第60話 再戦
さぁ、第二ラウンドだ。
勝利条件は、三分間セラ様を守った上で、巨人にセラ様のいう「とっておき」を命中させれば勝ち。
うん、シンプルになったね!
前に出るルージュ、ヴァイセと別れ、初戦と同じように巨人の頭上よりも高い位置へと駆け上がっていく。
初戦と違うのは、手に持つ武器種。
一メートル半強の斧槍から二メートル弱の対物ライフルへ。サイズもさることながら、重量が重量だけに、軽快な動きはできない。
そこは注意しないとね。
空中を疾走し、巨人を飛び越えて背面側に回る。
頭上斜め後方、黒剣の間合いの外から胴体ど真ん中を狙って一射。
チャージを始めたセラ様に膨大なルミナが収束されるのに反応しかけた巨人の足が止まり、一歩後退。
セラ様の方にそのまま踏み出していたら、ちょうど巨人の首っぽいところの付け根に命中していたはずだから、相変わらず慎重で勘のいいことで。
だけど、さっきまでの私とは違うぞ。
体重をかけるようにボルトハンドルを引いて排莢、ボルトを押し込んで次弾装填、狙いをつけて射撃――
セラ様が即座に撃ってこないのを見切って、盾をこちらの射線に回してくる巨人。
巨人のサイズからしたら、対物二十ミリ砲弾なんて針のひと刺し程度のものなのに、油断なく盾で防ぐ……その慎重さを狙わせてもらう!
盾の表面で爆ぜる光。
こちらを追い払おうと続けざまに肩スリットから放ってくる黒光をかわしながら、ボルト操作してもう一射。それにしても重い!
マガジンをリリースして即座に再装填! 何もかもが大きい! 操作が慣れない!
強烈な反動を吸収する油圧ダンパーの動作に、重たい装填操作……どんなに手早くやっても、一発撃つのに六、七秒かかる。
それでも、巨人の妨害がさほどでもなく、盾の使い方も反射的で先読みや反撃まで踏み込むものではないから、こちらの狙い通りの場所に次々と命中させていくことができる。
巨人本体を狙って盾に防がれている体で、実際の狙いはその盾だ。狙うのは盾の中央を中心として、概ね円形になるように十二箇所。現在半分。順調!
それもこれも、足元で大暴れしているルージュとヴァイセのペアのおかげだ。
というか、なんだ、あれ。
ルージュの周囲には紅色の花の蕾みたいなものが十二個も浮かんでいて、蕾?の根本から伸びる茎が巨人の方を向いている。で、ルージュが手に持つハンドガンから光弾を放つのに連動して、筒のようになっている茎から同じような光弾が放たれている。
一発撃つと追加で十二発の光弾が飛んでいくから、両手それぞれで撃って二十六発。それが一秒二回くらいのペースだから、一分で三千発のペースだ。
バルカン砲か何かかな?
セラ様のような桁違いのルミナ圧を誇る魔法少女を別にすれば、ルージュのルミナ圧はトップクラスだし、ヴァイセも最近、ぐんと伸びた。その二人が協力してルミナを注ぎ込んでいる魔法となれば、アストラ・クラウンの通常射くらい、もしかしたらそれ以上の威力は出るよね。
ポーン級なんて一瞬で蒸発しそうだし、一点集中で装甲破ったらルーク級でも数十秒で溶けそう。
さらに。
元より変幻自在な動きをして見せるルージュの機動は、足元に舞う無数の白い花片が追加の足場となって、なんかもう、訳がわからない。なんなら、ちょっと分身とかしてない? 気のせい?
巨人の足元にまとわりつくルージュの後方、巨人の黒剣の間合いの外では、白い花片を周囲に舞わせたヴァイセがルージュの援護に集中している。ヴァイセに対する巨人の攻撃――巨人から放たれる杭みたいなものも黒光も、ルージュが攻撃の片手間に片端から撃墜している。って、黒光ってそんなにあっさり撃墜できるんだ……いやいやいや、できない、ふつーはできない。
なんだよあのペア、理不尽か?
巨人が焦れたようにヴァイセの方へ踏み出そうとする。
お? 焦ったか? 隙だらけだぞ!
