第65話 進学しましたよ
そうそう、なんで寮の食堂で朝ごはんかというと、進学を機に上京して寮生活になったのだ。
辛く長い受験勉強を乗り越え……
てはいないんだよなぁ。
特災庁が全面的に関わる新設大学の附属高校に、特災庁の推薦――魔法少女枠で早々に入学が決まったので。
黒い巨人型の隔獣との戦いは、中二の夏だったから、もう二年近く前だね。
そう、高校生に! なったんだよ!
華の女子高生! イエイ。
美宙や杏奈とは別々の進学先になったわけで、そこはちょっと寂しいと言えば寂しい。
特に美宙とは八年くらいの付き合いだから、人生の半分を一緒に過ごした親友だ。
メッセージアプリでいつでも話せるし、通話すれば顔も見られるし声も聞けるけど、そうだけどそうじゃないというか?
両親は仕事や妹のこともあるから、私独りで上京して寮住まい。
出来立てほやほやの真新しい寮は、個室だし、自宅の自室より広いし、きゅーおーえるはバッチリだ。
学園の敷地に隣接していて、校舎までは徒歩五分ちょっと。新緑も鮮やかな木立の間の遊歩道には、登校する寮生がチラホラいる。
全国から生徒が集まっているから、クラスの八割は寮住まいだね。
ひとクラスの人数は三十人、一学年六クラスで百八十人が一期生。新設の高校だから、一年生しかいない。
そのうち、私と同じ推薦が三十人強。皆、ルミナ適格者、つまり魔法少女だ。
この学校ができた経緯、実は私もちょっと関わっている――
二年前、チームによるローテーション制が始まったことで、これまで出撃頻度の低かった魔法少女達の、魔法少女業務での拘束時間が一気に増えた。結果、魔法少女が通う学校側が、カリキュラムの消化などに苦慮する事態が増え、文科省から特災庁になんとかしろと苦情が入ったとか。
正直、そこまで考えてなかったよ!
浅はかだったなぁ、とちょっと落ち込んでたら、事務所に顔を出した時に間宮所長から「そういうのは大人が考える仕事。灰宮さんがそこまで気を回すのは、背伸びしすぎ」って言われてしまった。
そういうこと言える大人になりたいね!
そんなこんなで、魔法少女事務所の協議会と特災庁と他いろいろ大人が集まり、知恵を寄せ合い、隔獣災害の時代に対応すべく進んでいた国立大学の新設計画に、魔法少女支援を充実させた附属の中高を加える解決策を捻り出した。
それが、いま私が通っている国立三鷹広域学術大学附属高等学校。
長いので三鷹附属高なんて呼ばれてるよ。
「おはよう」
「おはよう、灰宮さん」
「灰宮さん、今日も早いね」
教室に入ると、既に何人かクラスメイトが席で本を読んでいたり、グループでおしゃべりしてたり。
私も席に座ったら教科書開いて軽く予習。
中学では学年トップクラスの成績だったけど、高校ではギリギリ平均くらいだ。周りのレベルが高いんだよ。
ちなみにクラスには女子しかいない……というか学年にも女子しかいない。共学なのにね!
願書受付が始まる少し前に、魔法少女向けの学業支援制度が充実している、という話が何をどうしてか「三鷹附属は魔法少女学校」なんて噂に変わっていて、男子の志望者がほとんどいなかったとか。
確かに中学三年という色々アレな時期に「アイツ魔法少女学校受けるんだってよ!」とか噂になったら、色々と、その、なんだ。
大変そうだよね。
はぎー、元気にしてるかな?
いや別に他意はないよ。うん。
結局、一般入試の出願倍率は四十倍以上の高倍率だったとか。合格発表段階では男子も二人いたらしいけど、入学はしなかったみたい。
そんなこんなで実質女子校となった我が校だ。
少しずつ人が増え始めた教室に、一際華やかな雰囲気の一団が加わる。
「おはようございます」
「おはよう!」
「おはよう、岩倉さん。今日は早朝ローテ?」
「ええ。ビースト級を発見しまして、駆除してきました」
「おー、さすが魔法少女ミンストレル。駆除お疲れー」
入ってきたのはクラスに全部で五人いる魔法少女のうち、私以外の四人。
三人は公認登録から一年ほどで、チームにも馴染んでローテーションにも慣れてきた頃。
リーダー格の岩倉さんはそれより半年早い公認登録で、最近チームリーダーに昇格したばかり。目標は円卓入り、だそうだ。
私の見立てでは十分に可能性はある。
チーム制が始まった二年前に比べると、魔法少女の数が増えた分、ローテーションにも余裕が出ていて、公認登録後の研修期間も以前より長めになっている。
今は、登録から半年で境界層デビュー、九ヶ月でローテーション入りすれば優秀と言われる。岩倉さんは、登録半年でローテーション入り、そこから一年でリーダー昇格しているので、かなり将来を期待されている魔法少女だね。
登録ひと月で境界層デビュー、一年半で円卓入りしていたルージュやシャルの頃とは、隔世の感だよ。
「おはようございます、灰宮さん」
「岩倉さん、おはよう」
「どう、順調ですか?」
「ぼちぼちかな。ありがとう。岩倉さんの隔獣駆除、いつも手際よく鮮やかでカッコいいよ」
