第66話 灰月シンデレラ
授業を終えて放課後、学校の最寄り駅から首都区へ向かう。
快速列車で二十分ほど。直線距離で十三キロ。
ちなみに、乗車距離も十三キロ。
つまり、首都区の駅まで線路が真っすぐ一直線につながってる。街づくりゲームの線路だってもっとカーブしてるぞ?!
駅の端から、その先の駅がいくつも見えるの、ちょっとわけわからない光景だったよ。首都コワイ。
電車に乗って座ったところで、アプリで事務所にメッセージを送っておく。
灰月シンデレラ=チェネステ説が、根強く噂になっている件だ。
噂の発端は、去年、私の地元のローカルテレビ局の情報番組に、私が通っていた中学校の部活動が取り上げられたこと。
大会で少人数の部が活躍した裏には生徒会の尽力もあり――というエピソードで、うちのクラスの委員長が「生徒会長 灰月シンデレラ」というテロップ付きで数カットほどテレビに映ったのだ。
そのカットのキャプチャ画像が、美少女すぎる生徒会長――としてネットに流れ、それをたまたま見た魔法少女ファンが「チェネステに似てない?」と、チェネレントラ・ステラの公式プロフィール画像と並べて投稿。これがとんでもない勢いで広まってしまった。
魔法少女の正体を詮索する行為はアウトなので、その投稿自体はすぐに削除されたのだけど。それがかえって、信憑性を高めてしまう結果にもなった。ままならない!
委員長とチェネレントラ・ステラの顔、似ているんだよね。
そっくり、というほどではないけれど、並べて変身前・変身後です、というと十人中九人は信じそうなくらい。
鵜呑みにしない一割は、変身前後で別人のように顔が変わる例もある、と知っているややコアな魔法少女ファンだね。
で。
委員長と私――実は曾祖父を同じくする再従姉妹という血縁なため、元々、ちょっとだけ似ているのだ。といっても、二人並んで「似てるでしょ?」と聞けば「……まぁ、似ている? かも?」という反応が、私への生温かい視線とともに返ってくるくらいだけど。わかっている。皆まで言うな。
そして変身後の私、顔をだいぶ「盛っている」ので、元から華やかな眼鏡美少女の委員長にかなり印象が近くなる。
なぜ盛ったのか、と言われても、その、言い訳をさせてもらうとですね?
「理想の姿」に近いスゴイ美少女が小学校の同級生でしかも親戚とか、もう、その印象を消すのは無理といいますか。
はい。私が悪いんですー! 理想の魔法少女の姿に、ちょっとだけ委員長を思い浮かべていた小学四年生の私が!
それだけ顔が似ている上で、委員長の本名が灰月シンデレラなのがトドメというか。
「チェネレントラ」ってイタリア語の「シンデレラ」だからね。
そんなわけで、事務所が「チェネレントラ・ステラとされる人物の噂はすべて事実無根、本人ではありません」と否定しても暖簾に腕押し状態。
委員長は同学年の血縁かつクラスメイトということで、チェネレントラ・ステラの公認登録直後から魔法少女関係者警護の対象になっていたけれど、噂を受けて魔法少女本人並みの警護体制になったから、その点は安心なのだけれど。
それだけ似ていても、通っていた中学校で噂にならなかったのは、チェネレントラ・ステラのデビューとなったルーク級との戦いのとき、一緒に避難所にいるのをほぼ全ての同級生たちが目撃してるからだ。
委員長、学年の有名人だったからね。
そうじゃない岩倉さんに、シンデレラとチェネレントラ・ステラは別人、を納得してもらうにはどうしたらいいやら。
なお「私が正体を告白する」はナシとする!
そんなこと考えているうちに、線路が高架から地上に降り、列車は両脇が高台になって切通みたいになっているところを抜けていく。大学周辺からしばらくは、廃墟になったビルや空き地、重機がいくつも動いている更地なんかが目立つけれど、この辺りから真新しい高層住宅が一気に増えていくのだ。
一年半ほど前から旧首都浄化作戦が始まり、旧首都の除染が徐々に進むのに伴って、復興特需のような状態も起きつつあるらしい。
現在、隔獣災害と瘴気汚染によって無人化した首都周辺の広大な市街は、都市計画に基づいた大規模な区画整理が行われていて、私が通う三鷹附属高を含む、三鷹広大の広大な敷地もそうした区画整理によって生まれたものらしい。
ダジャレじゃないよ?
隔獣災害が始まってからほんの一年半ほど前まで、瘴気汚染は広がる一方だったとか。継続的に触れ続けると、確実に命を蝕む瘴気に汚染された土地は、当然ながら住めないし産業にも使えない。
汚染を除去する手立ても見通しもない上、瘴気は周囲にもじわじわと広がっていく。
そうなれば、土地の価値はゼロどころかマイナスだ。
タダでも売れない。
隔獣災害初期の頃には、除染の手立てが見つかることに賭けて、汚染された土地を保持し続ける人や、そういう土地を買い漁る企業もあったらしいのだけど、なんやかんやあって、土地所有者が汚染拡大防止と除染の義務を負う、みたいなことになって、皆、一斉に手放そうとしたとか。聞きかじりだから、実際の法律的な詳しいところは知らないよ。
最終的に、いくばくかの補償とともに国が引き取る制度が出来たとか。これもすったもんだはあったらしいけど、首都の大改造が可能になったこと、除染できた土地の売却益がかなりのプラスになったことで、制度の制定に関わった人たちは評価を上げたとかなんとか。今は内閣官房の審議官に出世した志島元局長も、特災庁に異動してくる前に関わっていたらしい。
久我原さん曰く「あの人は、もってる人」だそうな。へー、て顔をしてたら「だいたい全部あなたのおかげなので、思う存分恩に着せに行くといいですよ」と言われた。
むぅ。私ひとりの手柄ではないぞ?
噂をすれば影というのか。
久我原さんからメッセージが来た。「夢の件はいつも通り研究チームへ。ただ、内容が気になるので同席します」と。
なら、いつも通り首都区で降りたら、特災庁研究所の建物に向かえばいいか。
あの黒い巨人型隔獣との戦闘で瘴気侵蝕を患ってから、ちょこちょこと夢を見るようになったのだ。
最初は変な夢……くらいだったのだけど、夢にしては支離滅裂さが無いというか、妙に現実的なのに、今の現実とは一致しない点だらけで、起きてから憶えている範囲でメモを取るようにして、それを一度、久我原さんに相談したのだ。
困った時の久我原さん。
正確には、最初に間宮所長、所長から鳴海さん、鳴海さんから久我原さん、と振られていった結果だけど。
その後、瘴気侵蝕が完治してからも同じシリーズらしき夢は続いていて、夢を見る度につけていたメモを見た久我原さんがそれを研究所に回し、興味を持った研究員の人がメモの内容の分析みたいなことをして、矛盾がほとんどないが現実の世界でもない、興味深い……ということで、夢を見る度に内容を報告するようになって今に至るわけだ。
元々、私なりの境界層に対する理解や理論立てが「子供が考えたにしては綺麗に体系化され過ぎている」という評価があったとかで、協力してくれている研究者の人は「無意識下でどこかから、なんらかのヒントを得ていたのでは?」という仮説を立てていたらしい。
そんな曖昧な仮説もありなんだ……て顔をしていたら「現実に魔法少女がいる時点で何を今さら」って言われた。
それもそうだね!
――と、首都区の駅に着いた。
既に駅前に迎えの車が来てるらしい。迎えが来るのにもすっかり慣れてしまった。
これも成長……なのかなぁ?




