⑯-2 弱点
今日の六月十四日は、いつもの水曜日ではない。
マリアにとって友達である、ティニアの誕生日だ。
孤児院の子供たち主催で、ティニアの誕生会が開かれることになっている。
会場は教会で、なんとサプライズで行われる。
幼い年少組がティニアを孤児院で足止めし、マリアが教会に呼び出して驚かせる。という計画で、子供たちの発案だ。
当然だが、マリアだけではなく、ミランダやメアリー。そして医師レオンも御呼ばれしている。
マリアも重要な任務があるため、ミランダはマリアを早めに仕事を早上がりにしてくれた。
ティニアは足の怪我で入院していたが、無事に退院することが出来た。
どうして怪我を負ったのか、マリアは聞くことが出来ていない。
入院中、足の怪我とは別で、記憶の混濁症状、心因性昏迷状態に何度も陥った。
そんな彼女を一人残し、マリアはシェアハウスから退去した。
なかなか打ち明けられずにいると、ティニアは退院と共に『アルベルトと同居したいと誘った』という。
正直に言って、マリアは安心していた。
原因不明で心因性昏迷状態になる彼女を、一人にすることはなくなった。
入院中にマリアが退去した理由はいくつかある。
かつてラーレだった頃からの因縁と、ティニアの正体について考えがあったからだ。
医師であるレオンと共に、マリアは旧市街地シュタイン・アム・ラインを歩いていく。
歩きなれた景色は、いつしかマリアにとって故郷のような存在に変っている。
俯いたまま、花束を持つマリアに対し、レオンは声をかけた。
「ティニアさん、お元気になられて本当に良かったです」
「……そうね。心因性昏迷状態さえなければ、以前のように過ごせると思うわ」
「そうですね。入院中も、放っておけばお絵描きしてましたし」
「本当ね」
レオンは入院中のティニアを思い浮かべながら、やや早口で答えた。首をかしげたところで、眼鏡がずれ落ちてしまう。
「おっと、眼鏡が」
「あら、花束持ちますよ。直して下さい。落ちたら割れてしまうわ」
「そうですね。では失礼して」
レオンはマリアへ花束を預けると、眼鏡を一度外した。
マリアの前は、二つの花束で埋め尽くされた。花越しに映るレオンは、とても整った顔立ちをしている。
「うーん。壊れているようにも見えますね。ネジが緩んでいるのかな。うーん、これはすぐにはちょっと」
「……せ、先生…………!」
マリアは花束ごと、レオンに迫った。レオンは顔を赤らめてしまう。
「どど、どうしました⁉ マリアさん……! そ、そんな近づかないでください!」
「……眼鏡ないほうが、カッコイイって、言われない?」
「はい……?」
レオンは慌てて眼鏡をかけなおしたものの、すぐに斜めにズレてしまった。
「じ、女性からはよくそう言われますね。眼鏡を外してほしいと……」
「やっぱり。診療所の前、今でも時々女性たちが出待ちしているものね」
「顔なんて、どうでもいいものです。出待ちについては困っているんですよ。あ、花束有難うございます」
マリアに差し出された、豪華な花束を受け取ったレオンは、慌てた様子で周囲を確認した。
一瞬身構えたマリアに対し、レオンは顔を真っ赤にした。
「…………。すみません。……僕、実は女性が苦手で」
「……え?」
「それ以上近づかれると、ちょっと……!」
レオンは赤面した顔を大きな花束で隠した。




