1-3-8
2943イメージソング
https://youtu.be/yrc1oGmkcak
彼女を見つけ出す前に、まずは自分を整えないといけない。
「今の生活をどうにかしないとな…人間としての仕事ってのは、龍だった頃より大変だ…」
『そうだろう、とにかく生きるには働き、お金を稼いで生計をたてなきゃ話にならん。』
「…お前、どうしてここに…御神水だな…」
『ご名答、お前を後押しするには助言が常に必要だろう。』
「うるさいよ…まさか、あの水を飲んだ者皆にこうして助言して回ってるのか?」
『たまにな。』
「マメな奴だなお前も…」
『泊渼のそれには劣るさ。』
「どっちもどっちだよ。」
『今の生活を改めるとなると、仕事なんぞしている暇はないぞ、清厳。』
「それは人間にとって死を意味する…まぁ、一時ならば蓄えはあるが、博打だな。」
『僕がついているじゃないか、何も恐れることはない。』
「憑かれたら怖いだろう。」
『本当に失礼な奴だな…』
「…あと三日か。」
俺は東京水産大学の研究員だが、ここ強羅から品川キャンパスまで通っている。
入寮の規定では片道2時間以上とあり、ぎりぎり2時間以内で寮には入れなかったからだ。
今の安月給で東京に住もうとは思わない。両親は地元の観光地で働いていて、一人息子である俺の上京には賛成していないしな。
今回の休暇は将吾の結婚式に加え、沖縄旅行も兼ねて一週間もらっていた。
実際は残りの数日、趣味の観葉植物集めの為に園芸店巡りの時間をとっていたが…
『お前の住処は草木が生い茂っているな。』
「あぁ、好きなんだ。サンスベリアにパキラ、ガジュマルにミリオンバンブー、そこのでかいのはウンベラータ…沖縄へ行ってる間、自動で水を与える装置も準備したんだ、お陰で枯れずに済んだ。」
『草木を愛でるのはいい、だが森のようだなここは…』
「珍しいものだとアデニウムや、そこのボトルツリーなんかはこないだ咲ちゃんにもらったやつで…」
『その情熱はどこから湧いているのだ…本来、彼女にその情熱を注ぐべきではないのか?』
「俺はな、ようやく思い出した所なんだぞ。今までの俺の人生を否定するなよ。」
『否定などしていない。』
「…とにかくだ、俺は仕事柄、海に栄養をくれる山々に感謝しているんだ。その山々に生える木々に感謝し、その感謝からこうして自分で育てるに至ったんじゃないか。」
『なるほど、合点がいった。』
「…三日も休みはあるんだ、一日くらい俺の時間にしたっていいだろ。」
『呑気なもんだな、人間の怠惰は可愛くないぞ。』
「そこも含めて人間なんだ、愛でろよ。」
『身勝手な…本当に人間になってしまったんだな、清厳。』
「何を今更…さ、出かけるぞ。」
「ここはいつ来ても落ち着くな…いや、興奮してしょうがないか。」
小田原まで足を運んで園芸センターに来た。植物を探す時は必ずここへ来る。
潢彩はついて来なかったようだ。
「俺にだって休息は必要なんだよ…」
今日は新たに購入して連れて帰ると決めている。
あまり最初から大きいと持ち帰れない…抱えられるだけのサイズは…
「ナギ…」
「ナギをご存じですか?」
「え…あ、いや…」
「この木は神社の御神木にもなっていて、国の天然記念物に指定されているんですよ。」
「へぇ…天然記念物って買えるんだな…」
「葉脈が縦に走ってるから、横に引っ張ってもなかなかちぎれないんです。だから、その丈夫さにあやかって男女の縁を結ぶ良縁の木とされていますよ。」
「縁を結ぶ…」
「あっ、でも男性はそんなこと言われてもいまいちピンと来ないですかね…」
「いえ、惹かれました。」
「そうですか、どの子がいいですか?」
「えっと…この子かな…」
「いいと思います、じゃあ…私はこっちの子にしよう。」
「あれ…センターの人じゃ…」
「いえ、私も購入しに来たんです。それなのに余計なことたくさん話してしまって…」
「いや、決めかねていたので助かりました。」
「よかった!ここ、本当にたくさん揃えてあって何時間でも居れますよね。」
「そうですね。」
「あの、私ここの近くにあるダイビング店で働いてます。もし、その…ご興味があれば…」
「勧誘ですか。」
「あ、いえ、その…もう少しお話できたら嬉しいなって…」
「…」
「御迷惑ですか…?あの、ショップカードお渡ししますので、体験もやってます、よかったら今度来てください!」
「あなたのお名前は…」
「あっ、小﨑歩美です!」
「考えときます。」
「あのっ、お名前は…っ!」
「本田彰です。」
「お待ちしてますね…っ!」
「まさかとは思うが、早速縁を繋いでくれたんだな。」
『なんだ?不満か?』
「彼女である根拠がない。この縁は何を意味している。」
『さぁなぁ…僕が繋いだ縁とは限らないから、そこは強調しておくぞ。』
「お前じゃなくて誰が繋ぐって言うんだよ。」
『その木が繋いだのだろう、実際そうじゃないか。』
「…良縁の木ねぇ…」
東京水産大学:現在の東京海洋大学。




