第7話 惑星降下
ワープ航行終了まで20秒、エルの目が急に赤く光った。
「警告。巨大人工建造物を確認。」
「ワープを緊急離脱します。」
次の瞬間、艦体に鈍い衝撃が走り、大型スクリーンを見上げると、巨大な宇宙ステーションが見えた。
「外部映像を拡大表示しますか。」
「……いや、待て。」
レオニスは艦橋前方へ視線を戻した。
そういえば、この艦橋には観測窓があったはずだ。ゲームではホログラム表示ばかり使っていたせいで、すっかり存在を忘れていた。
「前方観測窓の防護壁を開けてくれ。」
「了解。前方観測窓、開放します。」
戦闘時やワープ航行中は閉鎖される防護壁が、静かに上下に開いた。透明装甲越しに巨大な人工構造物が浮かんでいる。そして、何やら太いチューブのようなものが惑星と繋がっていた。
「あれが宇宙ステーションか、遠くからでもわかる大きさだな。」
「ん、何だ……あの細い線のようなものは?」
「エル、識別できるか?」
「解析結果を報告します。連邦の既存データベースと一致せず、軌道基地および軌道エレベーターと推定されます。」
「フリゲート艦はあそこから来たのでしょうか」
アリスは数日前の出来事を思い出した。
「見た目から所属を判断するわけにはいかないな。」
その瞬間、低いアルトの声が艦橋に響いた。
「ならば、今すぐ拿捕すべきです」
振り返ると、エレオノーラ陸戦長が目を輝かせて立っていた。
「敵が態勢を整える前に乗り込み、内部を制圧する。それが最も早く情報を得る方法です」
「偵察など必要ありません。先手必勝こそが勝利への一歩です。」
「……また始まった」
ユリアンは小さくため息をついた。
「陸戦長の考えは理解できます。しかし、未知の敵へ正面から接近するのは危険です」
「だからこそです。敵がこちらを知らない今が最大の好機でしょう」
エレオノーラは即答した。
「……。」
レオニスは少し考え込んだ。
「まずは、救難信号の発信源である惑星が先だ。」
「本艦だと目立ちすぎるから、コルベット艦で行こう。」
「発信源のある惑星へ接近するには、あの軌道基地の監視範囲を通過する可能性があります。」
「コルベット艦では、短距離ワープが使えないため、フリゲート艦が良いのではないでしょうか?」
完璧な作戦だとユリアンは確信していた。
そこでエルが補足する。
「フリゲート艦であれば短距離ワープにより、監視範囲外から惑星近傍への接近が可能と推定します。」
「ただし、短距離ワープ後の誤差は最大約2キロメートル。」
「敵に探知される確率、12.3%。」
「12.3%か……。」
「十分だ。本官も同行する。エル、フリゲート艦を2隻準備してくれ。」
どんな惑星なのか見てみたい気持ちはある。だが、今回は好奇心だけで動ける状況じゃないな。
「フリゲート艦2隻を出撃準備に移行します。」
「司令官自ら、ですか?」
ユリアンは目を一瞬、大きく開けた。
「奇遇ですね。私も司令官が同行されるべきだと考えておりました。」
「本艦はこの私にお任せを。」
「この艦には、まだ鍛え足りん兵士がおりますのでな。」
「では各自準備せよ。」
幕僚たちは一斉に席を立った。レオニスも艦橋を後にし、出撃準備を終えたフリゲート艦へ向かった。
巨大な格納庫では、二隻のフリゲート艦がすでに出撃準備を整えていた。整備員たちが最後の点検を終え、艦内へ物資が運び込まれている。
レオニスは先行する1番艦へ乗り込んだ。
「1番フリゲート、発進します。」
固定アームが解除されると、フリゲート艦はゆっくりと艦底方向へ押し出された。母艦から十分な距離を取ると、艦尾の推進機関が青白く点火し、惑星へ向けて加速を開始する。
その後、ユリアン率いる2番フリゲート艦も発進し、一定の間隔を保ちながら後方へ続いた。
フリゲート艦の小さな艦橋は、本艦に比べて狭く、あちこちに露出した配管や骨格フレームが重厚な印象を与えていた。
フリゲートの艦長が正面スクリーンから目を離さず報告する。
「これより、30秒後に短距離ワープに入ります。」
「わかった」
レオニスは短く答えた。
このままうまくいけばいいんだが……。敵にバレる確率が12.3%だから決して低くないな。
「短距離ワープ、開始します。」
一瞬だけ全身がふわりと浮くような感覚が走った。
「ワープに成功しました。」
「誤差、約1.8キロメートル。許容範囲内です」
もう終わったのか。旗艦での長距離ワープのような振動はなく、身体が一瞬軽くなっただけだった。
「2番艦のワープを確認。」
「現在のところ敵反応は……」
次の瞬間、爆発音とともに、艦橋が激しく揺れた。警報音がけたたましく鳴り響き、周辺に赤い警告灯が反射している。
「右舷に被弾!」
「推進機関損傷、 推力低下!」
「熱源探知、 軌道基地より未知のエネルギーによる攻撃です。」
くそ、推進器をやられた状態で宇宙空間へ引き返せるわけがない。 選択肢は最初から落ちるか降りるしかなかったのか。
「二番艦も被弾しました!」
「司令官、応答してください」
通信コンソールにユリアンの焦燥に駆られた顔が割り込む。2番艦の艦橋でも警告灯が明滅しているのが見えた。
「強行突破するぞ。」
「ここで下手に引き返せば、背後から格好の的にされる。」
「わかりました。作戦を続行します。」
「司令官、このままでは次弾が来ます!」
アリスが大きな声で言った。
「艦長、このまま全速力で大気圏に突入してくれ!」
通信が維持されている以上、二番艦はまだ移動不能ではないはずだ。ただ、ここから通信がしばらくできないな。
「ヴォンッバァァン!!」
空間そのものが裂けるような轟音とともに船体全体が激しく横に弾かれた。天井の照明が弾け飛び、火花が散るのが見えた。焼けた配線の臭いと、高温になった金属特有の匂いが鼻を突く。
「後部に被弾」
「推進器喪失、 艦体を制御できません!」
「警告。姿勢制御不能。艦体を引き上げてください、艦体を引き上げてください。」
不気味な機械音が響く。
「全員、衝撃に備えろ。」
レオニスは内心焦っていた。ここで終わりか……。転生したと思ったら、ずいぶん短い人生だったな。いや、3発目が来なければ、いけるはず。
艦体は制御を失ったまま、大気圏に突入していく。船体を包む振動は次第に激しさを増すばかりで、一部を除いて誰もが墜落の到来を悟っていた。
「絶好の上陸日和です。」
「敵も、まさかこんな強襲は予想していないでしょう。」
「何言ってるの、エレオノーラ。」
「どう見ても墜落よ。」
「いいえ、まだ攻撃手段は残って……。」
凄まじい衝撃とともに、レオニスの意識は薄れていった。




