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第8話 少年

来年の春、16歳になったら俺は軍に召集される。 父さんが北の戦線へ戦いに行ってから今年で5年目。残された母さんと、今年で9歳になる弟のテオの三人で、なんとかこの広大な畑を耕し続けていた。最近になってからというもの、納める作物の割り当ては増える一方だ。

文句を言っている暇があれば、一株でも多く作物を育てなければ生きていけない。まあ、それでも全部持っていかれないだけいい方だよ。


「兄ちゃん、今日も畑行くの?」

クワを肩に担いだテオが、俺の隣を歩きながら顔を見上げてくる。


「ああ。日暮れまでにうねを直しておかないと、明日の雨で流されちまうからな」

「お父さんはいつ帰ってくると思う? 戦争、もうすぐ終わるのかな」

「さあな。手紙も届かないし……でも、俺たちが畑をちゃんと守ってたら、帰ってきたときに喜ぶよ」


そんな気休めを言いながら、俺たちは村外れにある畑へと向かっていた。いつもと変わらない朝の風景だった。


「ねえ、兄ちゃん……今、空が光らなかった?」


足を止めたテオが、不思議そうに雲の上を指さした。

「光? 雷か?」

「ううん、違うよ。線みたいに、スッとまっすぐ……。」

つられて俺も空を見上げた。 薄い雲が広がる青空の遥か高空。その一角で、太陽の光とは違う鋭い紫色の閃光に、思わず目を閉じた。


「眩しい。」

「さっきの光だよ。」


地鳴りのような、けれど酷く遠くから届いたような、微かな爆破音が遅れて腹に響いてきた。

軌道基地の近くで何かあったのだろうか。いや、最近はレジスタンスの活動も激しいと聞く。

「兄ちゃん、何か落ちてくる……。」

テオの声にハッとして目を凝らす。 青空を切り裂いて、雲の向こうからひとつの物体が姿を現した。 後ろから黒い煙を撒き散らしながら、不規則な軌道を描いている。

炎を引く船は2隻あった。先頭の1隻が急降下していくなか、もう一隻は東へ向かって飛び去っていく。

「あれが宇宙船……あんなに大きいのか……?」

俺はクワを握りしめたまま、金縛りに遭ったように動けなくなった。 学校の教科書で見た連合軍や帝国の船とは、まったく違う異形の船だった。それが激しく燃焼しながら、凄まじい速度で落ちてくる。 先頭の1隻が煙の尾を引いたまま、村の南に広がる大森林の中へと消えていった。 直後、森の奥から激しい土煙が立ち上り、遅れて地面がわずかに揺れた。


「落ちちゃったね。」

「……ああ。」

テオが俺の服の裾を強く握りしめてきた。 もう一機の船も、煙を上げながらその山の向こう側へと低空で消えていった。 静まり返った畑の中で、俺とテオはただ呆然と、黒い煙が立ち上る南の森を見つめ続けていた。ただ、恐怖心よりも好奇心の方が勝っていた。


「見に行こうよ。」

「ダメだ。もし何かあったらテオだと逃げ切れないだろ。」

「それに、クワが邪魔だし。」

「兄ちゃんだけで行くの?」

「そうだ。」

「……わかった、気をつけてね。」


弟は妙に素直な笑顔で身を引いたのが気になったが、俺は森へ急いで向かった。





黒い床。

何で寝転がっているんだ?

体を起こそうとすると、全身に鈍い痛みが走る。身体が思うように動かせない。

「……そうか、気絶していたのか。」


エレオノーラが駆け寄ってきた。衝撃で髪は乱れているものの、大きな怪我はなさそうだった。

「司令官、大丈夫ですか?司令官。」


「大丈夫だ、被害状況はどうなっている。」


「甚大です」

「右舷中央は圧縮破壊し、機関室は完全に炎上しています。」

「自動消火システムが不活性ガスを噴射し続けていますが……配管の破損が激しく、後部の完全な鎮火は困難です」


足元深くから、船体の竜骨が悲鳴を上げる鈍い音が響く。遮断された耐火隔壁の隙間から、焦げた臭いと熱気がじわじわと伝わってくる。隔壁の向こうでは、まだ火災が続いているようだ。



「アリスはどこだ?」


「現場で指揮を執っています。負傷者の搬送ルート確保と、艦外への退避を指揮しております。」

「艦長は機関区画の救助に向かいました。」


「わかった。ここにいても危険だから外に出るぞ。」


扉を開けると、廊下は非常用照明だけが赤く灯っていた。床は右舷側に大きく傾いている。左部降下区画へ向かう。すでにリフトは展開され、開いたハッチの向こうから強い陽光が差し込んでいた。

思わず目を細めると見渡す限りの森林だ。湿った風が頬を撫で、土と草木の匂いが鼻をくすぐると言いたいところだが、臭い。焼けたゴムのような臭いがした。

前側を見つめる。

「着陸脚が押し潰れていたか。」


海でも砂漠でもなく森林に降りられたのは、不幸中の幸いだったな。少し離れた場所には、すでに負傷兵のためのテントが見えた。アリスらしい、無駄のない指揮だな。この船が完全に崩壊する可能性があるから、周辺の安全を確保しなければならない。


「動ける者は、直ちに隊を組んで周辺の警戒をしてくれ。墜落の音を聞きつけて何が集まってくるかわからん。」



「了解!」

10人程度が森の中へと向かっていった。


その背中を見送った後、俺はテントの方へ歩み寄った。アリスが、うめき声を上げる負傷者の止血包帯を替えているところだった。額に汗を滲ませ、煤で制服を汚しながらも、その手つきは優しく丁寧だった。


俺の足音に気づくと、彼女は手を止めて立ち上がり、短い敬礼とともにこちらを見た。


「司令官、お怪我はありませんか」

「問題ない。そっちの状況は」

「死傷者は現在57名、行方不明者は47名です。応急処置を進めています。……ですが、艦長がまだ戻っていません。」

「機関区画だな」

「はい」

「とりあえず、安全のために……。」

その時だった。

「閣下!」

突然、叫び声が聞こえた。森へ向かったはずの哨戒兵が数名、一人の少年を連れて戻ってくる。痩せ細った少年だった。


短い敬礼と共に、報告を聞く。

「周辺で住民を一名発見。草むらに潜んでいました。言語は不明です。」


「そうか、意思疎通はできないのか。」

未知の惑星だし、言語が違うのは自明の理か。なぜかみんなの視線が俺に集まる。いくらレオニスでも他の惑星の言語も理解できるなんて聞いてないぞ。


近くで聞いていたアリスが囁いた。

「エルを出さないのですか?」


軽く咳払いをしたあとに、携帯型通信機を取り出す。青い光が投射されると、立体ホログラムのエルが現れた。何か確信したかのような目で一瞬だけこちらを見てきたあと、少年の方に視線を移した。


少年は怯えた表情を見せながら、何か喋っているように見えた。


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