1-3-10
2943イメージソング
https://youtu.be/yrc1oGmkcak
「一応持っていくか…」
懐中時計をポケットに突っ込んで家を出た。
小﨑さんの声が彼女の声でないのは分かっているが、どうも気になる。
生まれ変わったら声なんて変わるのは当たり前だろうし、見た目だって変わって当然だろう。
そうなると探し出すのも容易ではない、そんなことは初めから分かっていた。
この人生で奮い立ったタイミングに小﨑さんと出会ったのも何かの縁…
どうあれ、動き出さなきゃ何も始まらないんだ。
「箱根登山線で小田原駅まで行って、そこから早川駅まではJRか…そこから歩いて10分程度…」
二人とは早川駅で9時45分頃に落ち合う予定だ。
「…俺の人生で、こうして頼れる人間が居てくれたことに感謝だな。」
『あの者達が、お前の魂とどう繋がりがあるのか知りたいか、清厳。』
「あいつらとの繋がり…そんなものがお前に分かるのか、潢彩。」
『お前の人生の中で、繰り返し現れている。』
「繰り返し?じゃあ、ずっと縁が繋がっているんだな。」
『あぁ、特に男の方との繋がりは深いと言える。』
「そうか…」
「彰、お前さ、東大居た時くらい、その…彼女とか作る気にならなかったのかよ。」
「ならなかったな。お前と違って俺は真面目に学んでたから。」
「そっか、二人は大学から別々になったんだったね。」
「お前が大学院から研究員になるなんて思ってもみなかった。そこまで勉強が好きだったか?」
「勉強というか…昔から探求心が旺盛だったんだよ。一度知ったら深堀りしたくなるタチでな。」
「東大院から今の大学の研究員…本当に海が好きなんだね、彰くん。」
「海ってのはさ、突き詰めていけばいくほど未知の世界に遭遇するんだ、面白いよ。」
「海って言ったって、調べる対象が広すぎるだろ…」
「だから興味が尽きないんだ。」
「彰くんにとっては、女の子より海の方が魅力的だったりするんだよね…でも、心の中にずっとその子が居るんだから、絶対見つけ出したいよね!」
「じゃー、なんで今海に向かってるんだよ。」
「…気になる人がそこに居るんだ。」
「えっ!うそ!もう目ぼしついてる人が居るのね?!」
「これから行くダイビング店で働いてるらしいけど…それ以上の事は知らないんだ。」
「名前も知らないのか?」
「いや、小﨑歩美さんって名前だよ。」
「知ってんじゃねぇか!てか、そーいう大事な事はもっと早く言えよ!」
「いや、聞かれてもいないのに話せないだろ。」
「うーん…彰くんって独特なマイペースさがあるみたい…」
「そんで、その小﨑さんってのとはどこでどう知り合ったんだよ。」
「…小田原の園芸店で。」
「お前ホント植物好きだな!海か植物かどっちかにしとけ!」
「いいじゃない別に、それで?園芸店でどんな風に出会ったの?」
「どれにしようか迷ってたら声をかけられて…始めは店員さんかと思ってた。」
「何それ!女の子の方から声かけてきたなんて!彰くんに一目惚れしちゃったのかな?!」
「ないないない、その子も何買うか迷って、彰を店員さんだと勘違いして声かけたんだろ。」
「いや、見てた植物の説明をしてくれたから店員さんだと勘違いしたんだ。」
「へー、その子植物に詳しいんだ。それでそれで?」
「それで、もう少し俺と話がしたいからって、この店のカードくれた。」
「ただの勧誘じゃねぇか。」
「違うよ!きっかけ作りに渡しただけだよ、そっか、それで海に…」
「ダイビングの体験ができるみたいだよ。」
「お前ライセンス持ってんじゃん、体験なんてしなくていーだろ。」
「…」
「野暮なこと言わないの!体験はきっかけに過ぎないんだから!ね、彰くん!」
「…ただ、その子に会いに行くだけだよ。」
「きゃーっ!彰くんもその子が気になるんだね?!」
「…まぁ、そうなのかな。」
「ハッキリしねぇなぁ…」
「うーるーさーいっ!いいんだよ、曖昧な気持ちでも!これからハッキリさせに行くんだから!」
「…そうだね。」
「おい、あれだろ?…風も強いし、やってんのか?」
「すみません、小﨑さんっていらっしゃいますか。」
「いらっしゃいませ、歩美ちゃんのお知り合い?」
「知り合いというか、なんというか…」
「えっ!本田さん?!来てくださったんですか!」
「どうも。」
「あ、店長、ここは私が対応するんで、大丈夫です!」
「…あんまり長話しないでねー。」
「まさか、こんなに早く来てくださるなんて思ってなかったから…嬉しいです!」
「突然押しかけてすみません、忙しいのでしたら後ででいいんで…」
「いえ!全然忙しくなんかありません!こっちのテーブルにどうぞっ!」
「…お邪魔します。」
「お友達まで連れてきてくださるなんて…どうぞ、お水ですけど…」
「ありがとうございます。」
「今日は、あいにくの天気で、その、海に潜れないんです…」
「あ、やっぱり。そりゃそうですよね。」
「よかったぁ、天候も気にせず潜りに行っちゃったらどうしようかと思ってた。」
「…あの、こちらの方は、本田さんの…」
「あ、いえ、こっちの連れです。」
「俺たちは付き添いなんで、気にしないでください。」
「そうなんですね!よかった…」
「…それで、海に潜れないとなると…」
「来た意味ねーな。」
「ちょっと!しょうくんは黙ってて!」
「あのっ、よろしければ小田原散策していきませんか?私、案内するんで!」
「でも、お仕事中じゃ…」
「今日はもうお客さんも来ないし、潜れもしないんで、上がっちゃいます!店長、今日はもう上がりますねーっ?!」
「はーい、お疲れさーん…」
「行きましょう!」




