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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode22「紅茶の香りと、長い時の流れ」
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㉒-5 遠い世界で②

 マリアは息をつくのを忘れ、苦しくなった。浅い呼吸を繰り返す。

 明らかに動揺していた。


 ミランダは心配するようにマリアを見つめながら、続きを話した。


「別の意識によって操られていた――その者は、故障の衝撃で我に返った。そしてレンに謝罪をしたそうよ。それでも、レンはその謝罪を受け入れず、犠牲者を追悼して背負うように求めたの」

「……そいつの名は?」

「ラウル・ジークフリートと呼ばれている、レスティン・フェレスで作られた機械人形だ」


 マリアは呼吸を忘れ、体が震えだした。それを抑えようと、腕を強く握る。


「ラウルは右眼を負傷することで正気に戻った。右眼にどうやら、悪い機械が埋め込まれていたようだったという。だが破損がひどくて、ラウルはまともに機能しなかった」

「だからラウルの為に、レンは自身の片眼、右眼を与えた」

「なッ……」


 納得できてしまった。なぜ奴が眼帯をしていたのかを。あの目は、右眼はくっきりとした輪郭の金瞳だった。あれはレンの瞳――精霊に近い存在であるレンの瞳だったというのか。

 マリアの背筋は凍るようだ。


「ラウルは謎の組織に操られ、レスティン・フェレスの技術をそいつらに無理やり提供させられていたの。子供を人質にしてね。そうやって、徐々に狂わせていったそうよ」

「酷い……」


 ラウルの殺意の意味を、マリアは理解出来た気がしていた。

 彼は彼なりに苦しみ、過去の自分を恥じていたのだろう。


「そして、その技術を試そうと実験で、多くの命が犠牲になったことでしょう。彼はそれを背負い、二重スパイをすることになったの」

「……それ、アスカーニエン家。アンハルト公国の人は知っているの?」

「大体の事は周知しているだろう。ただ、もう随分と昔の事だからな。ただ、彼らはレスティン・フェレスの技術を使う事のリスクを、十分に理解していた。技術に関して、彼らが触れたことは一度もない」


 ミランダではなく、ディートリヒが口にした。

 そのままディートリヒはミランダを抱き寄せた。


「つまり、二人の話を私の頭でまとめると。……レンは精霊、ううん神のような存在だった。レンの想い人、そしてラウルと、あなた達タウ族の祖と地球へやってきた。そして、西暦855年、レンの会いたかった人は命を落とした……。そして、レンはそれを知らずに待ち続け、彼を探しに地球へやってきた。そこで、彼の死を知った……」

「そうだ」

「ティニアの言う、庭園等の話は……。もしかしたら、レスティン・フェレスのことかもしれない」


 ミランダの言葉が、うまく頭に入ってこない。


 レン――ティニアは、孤独に過ごしていたというのか。途方もない時間を、マリアは耐えられるわけがない。

 思い人が亡くなったのを知らないまま、待ち続けていたなど――。


「レンはその後、どうなったの……?」


 言葉が、口から溢れ出る。


「……レンは自らの無力を恥じていた。私たちの祖を守るために、アスカーニエン家へ恩を返すために、彼らとともに生きていたの。そして、1882年。レンは寿命を迎えるように、その長い生涯を閉じた。そして、地球で生まれ変わったんだ。人の子として……」

「…………」

「アドニスや孤児院を支援している財団――アレン財団は、アルブレヒト熊公とアスカーニエン家、そしてアンハルト公国へ、そしてレンへの恩を忘れない」


 ミランダはそう言うと、胸を張った。

 目を背けてはいけない――これは、起きてしまった現実なのだ。

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