「あら、ありがとうございます。灰宮さんもローテーション入りしましたら、きっと活躍しますよ。素質、とてもありそうですから」
「あはは、ありがと!」
うひゃあ。ぼんやり眺めてたら、声かけられてしまった。
岩倉さんはクラス内で魔法少女名まで公表しているけど、私は伏せている。
どうしても公休予定が多い上に、急な休みもあるから、魔法少女であることは黙っていてもバレるしね。
で、教室にいる頻度とかタイミングとかで、なんとなくローテーションに入っていない魔法少女、ということはわかるわけで。
しかも、直近で公休になったのがローテーション入り前の魔法少女が集まる合同研修の時なので、まだ研修中だから名乗れないのね、みたいな感じになった。
誤解だけど放置一択だ。
研修生以外にも、ローテーション外の魔法少女はいるよ。円卓の魔法少女とか――
なんて指摘はしない。絶対にしない。
いやまぁ、魔法少女をきちんとやると決意はしているし、そこに真摯に向き合っているつもりだけど、二十四時間三百六十五日チェネレントラ・ステラをやるつもりまではない。
ここ一年半くらいにデビューした魔法少女には、チェネステに影響を受けたと公言する子が結構な割合でいるのだ。
先ほどの岩倉さんもその一人で、ヘソ出しミニスカートのスタイリッシュなバトルドレス姿がカッコいい魔法少女だ。
大きめのト音記号ピアスがチャームポイント。
もうね、ここ一年くらいで憧れられるということの重さとか熱量とか、そういうものは痛感した。
あれを四六時中浴びていたら、潰れてしまう。
一度、セラ様とノワ様に、どうやったら平気になるか訊いてみたけど、きょとんとされたよ!
え? それがどうかしたの? って感じ。
生まれながらのカリスマオーラ持ちどもめ!
そんなノワ様は半年前に円卓から退いて、今は後進指導に注力している。
ノワ様に代わって円卓入りしたのは、ヴァイセだ。
いまや実力でも配信人気でも五本の指に入る魔法少女ヴァイセ・ブリューテ。
配信する側の心得については、ヴァイセ先生とキルシュの教えがとてもためになった。ヴァイセには足を向けて寝られないね!
キルシュ?
毎回「灰星配信NG集 パート◯◯」とかいう切り抜きを作って送って来るヤツには足向けて寝ちゃうもんね。
暇かよ! いや、忙しいのは知ってるけど、それ作る時間どうやって捻り出してるんだよ。これだから万能の天才様は!
「岩倉さんは昨日のステラ様の配信、見た?」
「もちろんです! 毎回、大変有意義な内容ですもの。見逃すわけにはいきません」
おっふ。
「『今回の注目魔法少女』に取り上げられるの、夢だよね」
「ねー。ステラ様ほんと憧れ。公認即円卓入りの衝撃はほんと凄かった!」
「今の制度とか、魔法分類とかもステラ様だもんね。はー、同い年とは思えない高みだよ」
「今は見上げることしかできませんけれど、いつかきっと肩を並べて見せます!」
ひぃん。タスケテ。
机に突っ伏したいけど、そんな目立つリアクション取るわけにはいかない!
あと、制度づくりは鳴海さんを中心とした特災庁魔法少女室の皆さん、魔法分類の作成は研究チームと久我原さんとキルシュの仕事だよ!
「ステラ様もいいけど、わたしはやっぱりノワ様かなぁ。あー、あと一ヶ月長く研修配属だったら、直接ご指導いただけたのに!」
「円卓引退からの、教導隊入りだもんねー。今の子たちが羨ましいよ!」
おっと視線がこっちに!
「灰宮さん、ノワ様はよくいらっしゃるの?」
「はい。毎回ではないですが、研修所でお会いします」
「いいなー!」
いや、嘘はついてないよ!
ノワ様が全ての研修を回れているわけではないのは事実だし、私も一緒に行くことがあるから、研修所で顔を合わせているのも本当。
うん、私も悪い子になったものだ。
「灰宮さんは、名前がステラ様っぽいのも羨ましいです。私と交換しません?」
「親からもらった名前をトレードはできないかな!」
「残念です」
あ、これ本気で交換したい顔だ?!
「灰宮さんて、ステラ様の対極にある雰囲気だよね」
「とてもおとなしくていらっしゃいますもの。魔法少女としては、もっと主張するものがあってもよろしいとは思いますが、そこは個性ですから」
変身後は別人だぞ☆
高校生になってますます美少女になった委員長直伝、ザ・すごく地味に見えるメイク、のおかげもあるけど。
「ステラ様、本名も個性的ですものね」
「ね! 灰月シンデレラって、すごいよ、うん。名前負けしてない美少女っぷりもすごい」
それは、事実と、異なる、ネットの噂だよ!
シンデレラさんは別人! 別人だからー!
赤の他人じゃないところが複雑だけどさ。
「あの、岩倉さん。その人は違うとトワイライトパレス公式が……」
「もちろん、そういうことだと心得ています」
あ、これ、通じてないやつ。
事務所が公式に否定してもなんか「そこはそう言うしかないよね」みたいな空気、なんなんだよ、もー。




