第68話 特災庁特殊技術開発課
濃い金色の髪をポニーテールにした魔法少女が決め技の名を高らかに唱え、金色の光が画面いっぱいに溢れ、ピンクにキラキラした光が流れていって爆煙が晴れる。
決めポーズをとっている魔法少女の肩に、ふわりと着地する相棒のマスコットキャラ。
笑顔を見せる画面の中の魔法少女に、膝の間に座ったまま惜しみない拍手を贈る小さな少女の頭を撫でる。
◇
なんだか、暖かいものが胸に満ちたような気がしたと思ったら、カーテン越しの朝日でぼんやりと明るい天井が目に入った。
枕の下からスマートフォンを引っ張り出して見ると、ちょうど七時になって、目覚ましのアラームが静かに鳴り始めたのを、素早くスワイプして止めてメモアプリを引っ張り出す。
目覚ましより先に目が覚めると、ちょっと損したようなそうでもないような微妙な気分になるよね。
夢の内容をざっとメモしたら起き上がって着替え……の前に、一瞬だけ待ち受け画面のセラ様を拝む。
今日も推しが尊い。
画像は去年のオフイベトークショーの後に、セラ様と撮ったツーショット写真のセラ様の部分だ。チェネステの姿とはいえ自分を待ち受けに入れるのは流石にちょっと無理なので、お揃いを希望されたセラ様を説き伏せてこの形で納得してもらった。
つまりセラ様のスマホの画面には、ツーショットの残り半分。
それはそれで心臓の負荷が高いけれど思い出さなければどうということはない。
なお、思い出してしまったので、朝の予定は十五分押しになった。
そういえば、今年もトークショーやるんだよな。なんか、完全に恒例になってないか?
今年もやりますよ、と言われれば、はい喜んで! 以外の回答選択肢は無いからいいのだけど、こう、セラ様とのトークを独占してしまっていいのか? と考えてしまう。
なお、呼び捨ての実績解除はまだだ。
あんなに麗しくて尊いセラ様から、様を取り除こうなどという行為が許されるのか? 許されない!
お前ら本当に面倒くさいな、て言われてもね!
今日は一日魔法少女としての仕事だから、私服で寮の食堂に。隅っこでささっとトーストとオムレツを頂く。
朝はパン派だよ。
「灰宮さん、今日は研修?」
「あ、はい。いろいろ試験です」
「そう。頑張ってくださいね」
食堂を出る時に寮生のクラスメイトに声をかけられた。
学校の雰囲気のせいなのか、元々そうなのか、丁寧な人が多いんだよね。
支度よし、持ち物よし。
お迎えの車確認。行きますか!
◇
特災庁特殊技術開発課――
今年度、特殊技術開発室から予算規模も人員も拡大された、特災庁のルミナ装備開発部門だ。
研究所が基礎研究や境界層観測機器類の開発を行うのに対し、特殊技術開発課は魔法少女が境界層で使用する様々な装備品開発がメイン。
境界層での活動を支援する各種ドローンはこの二年でかなり充実した。
アニメの魔法少女には相棒たる可愛いマスコットがつきものだけど、現実の魔法少女のお供は様々なドローン。見た目カワイイのもあるけど、金属とプラスチックと電子機器の塊で、メルヘン成分は行方不明。
大事なのは、被害なく隔獣が駆除できることだからね。
更衣室の鏡に映る自分を見る。
首から下の全身をピッタリと包む黒色の多機能インナーに、迷彩柄のカーゴパンツとオリーブドラブのこれもぴったりサイズのTシャツ。
いつものコソコソスタイルに近いけれど、違うのは変身している点。
迷彩装備に、アップスタイルにまとめたピンク色の髪という組み合わせがちょっと新鮮だね。
魔法少女のバトルドレス、変身とセット感あるけど、実は変身後に脱ぐこともできる。
できるけど、脱いだり、バトルドレスの上から何か着たりすると、極端にルミナが扱いづらくなってルミナ出力が大幅に落ちるという特大のデメリットがあるので、基本やらない。
じゃあなんで変身してから着替えているのか、というと、これ、変身状態のルミナ出力をほぼ落とすことなく、非変身時並にルミナ発出を抑え、高いステルス性を維持できるという画期的な新装備なのだ。
ちなみに一式のお値段はすごい。量産は全く考慮されてないくらい、すごく、すごい。
