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2943  作者: 平野むら
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1-2

2943イメージソング

https://youtu.be/yrc1oGmkcak

「早くしな!」

「はい…」

「なんだいその生意気な目は!バシッ!」

「…」

「そこの掃除が終わったら次は土間の掃除だよ!」

「はい…」

親に売られて来たここの主人の家は無駄に広い。

土間の次は庭掃除。今日も長い1日になりそうだ。

「おはよう。今日も頑張っているね。」

「大旦那様、おはようございます。」

ここの主人だ。この主人にあの夫人、何が好きで一緒になったんだか…きっと弱みでも握られているに違いない。

この家の庭には池がある。鯉が数十匹、中でも目立つあの白い鯉はなんだか妙に目につきやすい。

あの主人も、他の綺麗な模様の鯉より大きいこの白い鯉を特に大事にしている。

「お前達には立派な住処(すみか)とうまい(えさ)がある。俺には何がある…このまま一生使いのまま…」

「バシャン…!」

白い鯉が水面から飛んで水しぶきが着物を濡らした。

「やってくれたな…」

これでまたあの夫人にどやされる。

・・・キーーーン…・・・

「うっ…ぁあ…っ!ドボン!」

ひどい耳鳴りと共に目の前が白く(かす)み、よろけて池に落ちてしまった。

「ガボッ…ゴボボ…ッ」

思っていたよりも池は深く、子供の身体では足をつくことさえ出来ない。

『…お前、こんなところで何をしている。』

「な…っ」

突然聞こえてきた声に驚きはしたものの、息が苦しくてそれどころではない。

とにかくこの重い着物を脱いで水面に上がらねば…後で夫人に何を言われるか想像もつかないが、今はそれどころではない。

「バシャッ…!ぷはっ…!はぁっはぁ…っ!」

なんとか池の(ふち)の石垣に(つか)まってはいるものの、水中でもがいたせいか池から()い上がる力がでない。

「着物を…はぁ…っ、引き上げねば…」

(がく)をつけるんだ、清厳。』

「え…あ?」

また声が聞こえる…水面で頭打ってどうにかなったのか俺は…。

『お前にはやるべき事があるだろう、思い出せ!』

・・・キーーーン…・・・

「ぐっ…!うぅ…っ!」

また耳鳴りが…なんだ、頭の中で色んな出来事が映し出されてくる…。

・・・ィィイーーーン…・・・

「まさか…」

『お前の第二の人生はすでに始まっている。一刻も早く成し遂げるんだ、清厳。』

「その声…泊渼か!」

水面にプカリと浮かんできた着物が、スーッとこちらに流れてくる。

「バシャン…ッ!」

「白い鯉…」

「栄次郎!池で泳いでいいと誰が言ったんだ!」

「あ、いえ…池の中の藻を取っていました。」

「口答えするんじゃないよ!とっとと上がりな!早く炊事場に来るんだよ!」

「はい…」

…思い出した、何もかも。泊渼の言う通り、こんなところでこんな事をしている場合じゃない。

しかし、ここを出てもこんな子供のままでは生き様がないな…

「身売りされてきたってのに仕事もままならないお前なんか、陰間茶屋(かげまちゃや)にでも放り込めばいいんだ。旦那様に言ってやる。」

「おお、ここに居たのか栄次郎。」

「はい、大旦那様。」

「旦那様、ちょっとお話がありますの。」

「あぁ、その前にいい話がある。栄次郎、お前も寺子屋に行ってみないか。」

「寺子屋…ですか。」

「そうだ。隣町で学に優れた源庵さんが寺子屋を始めたそうなんだ。お前ももう七つだ、そろそろ教養を身につけなければな。」

「そんな…旦那様、そんな所よりもこの子にはいい働き口がありますのに!」

「千代、話は付けてあるんだ。栄次郎の支度を手伝っておやり。」

「旦那様…!」

なるほど、学をつける…か。人生を学べってことだな泊渼、恩に着る。


それからというもの、俺は毎日のように寺子屋へ足を運んだ。文字の読み書きを学び、そろばんを学び、お医者様でもある源庵様には礼儀作法に加えて医学についても学んでいる。

「そうです、よくできましたね栄次郎さん」

「源庵様、今日も医学を教えてください。」

「栄次郎さんは医学に興味があるようですね。」

「はい、今日は流行り病について教えてください。」

最後に彼女が池の畔で歌っていたあの時、気づいてはいた。きっと流行り病に侵されていると。

他の者も多くが流行り病を患っていたことも、私は知っていた。だが、何もしてやれなかった。

ただの龍の私が、人間に何かしてやれることなどないと思っていた。

だが、違ったのかも知れない。第一の人生で、龍王様は仕事をこなしていた。(みずか)ら身を(てい)して里の者達を守っていた。私にも、何かできたのではないのだろうか…人間になった今、悔やまれるのはそれだけだ。

人間として、私に何が出来るのか…まずは人間を学ばなければならない。

彼女への想いを胸に、思い果たすには知らねばならない。

ここからが第二の人生の始まりだ。

寺子屋:子供達に文字の読み書き、そろばんを教えたりする庶民の教育施設。塾のようなもの。

陰間茶屋:男性の売春宿。若い少年(陰間)達が振袖などを着て、お茶やお酒に三味線の演奏などのもてなしをし、男性客に性的サービスを行う場所。

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