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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode25「BLACK OUT」
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㉕-4 予兆

 アルベルトとフリージアと別れ、マリアは帰路に着いていた。

 気付けばお昼近い時間となっている。ティナも心配してくれているに違いない。


 マリアはライン川に架かる橋まで来ると、まっさらに青い空を見上げた。

 今朝見たよく分からない夢は、不安な今の状況を表しているかのようだった。

 暗い闇は、今でもマリアの心に残っているかのような感覚さえある。


 マリアは溜息を吐いた。


 アルベルトとは、これからも上手くやっていきたい。

 だが、永遠に話さないわけにはいかないだろう。


 それでも、ティニア——レンが何も話さないのであれば、マリアから話すべきではない。

 アルベルトは今も、何も知らないままだろう。

 歯がゆいかもしれない。

 焦りと衝動から、ティニアと喧嘩をしてしまうかもしれない。


 アルベルトが知っていることと言えば、ティニアは偽名で、本当の名をレンであるということくらいだろうか。


「私、何も成長出来ていないわ。ラーレだった頃から、何も変わらない」


 同じようなことを思い悩み続け、答えを見つけることすら出来ない。

 マリアはその言葉を、ライン川へ落とした。


 ◇◇◇


 次の日、マリアは少しだけ心が軽くなったように感じた。

 仕事を休んでしまった罪悪感が、重みの正体であったのだろうか。


 最近のマリアは、悩みすぎているのかもしれない。

 元々、考えることよりも先に行動してしまうところがあった。

 うじうじと思い悩むことが、成長したとも思えない。


 花屋ぺラルゴでは、ミランダとメアリーが笑顔で出迎えてくれた。


 いつも通り仕事をこなし、いつも通り花たちに向かう。

 ありふれた日常。平和な時間。

 それが、足元から崩れ落ちる日が来るのだろうか——。


 マリアは一日、一時、一分、一秒を大切に噛み締めた。



 ◇◇◇



 アルベルトは仕事中、シュタイン親分に呼び出されていた。工房の二階へ上がると、親分はバルコニーの高台から旧市街を眺めていた。


「オゥ、アルベルト」

「どうしたんですか、親分」


 シュタイン親分は煙草を一本差し出したが、アルベルトは手でそれを制した。


「俺、煙草やめたので」

「そうカァ。……あんマり、フラフラしてっト家に強制送還するゾ。工房は刃物も扱うからナァ、怪我されたんじゃ溜まラン」

「すみません」


 アルベルトは二度程、兄弟子に叱られていた。上の空だったのだ。


「うん?」


 アルベルトはバルコニーから下を見つめ、怪訝な表情を浮かべる。

 煙草を咥えたシュタイン親分は、その視線を追った。


「どうシタァ?」

「いや、あの眼帯の男、この辺りで見かけないなと思って」

「…………観光客には見えねぇな。あの整った姿勢、軍人にも見える」


 シュタイン親分の言動は戯けておらず、緊迫が体を襲う。

 

「あっちは、孤児院の…………」

「あ、おいこら、アルベルト!」

「早退します、すみません!」


 アルベルトはそのまま階段を降りると、すぐ近くのライン川沿いを走る。先ほどより、時間はあまり経過していないはずであった。それでも男の姿は見えず、焦りと不安が己を支配する。

 息を切らし、孤児院を目指した。周りのことなど目に入ってこない。


 胸が締め付けられる感覚。それは戦場で感じ取ったような、単純な勘でもあった。


「嫌な予感がする……。取越苦労であってくれ…………!!」


 祈るように、何度もその言葉を繰り返すかのように。

 アルベルトは駆け抜けていった。

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