装備と一緒に渡されたチェック表を確認して更衣室を出ると、待機していた係員の人と合流。
フィッティングをチェックしてもらい、ハーネスを装着してポーチ類を取り付けていく。
最後に迷彩コートを羽織ったら、ルミナの通りをチェック。
うん、バトルドレスの時ほどスムーズではないけれど、ルミナは問題なく通って、魔法の使用も支障ない。
見た目は自前で用意したコソコソ活動用装備に似てるけど、中身は特殊技術開発課による最新のルミナ装備。
基本的な性能試験は終わっているので、今日は実戦運用テストとして境界層深部偵察に向かう。
高濃度瘴気環境となる境界層深部は、変身状態で向かうと、とんでもない数の隔獣が寄ってくることが、ドローンによる情報収集から予測されている。
かといって、隔獣が反応しないように非変身状態で向かうには瘴気が濃すぎてリスクが読めない。選りすぐりのメンバーでの強行偵察案もあったけど、これもリスク評価の結果、廃案に。そんなこんなで、境界層深部の調査は、必要性こそ認められていたものの、一年ほど保留となっていた。
で、そういった動きとは別に研究所が独自に進めていた変身後のルミナ発出を抑える試作装備が駆除課の目に留まり、特殊技術開発課が実用装備を開発したことで、これで行けるのでは? となったそうだ。
「どうですか?」
「あれ、久我原さん。昨日ぶりです。暇ですか?」
「暇なわけないでしょう。指揮センターでオブザーバーですよ」
境界層でのオペレーションに直接かかわることは少ない久我原さんの登場にちょっとビックリだよ。
知り合った当初には、困ったら頼る眼鏡仲間、くらいに思っていたけれど、二年近く、特災庁の色々な人と関わってきたから、久我原さんがどれくらいのポジションの人なのか、さすがに分かってきた。
わりとかなり偉い人だ。最近、少し出世したらしいし。
……あれ、イマイチわかってない……のか? ちょうどいい喩えが思い浮かばないね!
クラス委員を決める話し合いに校長先生が来る感じ?
ポジションの割に、めちゃめちゃフットワークが軽い人だ。
「また何か残念そうなことを考えている顔をしていますが、大丈夫ですか?」
「また、って何ですか、また、って! それよりもこの服、すごいですね。そのうち魔法少女用の制服とかできます?」
「現実的ではないですね。予算がいくらあっても足りません」
「……ですよね」
「非適格者向け境界層防護服の研究データがかなり応用されてますね。もっとも、そちらの方の成果はイマイチだったようで」
魔法少女に頼り切りの現状を危うい、とみる人はそれなりに多いそうだ。
で、様々な企業や大学が、魔法少女以外による駆除活動を実現するための産官学協働プロジェクトに参加しているらしい。旗振り役は経産省で、文科省と防衛省が相乗りしてるとか。船頭多そうだな。
ローテーション制度で駆除が安定している国内だけを見ると、杞憂では、となるのだけれど、海外の状況はかなり芳しくないらしいからね。
二年前の黒巨人――アレは世界中で出現していて、ルミナ適格者にかなりの被害が出たとか。その結果、境界層駆除がままならず、実体化後の迎撃が主になりつつあるところの方が多いくらいらしい。一般には報道されていない情報だけどね。
「なにしろ、非適格者が境界層に入ったところで、何かする以前に、その存在維持が難しい」
「仮説があるのは知ってますが、そもそも非適格者はゲート潜れないですよね?」
「灰宮さん、切羽詰まった国というのは、何でもやるものなんですよ」
「……ひえ。どこ情報ですか」
「信頼できる筋からの情報です」
それを私が知る必要は無い、ってやつだ!
「非適格者の装備開発って、実際どうなんですか?」
「まだまだですね。成果は出ていますが、人を境界層に送り込むより、火星に送り込む方がまだ現実的なレベルです。当面は魔法少女向けルミナ装備の開発を優先する方針に変更なしです。やいのやいの言う外野は無視です無視」
何やら、ストレスが溜まってらっしゃる模様。準備も整ったことですし、出発しますか!
境界層に入ったら、ある程度奥まで運んでくれるチームと合流だ。
誰が来るのかな?




