第8話 キルシェ先生
予約できてませんでした ごめんなさい
キルシェ先生の配信は全部で三時間くらいあったので、昼休み後半で全部見るのは到底無理。
ファンが作った配信切り抜きでもいいんだけど、内容によっては前後の文脈も拾いたいから、今回は配信アーカイブの該当箇所を再生しようとなった。
アーカイブは杏奈のスマホで再生しつつ、私がネットを検索して、スター・ホワイトへの言及があった時間を調べる。
「二時間四十分のあたり」
「ありがと、あーちゃん。この辺かな?」
杏奈がスワイプして動画の再生位置を調整。
『……ランキングね。みんな好きだよね、ランキング』
ふんわりと甘い声がスマホから流れる。
チェリーピンクをベースに、黒の差し色が映える甘めシルエットのバトルドレス。
ボリュームのあるフラッフィーヘアを黒いリボンでツーサイドアップにした姿は、ぱっと見は夢見る地雷系少女だ。
けれど、大きな襟ぐりからちらりと覗く黒いハーネスが、甘さをピリリと引き締めている。
そんなキルシェ先生が配信の中で語っているのは、魔法少女のランキング文化についてだった。
◇
『魔法少女なんてね、究極、キルスコアだけ数えてればいいの』
―― キルスコア言うな定期
―― これかなりの暴言じゃん。炎上しないの?
―― 初見か?
―― ここは場末の深夜番組よ
―― 場末の深夜番組(同接1万)
『討伐ランキング急上昇! そかそか頑張ってるじゃん。人気ランキング急降下! だから何? それくらいでいいと思うんだよね。君らがあれやこれやのランキングに一喜一憂するのはそういうもんだから良いけど、魔法少女にそれをぶつけるのはお門違いだよ』
―― それな
―― ほんとそれ
―― 最近ランキングサイト乱立しすぎ
『そういうところだぞ。誰かをぶっ叩く棒にすんなって言ってんの』
―― おっと
―― お叱りとんできた!ありがとうございます!
『有名なのは討伐数ランキングだけど、人気ランキングがあってもいいと私は思ってる。個人的には、キルアシストランキングとかあると、支援系魔法少女としては話題に困らないんだけど。作れないの? て聞いたんだよね、討伐ランキングサイトの運営に。そしたら、討伐数以上にカウントが困難だから無理だって。それはそうかー、と納得しちゃった』
―― 唐突な私利私欲
―― いつものキルシェ先生
『それとランキングサイトやってる側にも、言い分はあるからね。魔法少女で稼ぐな儲けるな、なんて言わない。私たちはそれも込みで公認制度の恩恵を受けてる。魔法少女は全部ひっくるめた日常を守っている。んで、なんでこんな話してるんだっけ』
―― ランキングサイトの収益、実はかなりの割合で魔法少女の活動補助に使われてる
―― モグリのサイトはだいたい二十四時間で更地になるからな
―― 仕事の速さに定評のある特災庁魔法少女局
―― なんでだっけ
―― 討伐実績横取りの話
―― ウチの推しのランキング下がったの謎の狙撃のせいって暴れたバカの話が発端
『そうそう、それそれ。最近話題の狙撃。あれすごいよ。セラの感知範囲外から一撃だってさ』
―― は?
―― え?
―― マジ?
―― うそやろ
―― セラ様以上のアウトレンジは信じがたい
『セラが言ってたから間違いないんじゃない? 実力のある魔法少女が増えるの、先生大歓迎でーす』
―― それはそう
―― ほんとそう
―― 同意しかないけど、未確認未公認って噂の子?
『そそ。誰かにやらされてるとかじゃなければ何も問題なし。魔法少女はね、そういうもんなの』
―― これもしかして、セラ様ご指名ってこと?
―― 配信の注意事項よめー。深読み禁止
『あ、万が一、獲物横取りされたー、とか寝ぼけたこという魔法少女がいたら、先生お話しにいきます。はい、次のお便りいくよー。生徒名「天気雨」。これは読まなくていいや。次……』
―― なんでですか!?
―― 本人居て草
◇
うそでしょ。
「なるほど、これでどこの事務所からデビューか、みたいな話題が盛り上がってるわけか」
「?」
「えっと、配信でキルシェ先生が言ってた『先生大歓迎でーす』っていう一言。文字通り、私はスター・ホワイトを受け入れますって意味で。ええと、昨晩までは、スター・ホワイトは存在するか、どうかが焦点で、だから、あーちゃんパス。美宙に分かりやすく説明して」
「んえ?! えっと」
ちょっと杏奈! ノールックのキラーパスやめて?!
「仮称スター・ホワイトという正体不明の魔法少女がいるんじゃないか、という噂の段階だったのが昨晩」
「うん」
「昨晩の段階では真偽不明で、実在する派が2割、懐疑派が8割くらいだった」
「噂好きなら知ってるかも、くらいと」
「美宙、なんでこっち見た」
「で! 実在する派の中でも、歓迎派と否定派が半々くらいだったの」
「数字をとってるあーちゃん、マジあーちゃんだなって感心する」
「茶化さないで、杏奈」
あと、私かもしれない謎の魔法少女の話題を私に説明させるの止めて! と言いたい!
「それが、さっきの配信で、謎の魔法少女は実在する、発言力のある魔法少女は歓迎を表明、てなったわけ」
「謎の魔法少女は、デビュー秒読みだって思われた」
「そうそう。配信ではそこまでは言ってないけど、そんなのお構いなしにネットが盛り上がった……ということだと思う」
たぶん、間違いない。
これ、各魔法少女事務所から、特災庁に問い合わせが殺到するやつだ。
ひぃん。
「あーちゃん、ありがと、分かりやすかった」
「急に振ってごめん」
「どういたしまして」
予鈴が鳴ったので、食べ終わったお弁当箱を片付けていく。
ふと、視線を感じて顔を上げると、美宙がじっとこちらを見ている。
「あーちゃん、最近疲れてるみたいだから、何か無理してないか心配」
「ん。大丈夫。無理はしてない」
してません。
無理のない範囲でコソコソ活動してるだけです。
無理はしてないけど、現実が襲いかかってきそうなだけです。
キルシェ先生の配信、間違いなく界隈に嵐を引き起こした。
スター・ホワイトは、存在自体が真偽不明の魔法少女から、キルシェ先生が存在を前提に歓迎の意を示した魔法少女へと、一気に格上げだ。
スター・ホワイトがアヴァロンからデビューするのでは、というSNSでの憶測に対して、アヴァロン公式の否定が妙に遅れたのも、たぶんそのせいだ。
本人と接触できるか。
接触した魔法少女がいないか。
もし見つけられるなら、あわよくばアヴァロンからデビューさせられないか。
そんな打算が、否定発信の遅れにつながったのだと思う。
私の知らないうちに、私を巻き込みそうな嵐が育っている気がしてならない。
「あーちゃん、今日は一緒に帰れる?」
「あ、うん。大丈夫」
今日はコソコソ活動しません。
こんなメンタル状態で、危険な境界層には入れない。
「今日は一緒に帰ろう」




