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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode25「BLACK OUT」
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㉕-5 来訪者

 アルベルトが街路の角を曲がると、右眼に眼帯をした男が孤児院のドアへ向かうところだった。


「おい!」


 アルベルトの呼びかけに、その男は動きを止める。


「おい、お前! 孤児院ヘ何の用事だ」

「………………」


 男は問いには答えず、そのまま孤児院のドアにノックする。アルベルトも長身だが、男とさほど変わらない。それでも圧倒されるかの様にアルベルトを片目で睨みつけた。


「おい、聞こえてんだろ!」

「…………」


 男にたじろぐ様子はない。

 恐らく——男は強い。

 拳銃を所持している可能性もある。

 紛れもなく、軍人であろう。


 そう感じ取ったものの、アルベルトに退く理由などない。

 孤児院のドアと、男との間に割って入ろうとした時だった。

 孤児院の扉が、開いてしまう。


「あっ…………」


 出てきたティニアは、驚きの声を上げる。何かを口にしようとしたとき、後方のアルベルトに気付くと、視線を移した。


「ティニア、こいつが孤児院に入ろうと——」

「…………」


 ティニアもアルベルトの問いには答えず、気まずそうに俯く。彼女は何も答えないまま、無言が支配した頃、奥から孤児院で働くティニアの同僚、シャトーの声が響いた。



「どうしたんだい、誰?」

「アルベルトだよ」


(名前など、普段は呼ばないくせに)


 そうティニアが振り返ろうとした時、男はティニアの腕を掴むと強引に抱き寄せた。抱き合うような二人に、シャトーは顔を真っ赤に目を見開く。


「おい、てめえ!」

「こいつの身内のものだ。借りていくぞ」


 ティニアは無言のまま俯く。それが頷きであったのかも不明瞭である。一瞬呆気にとられたアルベルトだったが、ティニアの声だけが耳に入る。


「……シャトーさん、出てきます。すみません」

「え!?」


 シャトーの返答も待たず、ティニアは男に肩を抱かれると目線を合わせないまま、孤児院を後にしようとした。


「待てよ。何なんだよ、そいつ」

「フリージアを、ちゃんと連れて帰ってね。今日は遅くなるから」

「待てよ!」


 言葉より先に、アルベルトはティニアの腕を掴もうと手を伸ばした。

 いつもであれば、躊躇なくその腕を掴んでいただろう。

 しかし、男の纏う殺気を前に、たじろいでしまう。

 そんなアルベルトに気付き、ティニアは手を伸ばそうとした。


 男はアルベルトの腕を叩き落すと、いつでも迎え撃てるよう静かに身構えた。

 一連の流れは、まさに一瞬だった。


「やめて、乱暴しないで!」


 ティニアはアルベルトを庇うように、男に立ち塞がった。叫ぶような、懇願した言葉だった。男は頷くと、慣れた手つきでティニアの肩へ手を回した。


「……大丈夫、知り合いだから。帰りは遅いから待たないで寝ちゃっていいから」

「ティニア!」


 アルベルトの声が聞こえていないわけがない。

 ティニアは男に抱きかかえられ、振り返りもしない。


 アルベルトの横では、シャトー婦人も目をまん丸にしている。

 アルベルトは、ドアを蹴り上げそうになり、思い留まる。


「あいつ、何者だよ!」

「さ、さあ……。知り合いっていうから、知り合いなんじゃ……」

「そんな訳あるか!」


 アルベルトはすぐに二人の後を追ったが、シュタイン・アム・ラインに二人の姿は無かった。

 男に叩かれた腕の痛みなど、目にもくれず——。

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