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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode29「Risoluto 」
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㉙-5 融合

 外は小雨が降り出したのか、屋根を叩く雨粒の音が聞こえてきた。


 マリアは自分の暮らすアパートのリビングで、ソファーへ腰を下ろしていた。向かいには、ティナが座っている。

 マリアは、シェアハウスでの一件を一通り話し終えた。ティナは紅茶を一口飲むと、溜息をついた。


「……レン、辛そうですね」

「うん。意気消沈してたみたいだった。レンがあんなに感情的になるなんて……」


 ティナは無言で、口元に手を当てた。

 ティナの癖の一つだ。恐らく本人も、それが癖だとは気付いていない。

 同じ仕草をするレンの姿が、脳裏に浮かぶ。


 マリアは喉の奥が詰まるようだった。


「明日は休みをもらっているから、じっくり考えられるわ」

「私も手を尽くします」

「……あれだけ記憶が曖昧になってしまっては、レンに話を聞くことも出来ないわね」

「何かの事情から話せないのではなく、そのことですら曖昧になってしまっているのかもしれませんね」


 レンがマリアに話さなかった理由は、恐らくほかにもあるだろう。

 ここまで進行する前に、何とか出来なかったのだろうか。

 否、今は後悔している場合では無い。


 マリアは首を横に振った。

 集中しなければ。

 時間は無限ではない。


「それから、……レンは酷く痩せていたの。好みも変わっちゃったみたい。珈琲も好きだとか言って……」

「……レンは、食事を摂っているのですよね?」

「え、そうだけれど?」


 ティナは押し黙ってしまった。

 当たり前のことが、引っかかるのだろうか。


「……話せること?」


 間を置き、ティナは頷いた。


「私の躯体、機械の身体であるのなら、……食事を必要としません」

「……なんですって?」

「機械ですから、内臓もありません。消化器官さえ……」

「わ、私はレンと暮らしてきたからわかるわ。彼女はティニアとして、私と何度も食事を摂って来たのよ?」

「いえ、食事を取る必要があるのなら、可能性が一つあります」


 アルベルトが町に現れていると聞き、初めて記憶の曖昧な彼女を見た日のことが思い起こされた。

 疲れていると思い、彼女を肉料理店に連れ込んだ。


「推測ですが、彼女は——」


 ティナは目を細めた。眉間に皺を寄せ、言葉を詰まらせた。


「人と機械の融合体であるのかもしれません」

「……融合体?」

「厳密にいえば、ケルンメンシュである私も、ムッターゲフェースであるマリアも、人と機械の融合体なのです」

「怪我で手術を受けていても、レオン先生は何も言って無かったものね」


 ティナは押し黙ると、唇を震わせていた。無理をしてでも、話すべきことがあるのだろうか。


「私は……、前世で命を終えるとき……」


 ティナは口をつぐみ、唇を噛んだ。

 胸に手を当てると、遠い目をしたまま口を開いた。


「……自爆プログラムを起動して、……四散したのです」


 マリアは無言で首を横に振った。


 ティナは目を閉じた。

 思い出したくない過去を、垣間見てしまったのだろう。


「そんなことがあったなんて……」


 一体、レスティン・フェレスで何があったのか。

 彼女が自ら語ろうとはしなかった過去が、まだ根深くあることを知った。


「ですから、私の躯体がこの世界にあることは不思議でした。どうやって部品を集め、再起動出来たのか……。機械の身体の継ぎ接ぎをするために、何か人間の臓器を使用したのかもしれません」


 辛い過去を語らせてしまった。

 ヴェルローラの行動が理解出来ない。

 レスティン・フェレスでの一件にも、関係があるのだろうか。


「彼女に使用されているコア。人間でいうところの心臓には、ティニア・ボレードのコアが使われていると見て、間違いないでしょう」


 ヴェルローラは魂の研究をしているとも聞いている。

 継ぎ接ぎしたティニア・ボレードの躯体に、レンの魂を入れたのだろう。


 多くの孤児たちをケルンメンシュに変え、マリアというムッターゲフェースをも作り出した。

 自然と、マリアの指に力が入った。

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