㉓-3 アルビノの少女
一方、同時刻。二十時頃の診療所——。
ティニアは少女を抱きしめたまま、頬を触れ合わせた。少女を愛おしそうに抱きしめるティニアに、アルベルトが戸惑うほどであった。
ティニアは『良かった』と呟きながら、まるで長く会えなかった大切な存在と再会したかのように、感激していた。
「あの……」
「ご、ごめんごめん」
少女を締め付けてしまっているのではないかと、慌てて離れるティニア。
そんなティニアを、少女は名残惜しそうに見つめる。
突然の少女の登場に、アルベルトだけが唖然としていた。
「この子は孤児で、ティニアが保護して連れてきたのですよ」
「先生、他言しないでって言ったのに」
「アルにもですか?」
「う……」
振り返りながら、ブツブツとぼやくティニアに、少女は声を上げる。
「おねえちゃん、あたしを助けてくれたの?」
「うん。どこも痛くはない? 苦しいところはない?」
「うん。もう何ともないよ。最初は、ここが痛かった」
少女は首筋を撫でる。指先にあるのは、痛々しい青痣だ。少女の青白い肌と血管は、より一層儚さを強調する。
「ねえ、君。名前は?」
「わかんない」
「そうか。何もわからないかな。怖いかもしれないけれど、思い出せることはある?」
「ううん。何もわかんない」
少女は首を横に振る。アルベルトはベッドから這い出ると、ティニアの胸元のボタンがまだ外れたままなのを知り、慌ててレオンを睨みつける。
「レオン。あいつの胸元、苦しいからってボタン外しただろう! 俺は何もして無いからな!」
「え? ああ。なんだ、そういうことでしたか。ティニア、ボタンをかけ直してください」
「ほいほい」
ティニアは器用に指でボタンをしめていく。指先を目で追っていたことに気付き、アルベルトは視線を逸らした。その視線の先で、少女の目線と重なった。アルベルトは気まずそうに、更に視線を泳がせる。
少女は何気なく思ったことをそのまま口にした。
「ねえ。この人、おねえちゃんの恋人?」
「はい?」
無邪気な問いに、ティニアは目を吊り上げた反応を返す。
「あのねえ、そういうのじゃないんだよ。この人はね、僕をただの枕だと思ってるから」
額に手を当てたアルベルトを前に、レオンは込み上げてくるものを堪えた。
「そうなんだ。仲良さそうだったから」
「仲は悪いよ。いつも喧嘩しているよ」
「そうなの?」
「そうなの」
項垂れるアルベルトを横目に見つつ、ティニアは少女を見つめて言った。
「会うたびに言い合ってるよ」
「どうして、仲良くしないの?」
「…………」
「…………」
黙り込む二人。仕方なく頭を抱えたレオンは、少女の目線まで腰を落とした。
「とにかく、この子はもう元気です。君も、問題ありませんね?」
「うん。ありがとう、せんせい」
「んんん! この子、もう退院できるの?」
ティニアは目を輝かせた。少女は、そんなティニアを目で追った。
「この子の生命力の高さのおかげです。もうどこも悪くありませんよ」
「そうなんだ! 良かった……」
少女も自然と笑顔になり、その表情を年相応に咲かせる。ティニアは徐にしゃがみ、少女の目線に立つと、少女に微笑んだ。
「じゃ、おねえちゃんのおうちに行こうか」
「おねえちゃんのおうちに?」
「ちょっと待ってください。もう夜も遅いです。退院するのは、明日にしては?」
「うーん。でも僕はもう帰るし。一緒に帰ったらよくない?」
「それはそうですが……」
レオンは立ち上がってアルベルトを見つめた。
『君はそれでいいのか?』と聞こえるようだった。アルベルトは肩すくめ、軽く手を上げた。勝手にしてくれと言わんばかりだ。
「うちにおいで。居候は三人目だから、なれっこだよ」
「おねえちゃんのおうち、いっぱい人がいるんだね」
「今はこの人だけだよ」
ティニアはアルベルトを指さした。冷ややかな視線を送ってくるティニアに対し、アルベルトは苦笑いを浮かべた。
「仲良くしようよ」
少女の真っ直ぐな視線に、ティニアは固まった。その様子を横目に、アルベルトは悪戯そうに笑って見せた。




