⑯-4 準備
レオンは時間通りに、町の小さな教会にたどり着いた。教会内は、手作りの花で埋め尽くされていた。
子供達が集まり、訪問者へ手作りの折り花を手渡している。
「あ、せんせーだ! お花、お胸につけてあげるね」
子供の一人が大きな声を上げた。元気いっぱいにレオンへ近づくと、胸に手作りの花を貼り付けた。
「ありがとうございます。主役の足止めは上手くいっているようですね」
「うん! ティニアお姉ちゃんはね、今孤児院だよ」
「後から、マリアお姉ちゃんが連れてきてくれるの」
「それまで、他の子たちがティニアに絵本をねだって、足止めしているの」
「なるほど。上手いこと考えましたね」
「あのね、先生」
子供の一人が、レオンにしゃがみこむようにジェスチャーを始めた為、レオンはその場に屈んだ。すると、子供の一人で一番やんちゃな少年が駆け寄ってきた。
「あのね、孤児院なくなっちゃうでしょ」
「そうですね」
「だから、教会のお庭に、お花を植えたの。ずっと咲いていてほしいから」
子供たちは集まってくると、目を合わせて笑い合った。この子たちはもうすぐ、散り散りになる。あまり期間は無いものの、やはり寂しいと言える。それでも、寂しがればティニアが気にすると思い、子供たちは気丈に振舞っている。
「あ、ミランダお姉ちゃんだ!」
子供たちの声の方へ振り向くと、先ほどぺラルゴで別れたばかりのミランダだった。
「ミランダさん。どうされました?」
「アドニスさんいる?」
レオンは周囲を見渡したが、アドニスの姿はない。
「ここにはいませんが、奥ではないでしょうか?」
「ええ。ティニアの誕生会なのだけれど、ティニアがちょっと」
「え? まさか、容態が?」
「それがね、孤児院の裏で花を植え替えていたらしいんだけれど、ちょっと出てくるって、さっき出て行っちゃったみたいなの」
「なんですって……」
ティニアは教会で誕生会が開かれることを知らない。
子供たちがサプライズでお祝いする計画だったからだ。
レオンとミランダはアドニスを探しに、教会の奥にあるアドニスの生活スペースへやってきた。台所には、孤児院で働いているシャトー婦人ご自慢のケーキが並んでいた。そのケーキを眺めていたのがアドニスだ。アドニスはミランダの姿を見て、驚き声を上げた。
「ミランダ、どうしたのですか」
アドニスが心配した目を細めながら、訪ねてきた。ミランダは扉の向こうを警戒しながら、子供たちに聞こえぬように気を配った。子供たちは飾りつけのラストスパートをしており、誰も気付いていない。
「それがね。ティニアが突然ちょっと出てくるって出かけていったそうなの」
「なんですって? 年少組は足止め出来なかったのですか?」
「そうじゃないのだけれど、アルベルトさんと一緒だから、心配はしてないのだけれど」
「それは一大事だ」
アドニスは怪訝な表情を浮かべた。
「アルは、誕生会の事を知っているのですか?」
レオンが訪ねると、ミランダは頷いた。
「ああ。主人が話していたから……」
「ディートリヒめ。余計なことを」
「アドニスさん、嫉妬が駄々洩れ」
憤慨するアドニスは、レオン達と変わらぬような若い表情を浮かべながら、感情を露わにした。先ほどまでニコニコとケーキを眺めていたとは思えぬ形相だ。
レオンは持っていた花束の向きを変えると、アドニスへ声をかけた。
「アルは、子供たちに変わって、ティニアさんを足止めしているのではありませんか?」
「そうよ、そうに違いないと思う」
「ミランダまで……。あの男は、あろうことかティニアと同居を始めたのですよ!?」
「もう、嫉妬し過ぎよ。アドニスさん」
「嫉妬くらいしますよ。一緒に住むなんて、彼は成人男性なのですよ。まったく何を考えているやら……」
アドニスがブツブツと呟き始めたのを横目に、ミランダはレオンへ振り返った。
「とにかく、私は孤児院でマリアを待つわ。行き違いになってしまうからな」
「ああ、そうですね。マリアさんは今頃診療所でしょう」
「ティニアを招待するのは何時の予定なんだ?」
ミランダの問いに、ブツブツ言っていたアドニスが答えた。
「午後三時。もうすぐです」
「じゃあ先生は会場で。行ってくるわ」
「はい。お気をつけて」
アドニスは部屋に掛けてある時計を見つめた。時計の針は午後二時四十五分を指している。
レオンが再び教会へ戻ると、会場では飾り付けが丁度終わったところだった。
子供たちが嬉しそうに笑い合っている。
レオンは孤児だった頃を思い返しながら、花束を渡しやすい向きに持ち替えた。




