↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode25「BLACK OUT」
PR
154/250

㉕-3 木洩れ日

 フリージアは文字が読めなかった。

 手渡されたメニューを見て、フリージアは絶句していた。隣にいたアルベルトも、まるで初めて知ったかのようだった。


 しかし、ケーキに詳しかったアルベルトの説明を熱心に聞いたフリージアは、アルベルトと同じケーキを注文した。流れに負け、マリアも同じケーキを注文する。


「マリアさんも、同じケーキなのが嬉しい!」


 フリージアは満足そうに笑った。文字が読めないことなど、差して気にしていないかのようだ。


「私は、アルベルトがケーキに詳しいとは思わなかったわ」

「前来た時に、ケーキについて聞いてたんだよ」

「あら、そうなのね……」


 ——いつの間にデートしたの?

 ——違う、そうじゃない。


 会話はなかったが、視線だけで会話が成立した。

 フリージアだけがよくわからずに、ハテナマークを浮かべる。


 店員の男性が、ケーキを運んできた。

 メニューを持ってきたときもそうだったが、フリージアが一瞬だけ反応を見せた。男性が怖いのかもしれない。


「いただきます!」


 フリージアは祈るように手を合わせた。それは、ティニアが食事をする前に見せる祈りのような姿だった。


「いただきます」


 自然と手を合わせたマリアを前に、アルベルトは苦笑いを浮かべる。


「なによ。ニヤニヤして」

「いや。マリアも染みついてるんだなと思ってな」

「ティニアと暮らしていたんだもの、当然よ」


 マリアの言葉を聞いたフリージアは、ケーキを頬張ったまま喋ろうとした。


「あなたはよく噛んで、味わって。……私はね、前までティニアと暮らしていたの。アルベルトと交代した感じかしら」

「んぐぐ……。前に暮らしていたお姉さんって、マリアさんの事だったのですね!」

「そうよ」


 マリアは紅茶を口に含んだ。珍しく珈琲ではないものの、苦味のない味に、口寂しさを感じる。


「どうして、出て行っちゃったの?」

「うん? ティニアとアルベルトが一緒に住みたいと言ったからよ?」

「ぶ……!」


 アルベルトが咳き込んだ。


「冗談よ。私ね、一緒に住もうと思う人が出来たの」

「こ、恋人ですか!?」


 フリージアが再び目を輝かせた。


「ううん。姉みたいな存在の人なの」

「お姉さんかあ……!」


 口を拭っていたアルベルトは、その言葉に反応した。


「ティナさんだったのか? 前に言っていた、探し人の姉って……」

「うん。実はそうなの」

「そうか。良かったな、また会えて」

「ええ、そうね……」


 マリアは余韻のあるような笑みを浮かべた。


「ティニアは元気?」


 気付けば、ティニアのことを尋ねていた。

 不思議と心が軽くなる。


「ああ。まあ、あれを元気だというのならな」


 他人の記憶に蝕まれていることを、マリアは知っている。

 心は痛むが、真実を二人に話すことは出来ない。


「……勤務先としてじゃなくて、ちゃんと診療所では検診を受けているの?」


 無駄な質問かもしれない、とマリアは思った。

 後ろ髪が引っ張られる思いだった。


「レオンは真面目な奴だからな。そこは信じているよ」

「ティニア様、具合悪いの……?」


 フリージアの表情が一瞬で陰った。

 マリアはフリージアがティニアを様付けで呼ぶことに驚きつつ、静かに頷いた。


「少しだけね。……ティニアって忙しいじゃない? だから疲れが溜まっているみたいなの。先生がちゃんと診てくれているわ」

「レオン先生ですね。とっても優しい先生でした」

「そうね……」


 レオンを警戒しろと言った、ラウルの顔が一瞬だけ目に浮かんだ。

 今頃、どこで何をしているのだろうか。

 辛い道のりを、独りで超えているのだろう。


 彼もまた、長い間待ち続けているのかもしれない。

 沈黙したマリアを見て、フリージアの表情は更に陰りを見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。