㉑-4 夜汽車②
予想通りの彼女の回答に、アルベルトは頭を抱えるしかなかった。
罪悪感の次には、あらぬ妄想が込み上げてくる。
目の前にいるティニアは、相変わらず何が起きているのか全く分からない様子だ。
(こいつ、マジで何もわかってない……)
「どしたの?」
首を傾げたティニアは、再び不用意に開かれた胸元をちらつかせる。アルベルトは感情の高鳴りから慌てて布団を押し付ける。
「服! 脱げてるから……」
「ん、あれ。どうしたんだろう、これ」
「ああー、レオンが苦しいだろうからって、ボタンを緩めていたんだった……! あの野郎……」
「大胆なことするじゃん」
(こいつ、マジでわかってないのか……?)
大胆という言葉に、違和感を覚える。わかっていてやっているのなら、とんでもない奴である。
「まあワンピースだし、いっそ脱がせればいいのに。中途半端なことするね」
「それはさすがにレオンを〆る」
「なんでだよ!」
声を出して笑うティニアはいつも通りであり、変わったところは見受けられない。
彼女の真の名は、レンであると聞いている。
あのまま全てを聞いていたとしたら、ティニアを傷つけてしまったかもしれない。
マリアが話を止めたのは、正解だったと言える。
ティニアにも、何か理由があるのだろう。
それに、彼女はまだアルベルトの名を呼ぼうともしない。
呼ばれたのはたった一度きりだ。そして、そのまま口喧嘩をしてしまった。
俯いたまま考え込んでしまったアルベルトに対し、ティニアは苦笑いを浮かべた。
「君、雨に打たれたの?」
「あ、ああ。椅子を置いてきてしまったからな、ゲオルク修道院前に」
「ゲオルク、修道院……。なんでそんな所に」
「覚えてないのか」
「え?」
(だから、ボタン……!)
慌ててボタンを閉めようと、彼女の胸へ手を伸ばした時、病室の扉が開いた。途端に硬直したレオン医師は眼鏡を正すと、恐る恐る振り返ったアルベルト、そして見上げたティニアへ一言告げる。
「ここで何をやっているのですか!」
「いや、これには深い訳があって……」
「ティニアさんまで、一体何をしているんだ!」
「何ってなに? なんかボタンが開いてて、中途半端だから脱いだらいいじゃんとは言ってたけど」
「お前! そういう誤解されるようなことを!」
「二人とも、元気ならすぐにここを出てください。ここは診療所ですよ!」
レオンの荒げる声に、ティニアは納得いっていない様子だ。
「アルベルトは風邪を引いたみたいだから、診療所で入院したいって」
「なんでそうなる! 俺は帰って寝るぞ」
「寝るのかよ。また僕を抱き枕にしたいの?」
「君たちは何をしているんだ! 何度も言わせないでください。早く出ていきなさい。他の患者に迷惑ですよ!」
怒るレオンの後ろから扉が開き、アルビノの少女が顔をひょっこりと出した。口元に手を当て、衝撃的な現場を見たかのように目を大きく見開いた。
「きみ! 起きたんだね!」
ティニアは顔を乗り出し、嬉しそうに笑みを浮かべた。
対してアルベルトは何が起こったのかわからず、狼狽える。
「おねえちゃん、だれ……?」
透き通るような、幼い声がした。
少女は虚ろいだ瞳に、煌めきの蒼を宿した美しいアルビノであり、その長い白髪を揺らした。




