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「お実、薬をもらってきたよ。」
「旦那様…ゴホッゴホッ…」
「無理に起きなくていい。ゆっくりお飲み。」
「申し訳ございません…炊事もままならず…」
「いいんだよ。お絹、母様の身体を拭いておやり。」
「はい、父様!」
「お絹…ゴホッゴホッ…ごめんね…」
「母様は何も謝る必要などございません!神様がきっと治してくださいます!」
「えぇ…ありがとう。」
もう何日も床に伏してしまっている…熱も一向に下がる気配がない。地べたを這って動くことはできるけれど、歩くのは無理みたい…旦那様にもお絹にも、迷惑をかけてしまって申し訳ない…。
あれから池にも行けていない…あの神様のお声も途絶えてしまって…これでよかったんだろうか…。
「神様、龍神様、どうかどうか母様の病を治してください!」
「おや、お絹ちゃんじゃないかい。ここのところ毎日来ているようだね。」
「厳徳様、こんにちは!」
「お実さんの具合はどうだい。」
「あまりよくはありません…」
「そうかい…ここら一帯の住人も何名か同じように病に侵されている者がいるよ。」
「母様、元気になりますよね、必ず治りますよね!」
「わからない…薬にできることは限られているからね。」
「薬以外に何か方法はないのでしょうか…お医者様は、母様を見るなり薬だけよこして戸を閉められました…もう祈ることしかできないのでしょうか…」
「お絹ちゃん…」
「ただいま戻りました。」
「おかえり、お絹。」
「神様と龍神さまと厳徳様にご挨拶してきました。」
「住職もいらしたのかい。」
「母様のこと、心配してらしたのですが…」
「大丈夫、母様の代わりにお絹がご奉公へ行ってくれているのだから。そうだろう、お実。」
「えぇ…今日は熱がそこまでないみたい。不思議ね、治ったみたい。」
「本当ですか、母様!」
「えぇ、本当。」
「よかった!神様と龍神様のお陰ですね!」
「そうね、それもこれもお絹のお陰よ。ありがとう。」
「お実、あまり無理はしないでおくれよ。」
「ごめんなさい…でも、お絹が不憫でしょうがなくて…ゴホッゴホッ…」
「あの子は子供ながらに慈悲深く立派に育ってくれている。」
「えぇ…本当に、嬉しいことです。」
「あの子の成長を見続けるのが私達の喜びなのだがな。」
「はい…私はあまり永く見てはいられない様です…」
「何も考えなくていい。今を生きてくれればそれでいい、あの子もお前も。」
「旦那様…」
お役目…長い旅の始まり…私が死んでしまっても、まだ始まりに過ぎない…御霊が天に昇っても、まだ旅は続くということ…小さい頃、死んでもまたこの世に生まれて戻ってくることができると厳徳様は教えてくださった。戻ってこれるのかしら…あの神様がおっしゃっていた通りに、私は何度も旅に出る…生まれ変わるということなのかしら…。忘れてしまっても、思い出せるのかしら…その時の私は何をもってしてお役目を果たすのかしら…わからない…どうして私だったの…どうして…。
「おはよう、お絹。」
「おはようございます、父様!」
「今日は一段と元気がいいな。」
「はい!だって、母様の病が治ったのですから!」
「そうだね、今日は朝から行くのかい。」
「はい!お礼参りに行きたくて行きたくて、昨夜は眠れなかったのです!」
「そうかい、では早く行っておいで。」
「行って参ります!」
「神様、龍神様、ありがとうございました!お陰で母様は元気になりました!感謝いたします!」
「厳徳様ー!おはようございます!」
「おはよう、お絹ちゃん。今朝は驚くほどに元気がいいね。」
「母様の病が治ったのです!」
「なんと…!それは本当かい。」
「母様の熱が下がったみたいなんです!」
「おや、熱が下がったら治ったのかい。」
「え?」
「熱が下がって、発疹は消えたんだね。」
「いえ…発疹は出たままで…あれ…」
「発疹が出たままでは治ったとは言えないね…お医者様がそう言ったのかい。」
「いえ…母様が治ったみたいって…」
「うーん…」
「…まだ、治っていないのでしょうか…」
「恐らく、そのようだね。」
「私ったら早とちりして…だって、父様も喜んでたし…あれ…」
「お実さんと旦那さんの優しさかな。」
「そんな…」
「そう気を落とさずに。熱が下がったのは本当かもしれないじゃないか。それだけでも病状は良い方向に向かっているんだから。」
「…はい…」
「ただいま戻りました…」
「おかえり、お絹。」
「母様は…」
「まだ寝ているよ。どうした、今朝の元気はどこへ行ったんだい。」
「父様…母様はまだ治っていないのですか。」
「そうだね…でも、熱は少し下がったみたいだよ。」
「そうですか…」
「母様…起きてらっしゃいますか…」
「母様…」
「父様!はやく!はやく来てください!」
「大声を出してどうしたんだい、お絹。」
「母様が息をしていません!」
「お実…!」
「母様!母様ぁ…っ!!」
「取り急ぎ、うちの寺に納骨しよう。」
「ありがとうございます、厳徳様。お世話になった厳徳様の元で、お実も喜んでくれると思います。」
「信心深いお実さんだったからね、ご奉公していたここに居るのが一番いいでしょう。」
「はい。お絹、厳徳様の前だよ。顔を上げなさい。」
「…うそつき…母様も父様も、神様も龍神様も…っ!」
「よしなさい。お絹、お絹…っ!」
「よろしいのです。まだ、母親の死を受け入れられないのでしょう。」
「すみません…私自身もまだ受け入れられていないのです。」
「無理もない。私も同じですよ。」
「厳徳様…」
「皆のうそつき!神様は願いを叶えてくれるんじゃなかったの?!龍神様だって、お力をくださるのではなかったの?!…うぅ…ぅっ…」
「もう信じない…神様も龍神様も…なにも信じないんだからっ!!」