踏み出しに伴って盾が下がった一瞬の隙に真正面から、ずんぐりした巨人の頭部っぽいパーツに砲弾を叩き込む。
衝撃魔法を目いっぱいに詰め込んだ砲弾が炸裂し、ストレートパンチをもろに喰らったみたいに仰け反る巨人。踏み出しかけた右足を大きく後ろに引いて、転倒を免れるも、残った左足がルージュの目の前に無防備に晒される。
間髪入れず、嵐みたいな銃撃が巨人の左足の膝らしきところに集中する。
関節を守ってるらしき装甲? 鎧? っぽいパーツが次々に砕け散っていく。巨人が慌てて盾を下に構えれば、はみ出た肩を、肩を守ればつま先、と素早く的確に狙いを変えていくの、なんかもう、すごいな。すごいとしか。
呆けてる暇はないので、こちらもせっせと次弾装填しては、巨人の盾に砲弾を撃ち込んでいく。
ルージュさん? 攻撃しながら、こちらにウインクまでして見せるのなんだよ、惚れさせたいのか? すき。
ルージュ&ヴァイセペアの予想外の活躍もあって、セラ様に頼りきりの一か八か、みたいな賭けではなく、セラ様の重チャージ攻撃を確実に巨人まで導く手立ても見えた。
約束の三分間まであと半分ほどというところでチラリと後方を確認すれば、セラ様のいるあたりにものすごいルミナの輝きが四つ浮かんでいる。
なんだあれ……輝き一個に、フルチャージしたアストラ・クラウンか、それ以上のルミナ圧がある。あれは確かに飛び切りに「とっておき」だ。
あれだけのルミナ圧、巨人も手をこまねいたりはしない筈、と視線を向ければ、正面下方でルージュに膝を痛打された巨人が、グッと前傾姿勢に……いや、身体を丸めて背中を突き出し……んな?!
巨人の背中から上空へ無数に伸びた黒光が、ギュンとカーブしてこっちの前衛メンバーそれぞれに向かってくる。
追尾型?! そんなんあり!?
後ろに下がったら喰いつかれると判断して前に突っ込んだ、けど、密度が、エグい!
必死に身体を捻って跳んで飛び込んで、
…?!
一瞬、意識飛びかけた?! 一発喰らった?! って、このままだとマズ……
もろに直撃コースの黒光が複数見え、咄嗟にライフルを盾にして衝撃に備える。
ここで攻撃手段を一時的にでも失うのは痛いけど、背に腹は変えられない……って……あれ?
甲高い悲鳴みたいな耳障りな衝撃音が響くけど、衝撃は来ない。
頭を庇うように構えたライフルと腕を少しずらせば、眼前に四芒星形の黒銀の盾が浮いている。
ふおー、ノワ様! すき! 愛してる!!
助かった!!
ライフルを構え直し、上体を起こす巨人の動きに差し込むように一射……っよし、胸部中央! マーカー弾命中!!
排莢して装填して狙ってもう一発……盾で防がれたけど、狙いは盾なのでヨシ!
ルージュとヴァイセは!?
地表付近を探すと、どっちも黒銀の盾に守られている。ノワ様ナイスです!
こっちと同じように追尾してくる黒光に追いまくられたみたいで位置はかなり変わってるけど、無事ならオッケー。
「ヴァイセ! ルージュ! 十五秒、援護お願い!!」
空中、巨人からみてやや左側上空にルミナの足場を強固に構築し、ヒールを突き刺すようにして両足を固定。
さっきのダメージは気になるけど、動けてるので後回し!
ライフルを構え、装填した砲弾にひたすらルミナを注いでいく。
異変を察知した巨人から私に向かって黒光が集中するけど、ルージュの光弾が、ヴァイセの花片が、ノワ様の盾が守ってくれる。
チャンバーフル加圧!
ライフリングルミナ保護!
当、た、れぇ!!
ライフルから放たれる光弾、衝撃波を伴う金属質な発砲音、強烈な反動、突き刺したヒールが足場のルミナを引き裂いていく。
崩れる体勢に逆らわず、後転しながら巨人を見れば、構えた盾のど真ん中を光弾が撃ち抜き、穿たれた穴から広がった亀裂とこれまでに撃ち込んだルミナ弾が結びついて盾の中央が大きく砕け、そこから飛び散る盾の破片が巨人を打ち据える。
「セラ様ぁっ!!」
大穴が開いた盾を捨て、両手で剣を構える巨人。
セラ様から放たれる、眩い金色の光。
決着の、時間だ!!




