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2943イメージソング
https://youtu.be/yrc1oGmkcak
「ところで、この辺りは物騒なんだと家守の主人が言っていましたが、何があったんです。」
「近頃、強盗や殺傷事件が相次いでいるんだよ。ここらは平穏にあった。ここ最近のことで皆おかしいと感じている。」
「そんなことが…」
「廓に屯する薩摩から来た者たちの動きが怪しいと踏んでいる。」
「よそ者…」
「そうだ、君も疑われていただろう。」
「江戸では戦が始まるのではないかと、京へ向かう途中に噂は聞いていましたが…」
「京もまた、時代に翻弄される運命だろうね。」
「大政奉還ですか。」
「あぁ、旧幕府と新政府、どちらも仲良しこよしとはいかないだろうからね。」
「戦…に、なりますでしょうか…」
「わからない。今の薩摩の動きがある限り、それは否めないだろう。」
せっかく蘭方医学を学べる運びになった矢先に、戦ともなれば命まで危うい。彼女がもしこの時代に生きているとしたら…また失ってしまうのだろうか…病ならばと思い起こして医者を志した俺に、戦でできることなどないに等しい…
「浮かない顔をしているな。戦が怖いか。」
「えぇ…戦になればどうすることもできない。」
「天藤くん、君は本当にそう思うかい?」
「え?」
「私たち医学を学んだ者には人命を左右する使命を授かっていると思わないか。」
「使命ですか…」
「あぁ、戦で負傷者がでれば私たちの出番だろう。」
「それでも、できることは限られていますよ。」
「そうだ、その限られている中で私たちが躍動しないでどうするんだ。政など人命を前に何の役にも立たないなのだから、私たち医者が役に立たなければ。」
「…新宮さん、あなたは本当に医師の鏡のような人ですね。」
「鏡か。私が鏡だというのならば、私を前に映しだされた鏡の中の君もまた鏡だと言えよう。」
「私もまた鏡…私にも、何かできることがあるでしょうか。」
「ある!君に僕の全てを叩き込もう!」
あれから毎日、新宮さんによる指導を朝から晩までみっちり受けた。風呂の時も共に語り合い、眠るその時まで医学に身を投じた。
「紀州藩の藩医を務めることになったよ。」
「いよいよ戦が始まるのですか…」
「君も来てくれるか天藤くん。」
「はい、どこまでもお供します!」
今回の人生で、彼女に会うことは叶わないかもしれない。しかし、この人生で多くを学んだ。これは先の人生に活かせるに違いない。
また転生することができるのであれば…ではあるが、この人生を無駄にせずにすみそうだ。
それもこれも泊渼のお陰だな。こうして新宮さんという素晴らしい人に出会うことができた。
「この辺りに大きな池などないでしょうか。」
「池かい、確か弁天池が近くの金地院にあったはず。池がどうかしたのかい。」
「息抜きに池で鯉でも眺めてみようかと…」
「そうか、では明日は暇をもとう。」
「弁天池…蓮池なのか。鯉はいるが…」
いかん、また泊渼に頼ろうとしているみたいだな。いつから俺はこんなにも弱くなったんだ…
『はじめからお前はそうだ。』
「なっ…!この声は…湠渓!」
『何も変わっちゃいない。何も成長していない。』
「なんでそんなことがお前にわかる!俺は学んだんだ!」
『学んだ…?笑わせるな。お前には何もできやしない。』
「どうしてお前はそう俺に絶望させることばかり言うんだよ。」
『絶望…?したことのないお前が希望や絶望を語るな。』
「俺にどうしろって言うんだ…」
『思い知るんだな。今に分かる。』
「お前はどこから話してるんだ…一体何なんだ。」
『お前が勝手に出向いてきたのだろう。』
「そうだけど…せめて顔ぐらい出せよ湠渓。」
『事の顛末を心して見ておけ。』
「…分かってる。戦だろう。」
『お前は何も分かってやしない。何もな。』
「まだ、だ!まだ分かってないのかもしれないが、これから分かるようになる!」
『…』
「おい!湠渓!…相変わらずだなあいつは…」
湠渓の言っていることも分からないではない。まだ人生二回目、学んだと言うには浅すぎる。
戦が始まれば、藩医としての役目を果たさなければならない。
人の生き死にに無頓着だったあの頃、俺が手を出していれば救えた命があったということだ。
彼女の命でさえ、守れたのかもしれない…人間になった今更ながら悔やまれる。
「天藤くん、お呼びがかかったよ。」
「ついに始まるのですね。」
「医師として、やれることを精一杯やろうじゃないか。」
「はい。」
こうして鳥羽・伏見の戦いが幕を開けたー
廓:周囲を塀や堀などで囲み、出入り口を制限した遊女屋(金銭を受け取って男性の相手をする女性が働く家)の集まる区画
暇:休暇。




