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暁の芽吹 -レスティン・フェレスⅠ  作者: Ruri Lesewolf
Episode21「雨の日の病室」
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㉑-3 夜汽車①

 アルベルトは柔らかな温かみを感じ、その微睡の虚ろから目を覚ました。目の前で寝息を立てて眠る女性を抱えたままだ。


「なんだ、これは…………」


 一瞬で覚める頭で、状況を整理する。魘される彼女に寄り添い、抱き寄せたまま頭を撫でていた筈だ。落ち着いてく彼女の寝息を耳に当て、眠ってしまったというのだろうか。


 ティニアはあどけなさを残し、すうすうと眠っている。アルベルトは、美しく跳ねる金髪を撫でながら、そっと吸い込まれるように唇へ触れた。


「ん…………」


 ティニアの声が漏れるのを聞いて、慌てて手を引いた。ティニアの美しい長いまつ毛がゆっくりと動き、青く輝く瞳が覗いた。


「……あれ、起きたんだ。おはよう」

「起きたんだって……。寝てたのはお前だろ」

「いや。少し前に一度、目が覚めたよ」


 ティニアは、隣で添い寝する男に違和感も感じず、もう一度寝たというのか。

 アルベルトの腕を振りほどこうとは思わなかったのか。

 それ程までに、自分は男として見られていないのか。

 アルベルトの頭には様々な思いが巡っては消えていく。


「……おい、体の具合は?」

「問題ないよ。ごめんね、よく覚えてないんだ。僕は倒れたの?」

「ああ。気を失ったから、診療所に……」


 ゆっくりと髪をかき上げて起き上がる女性は襟元がはだけており、下に着ている下着の紐やレースが露わとなる。アルベルトの視線は、思わずその胸元へ吸い寄せられた。

 思わぬ衝撃に、アルベルトは続けようとした言葉を忘れ、黙り込んだ。その行動が理解できず、ティニアは首を傾げる。あろうことか、下着は更に露わになった。


「まだ寝ぼけてるの?」

「いや…………」

「眠れた?」


 下着から視線を外せないアルベルトは、自然と視線を上げた。


「あ、ああ……。悪い、こんなとこで、寝てしまって」

「眠れてないんでしょ。起こしても起きなかったし」

「そうだったのか。わ、悪かった……」

「ううん。でもね、ボクが起き上がれないから、一度起き上がって欲しい」


 ティニアを抱きしめる形で寝そべっていたことに気付き、アルベルトは慌てて起き上がった。その拍子にアルベルトはシーツや布団を引っ張ってしまい、ティニアはバランスを崩す。


「わわっ」

「すまん!」


 アルベルトはティニアを押し倒してしまう。


「わ。悪い! これは、その……」

「起きて欲しいとはいったけれど、いきなり動き過ぎだよ。びっくりするじゃない」

「…………あ、えっと……」

「まだ、ぼんやりしてる?」

「え、いや。ああ、まあ……」

 

 そのままティニアは体を起こすと、アルベルトの頬に触れた。


 目の前の、数センチに迫る青く澄んだ瞳。そして唇から目が離せなくなる。

 触れたのはお互いの額であったが、アルベルトは息を飲んだ。


「ちょっと熱っぽいね」

「……ッ」


 アルベルトの顔が赤く染まった。しかし、淡々としているティニアに対し、肩を落とすしかなかった。

 それでも、額と額を合わせて熱を測るという行動は、どこか懐かしい。過去にあった出来事を思い出すかのようだった。昔もこうやって誰かに熱を測られたことがあるようだ。幼いころ、母親にされたのかもしれない。


「何度触れ合っても、熱が出るのは俺だけだ」

「うん?」


 アルベルトは、きょとんとしているティニアを押し倒し、抱きしめた。そのままティニアの首筋に口を添わせるが、反応は一瞬だけであった。


「んんん。なに? くすぐったいよ。……人肌が恋しいの?」


 その言葉は、まさか首筋にキスをされたのだとは気付いていないかのようだ。それはティニアらしくもあるが、虚しくもある。


「人肌って、……どういう意味だよ」

「いや、僕は抱き枕か何かなのかなって思って」

「なんだよ、それ」

「だって。君は僕を抱き寄せたらすんなり寝ちゃうじゃない」


 淡々と語るティニアに、恥じらう様子は全く感じられない。


「……そうだとしたら、どうする?」

「どうするって? 僕を抱き枕にしてもいいかってこと?」

「察しがいいじゃないか」

「うーん」


 ティニアは首を傾げるものの、淡々としており、そして意味がよくわかっていないかのようだ。

 となれば、きっと。恐らく。彼女の回答はこうだ。


「君が眠れるなら、僕は構わないよ」

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