5929
「よいか清厳、これより寿命を授ける。」
「ちょ…待ってください!」
「どうした、ためらっておるのか。」
「いや、その…なんていうか…思うところがあってですね…」
「うむ。これからの成り行きに思い巡らせるのであろう。それほどまでに想うておるのだな。」
「あ、いや、その、ちょっと違うというか何と言うか…」
「なんじゃ!先程からゴチャゴチャと!」
「…自分の決めたことではありますが、気持ちが揺らいでいるのです…」
「ほう。」
「彼女を想う気持ちはあります。ですが、それはツクヨミ様を想っていたからこその想いで…!」
「ツクヨミ様にはその想い、届いておろうぞ。」
「はい…暇さえあれば念を送っておりますので…」
「…」
「ひっ!」
「なんじゃ湠渓、お前が居ては何も出来ぬ。」
『マザコン』
「えっ!」
「…」
「ちょ…待て!それは何なんだ!その言葉の意味はなんだっていうんだ!」
「なんじゃったんじゃ、湠渓のヤツめ。」
「…あいつのお陰で決意もブレまくってるんです…」
「ほう、いつになく弱気じゃな清厳。」
「弱気にもなりますよ…気持ちは一方通行、私がただ惚れているだけなのですから…」
「心震わされたのであろう。」
「はい…」
「その者の歌声によって愛を知ったのであろう。」
「はい…!」
「何を迷う必要がある。」
「はい…」
「フォッフォッ、まだまだ青いのう清厳。」
「生まれたときから今だってこれからだってずっと青いですよ…」
「フォッフォッ、青龍じゃからのう。」
「何をうまいこと言ってんですか…」
「まぁ、すでに事は動いておる。後のことは転生してから考えるんじゃな。」
「んな事は分かってますけど…」
「恐れるな。人として生きてみよ。お前は人としての素質がある。」
「え…」
「人は悩む。クヨクヨとな。不安と恐怖に支配され、生きる意味を探し彷徨う。お前の性格には合っておろう。」
「ひどい言われようですね。」
「本当のことじゃ。じゃから可愛いというのじゃ。」
「…可愛い、潢彩もそのような事を言っていましたよ。」
「フォッフォッ、青いお前にはまだ分からんじゃろうの。」
「私にもその可愛さがあると言うのですか。」
「ワシからすれば皆可愛いものよ。」
「何なんですか可愛いって。」
「可愛いにも種類があるのじゃからな、お前はお前の可愛さがあるということじゃ。」
「はぁ…」
「それで、クヨクヨした言い訳はなくなったか、そろそろ寿命を授けるぞ。」
「…はい、なんか、モヤモヤしたものはなくなりました。」
「よいな、腹を決めるんじゃ。」
「はい、私はツクヨミ様を愛したお陰で彼女を愛せたのです。人間として彼女に愛を返したい。」
「…龍として愛を返さなかった理由はなんじゃ。」
「私は今まで一度も人間に施しをしませんでした。それは龍王様、あなたの教え通りに生きてきたからです。」
「フォッフォッフォッ、お前というヤツは本当に可愛いヤツじゃわい。」
「私は神ではありません。ただの龍です。」
「そうじゃ。それは神への尊敬と人間への誠実さの最たる心得じゃ。迷いは消えたようじゃな。」
「はい、ありがとうございます。」
「では、寿命を授ける。」
「龍王様!寿命を授かった清厳は、清厳はどうなったのです!」
「なんじゃ泊渼、後ろに居ろう。」
「え?」
「よう。」
「いや…寿命は…?」
「寿命というのはな、天にその命の期限を委ねるということになるのじゃ。」
「…え?」
「まだ分からんか。その命の期限は神様次第ということじゃ。」
「正確には、神様と約束して決めることが出来る。」
「うむ。人間はその期限を魂に刻まれて地上にゆくのじゃ。」
「私は今回人間としては初めて生まれゆく。よって、龍の命の期限は明日。その後は人間の魂となり刻まれてゆく。」
「…当たり前の話だろうという説明ぶりなのは腹が立つが、大体のことは分かった。」
「まぁ、あと一時の命だ。楽しくやろう。」
「なにが楽しくだ!呑気なこと言って…」
「清厳、泊渼の気持ちもくんでやれよ。」
「潢彩…」
「泊渼だけではない、皆同じ気持ちでおるのじゃ。」
「龍王様…」
「そういうことだよ、清厳!寂しくなるなぁ!」
「浾湧…」
「…」
「湠渓…」
『己の無知さと無力さをこれから知ることになる。心しておけ。』
「お前は最後まで手厳しいんだな…」




