています」


 メイは瞬き一つせずにティナを、そしてマリアを見つめた。その青い瞳からは人工物のような冷たさを感じる。


「貴女の開発者は——」


 言葉を言いかけたティナの銃口が震えていた。


「私の開発者は、ゲオルクです」

「ゲオルク……?」


 マリアの言葉に、メイは頷いた。


「ヴェルローラで監禁されていた、研究者の一人です」


 淡々と語るメイを見つめるティナの銃口が、僅かに揺れていた。


「……是非、彼女に会って下さい。強制転送は、彼女が行いました。無礼をお許しください」

「彼女って?」

「はい。名を、リェイラと申します。私と彼女が、この施設にいる全メンバーです」


 押し黙っていたティナは、銃口を構え直した。

 ——リェイラ。コードにあった『Layla』の事に違いないだろう。


 リェイラが、ムッターゲフェースの二号機、母なる器の後継機かもしれない。

 呼吸を忘れるマリアを気にかけつつ、ティナは銃口をメイの心臓へ向けた。


「その前に、質問に答えて頂きます」

「何なりと」

「貴女がヴェルローラの構成員では無い証拠、リェイラという人物についての説明を求めます」

「尤もな質問ですね」


 メイは両手を下ろした。

 いつ撃ち抜いても構わないと言わんばかりだった。


 メイは壁を見つめると、その黒い煤けた汚れを指で触れた。


「この拠点は1945年に放棄されました」

「……世界大戦の終結した年ね」


 マリアの言葉に対し、ティナは頷きもしない。拳銃を握るティナからは、今にも撃ち抜かんばかりの緊張感が漂ってくる。殺気はピリピリとした痛みとして、マリアの肌を貫通していく。


 殺気を知ってか知らずか、メイは淡々と語った。


「放棄の原因は火災の発生と、開発対象の焼失によるものです。それ以後、ヴェルローラの工作員がこの施設を訪れることは一度もありませんでした」

「私が求めたのは、貴女がヴェルローラの構成員では無い証拠です」

「……私は機械人形です。個体で動けるとはいえ、彼らのメンテナンス無しに稼働し続けることは出来ません」

「ならば、ヴェルローラの構成員が出入りをしているのでは?」


 ティナは銃口を突き付けるように、指に力を入れた。

 メイに動揺は見られない。むしろ、微かに笑みを浮かべた。


「施設が放棄された後、私のメンテナンスを行った人物は、同志ラウルです」

「ラウルですって?」


 驚くマリアに対し、メイは頷いた。


「はい。では次に、私の分析は可能ですか?」

「分析? サーチのこと?」

「肯定します。ですが、分析は貴女ではなく、拳銃を構える貴女に御願いしたいのです。ラウルの癖を把握している貴女なら、直ぐに理解出来るでしょう」


 メイの言葉に、ティナの気配が変わった。


「……私が誰なのか、識別出来ているようですね」

「はい」


 メイはティナへ向き直した。


「貴女はティニア・ボレードの転生体です」


 断言するメイを前に、ティナは首を傾げた。


「……ティニア・ボレードは機械人形です。魂も無いのに、どうやって識別を?」

「設計者ゲオルクが、そのようにプログラムした。そう説明すれば、お判り頂けますか?」


 顔へ向いていた銃口が、一瞬だけ下へ動いた。


「まだ金色の加護の残る貴女なら、その色の識別に過ちがないことを理解出来る筈です」

「クッ……‼」

「ちょっ……! まだ撃たないで!」

「設計者が味方であるという可能性が、何処にあるというのですか!」


 ティナが声を荒げるところを見たのは、初めてかもしれない。

 ティナの気迫に、マリアでさえ圧倒される。


「ティニア・ボレードにとってはそうでしょう。ですが、シア様としては如何でしょうか?」

「…………」

「シアって……、ティニア・ボレードの転生体で、貴女の一つ前の前世よね?」


 マリアの問いかけに答えたのは、メイだった。


「はい。シア・ルージリアはルギリア帝国の後に作られた、ルゼリア王国の初代王妃です」

「は?」


 メイが何を言っているのか、マリアには理解できなかった。

 地球にある国なのか、それともレスティン・フェレスにある国なのか。それすらも分からない。

 ティナの話を顧みるのであれば、レスティン・フェレスの話なのだろう。


 マリアは自然とティナの反応を見てしまった。


 ティナは俯き、銃口はメイの足元に落ちていた。拳銃を握る指は震えており、歯を食いしばった。

 何をそんなに恐れているのか。マリアにはまだ半分も理解出来ない。


「全て、私のデータに組み込まれております」

「……ティナ、大丈夫?」

「ティナ様というのですか。記録しました。シア様からティナ様へ」


 名前の確認を始めたメイを無視すると、マリアはティナへ駆け寄った。


「ティナ!」


 背中をさするように触れると、ティナは拳銃を下ろした。

 

「大丈夫です。少し、昔を思い出していました」


 ティナは左手で拳銃を持つと、右手を胸に当てた。


「そうですね。私はティニア・ボレードでもあり、シア・ルージリアでもありました」


 目を閉じたまま、確認するように言葉を呟いた。


「私は覚えているようで、忘れてしまっていたようです。私自身のことを」


 ティナは目を開けると、メイへ視線を送った。


「認めましょう。貴女が、ヴェルローラの構成員ではないと」

「有難う御座います。では、もう一つの質問にお答えしましょう」


 メイは微笑むように、マリアを見据えた。

 その微笑み方は、ティナに瓜二つだった。不思議と安心感を与えるような、柔らかい笑みだった。

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