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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode23「紫雲英、ちりぬるを」
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㉓-3 アルビノの少女

 一方、同時刻。二十時頃の診療所——。


 ティニアは少女を抱きしめたまま、頬を触れ合わせた。少女を愛おしそうに抱きしめるティニアに、アルベルトが戸惑うほどであった。

 ティニアは『良かった』と呟きながら、まるで長く会えなかった大切な存在と再会したかのように、感激していた。


「あの……」

「ご、ごめんごめん」


 少女を締め付けてしまっているのではないかと、慌てて離れるティニア。

 そんなティニアを、少女は名残惜しそうに見つめる。


 突然の少女の登場に、アルベルトだけが唖然としていた。


「この子は孤児で、ティニアが保護して連れてきたのですよ」

「先生、他言しないでって言ったのに」

「アルにもですか?」

「う……」


 振り返りながら、ブツブツとぼやくティニアに、少女は声を上げる。


「おねえちゃん、あたしを助けてくれたの?」

「うん。どこも痛くはない? 苦しいところはない?」

「うん。もう何ともないよ。最初は、ここが痛かった」


 少女は首筋を撫でる。指先にあるのは、痛々しい青痣だ。少女の青白い肌と血管は、より一層儚さを強調する。


「ねえ、君。名前は?」

「わかんない」

「そうか。何もわからないかな。怖いかもしれないけれど、思い出せることはある?」

「ううん。何もわかんない」


 少女は首を横に振る。アルベルトはベッドから這い出ると、ティニアの胸元のボタンがまだ外れたままなのを知り、慌ててレオンを睨みつける。


「レオン。あいつの胸元、苦しいからってボタン外しただろう! 俺は何もして無いからな!」

「え? ああ。なんだ、そういうことでしたか。ティニア、ボタンをかけ直してください」

「ほいほい」


 ティニアは器用に指でボタンをしめていく。指先を目で追っていたことに気付き、アルベルトは視線を逸らした。その視線の先で、少女の目線と重なった。アルベルトは気まずそうに、更に視線を泳がせる。

 少女は何気なく思ったことをそのまま口にした。


「ねえ。この人、おねえちゃんの恋人?」

「はい?」


 無邪気な問いに、ティニアは目を吊り上げた反応を返す。


「あのねえ、そういうのじゃないんだよ。この人はね、僕をただの枕だと思ってるから」


 額に手を当てたアルベルトを前に、レオンは込み上げてくるものを堪えた。


「そうなんだ。仲良さそうだったから」

「仲は悪いよ。いつも喧嘩しているよ」

「そうなの?」

「そうなの」


 項垂れるアルベルトを横目に見つつ、ティニアは少女を見つめて言った。


「会うたびに言い合ってるよ」

「どうして、仲良くしないの?」

「…………」

「…………」


 黙り込む二人。仕方なく頭を抱えたレオンは、少女の目線まで腰を落とした。


「とにかく、この子はもう元気です。君も、問題ありませんね?」

「うん。ありがとう、せんせい」

「んんん! この子、もう退院できるの?」


 ティニアは目を輝かせた。少女は、そんなティニアを目で追った。


「この子の生命力の高さのおかげです。もうどこも悪くありませんよ」

「そうなんだ! 良かった……」


 少女も自然と笑顔になり、その表情を年相応に咲かせる。ティニアは徐にしゃがみ、少女の目線に立つと、少女に微笑んだ。


「じゃ、おねえちゃんのおうちに行こうか」

「おねえちゃんのおうちに?」

「ちょっと待ってください。もう夜も遅いです。退院するのは、明日にしては?」

「うーん。でも僕はもう帰るし。一緒に帰ったらよくない?」

「それはそうですが……」


 レオンは立ち上がってアルベルトを見つめた。

 『君はそれでいいのか?』と聞こえるようだった。アルベルトは肩すくめ、軽く手を上げた。勝手にしてくれと言わんばかりだ。


「うちにおいで。居候は三人目だから、なれっこだよ」

「おねえちゃんのおうち、いっぱい人がいるんだね」

「今はこの人だけだよ」


 ティニアはアルベルトを指さした。冷ややかな視線を送ってくるティニアに対し、アルベルトは苦笑いを浮かべた。


「仲良くしようよ」


 少女の真っ直ぐな視線に、ティニアは固まった。その様子を横目に、アルベルトは悪戯そうに笑って見せた。

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