O874
「そなたは神を頼りすぎる。」
「頼りたくもなります、初めての人生ですよ。」
「そなた、龍であった頃の仕事をおざなりにしておきながら、いざ人間になると神に頼り生きるのだな。」
「私は龍であり、神様ではないと心得ておりました。私が神様にお頼りする、それの何が問題なのです。」
「…人間は龍の存在を知りながら、龍が神の使いであることも心得ている。」
「それは一部の者達ですよ。神の使いであっても、神様の真似事のようなことはしてはならないと思っています。」
「真似事か…その真似事のお陰で救われる者もいるのだがな。」
「…私に今更何を求めておられるのですか。もう人間なのですよ。」
「救われるのは人間だけではないということ、いい加減そなたも知るべきであろう。」
「人間だけではない…」
「与える者、得る者、それぞれが存在している。与える者は得る者が求めねば与えることを知れない。得る者は与える者が何を与えられるかを知り願わねば叶わぬ。」
「…」
「そなたもニニギには五穀豊穣を願ったであろう。それは正しい。」
「はい、ニニギノミコト様は農業の神様であらせられますので…」
「さよう、柱は皆それぞれに与えられるものがある。だが全てではないのだ。そうであろう。」
「はい…」
「では、龍は何を与えられると思う。」
「我々…いや、龍がですか…」
「そなた、すでにツクヨミへ与え続けておったのだ。」
「私がですか?!しかもツクヨミ様に…」
「それを人間にも与えてやらねばならぬ。それが龍の仕事でもあるのだからな。」
「…その、与えるにしても、今更人間になった私に何が出来るというのですか…」
「もう与えたであろう。」
「え?」
「神や龍が与えられるものがあれば、人間にも与えられるものがある。」
「…」
「得ようとするのは何も人間ばかりではない。神や龍もまた、得たいと願うものがあるはず。」
「得たいもの…」
「雨が降り、地が潤い川や海が満たされ、やがてまた雨が降る。だが、陽の光がなければ生き物は皆生きられない。なぜだか分かるであろう。」
「陽の光で雨が天へ昇り寄り集まって雨が降り落ちるからです。」
「さよう、陽の光が雨を巡らせておるのだ。生命にとって陽の光は核たるもの。陽の光は雨を求め、雨は陽の光を求める。だが、雨たる水がなければ巡るものがなくなる。」
「…」
「まだ分からぬか。」
「はい…」
「よい。これから知ることになろう。そなたが追い求めるものを違わなければな。」
「私が人間になったこと、間違っているのでしょうか…」
「それはそなたが答えを出すのだ。」
「はい…」
「次の人生は面白くなるであろう。」
「それは楽しみですね。」
「そなたの人生、全てはそなたの願いが形になるのだからな。」
「心得ました。」
とにかく、また生まれ変わることができるのは分かった。
しかし、あと何度生きられるのだろうか…龍王様になら分かるかもしれないな。
「龍でなくなった今、そなたがなぜこの場に戻れたと思う。」
「…え?」
「死んだ人の魂は皆、寄り集まる天界の場所がある。」
「では、私もこれからそちらへ…」
「ならん。柱にはそなたの魂の根源を話していない。混乱をきたすであろう。」
「…」
「此度の人生で得られなかったであろう事は、今からの人生で自ら得よ。」
「心得ました。」
「また生まれ変わる時があれば、他の者と同じ様に寄り集まることを許す。一度死んで魂の年輪ができた以上、不思議がられる事もなくなろう。」
「そうですか、これでやっと人として仲間入りってわけですね。」
「そなたが龍であったこと、己自身忘れる時が来よう。それが人間になれたということになろう。」
「それは、龍であったこと、つまり皆様の事も忘れてしまうのでしょうか。」
「もう…会うこともなかろう。」
「え?」
「伝えるべきことは伝えた。後のことはそなた次第。」
「…ありがとうございます。」
「憂うことはない。心の中にいつでも居ろう、ツクヨミの様にな。」
「…はい!」
「恐れるな。そなたが望んだのだ。思う存分生きるがよい。」
「はい!」




