第6話 私が知らない謎の魔法少女
検索結果の情報量は多かった。
多すぎた。
正直、「もしかして:スノーホワイト」みたいに、検索エンジンが「誤字かもしれないから違うキーワードでも探しておいたよ笑」と返してくる結果を想像してた。
それはそれでなんだか腹立たしいが、そうであってくれた方が、目の前の大きな液晶ディスプレイにずらずらと並ぶ怒涛のスター・ホワイト連呼よりもよほどよかった。
なのに、なのに。
なんだ、これは。
『未確認魔法少女スター・ホワイト 最速まとめ』
『魔法少女スター・ホワイト、いつ公認? 所属事務所は?』
『狙撃系魔法少女の新星スター・ホワイト』
『ビルの森の白雪姫、スターホワイト徹底検証』
『スター・ホワイト討伐記録まとめ』
『【ランキング未登場 注目の新星】スター・ホワイト特集』
落ち着け、冷静になれ。
ブラウザの別窓で特殊災害対策庁の公認魔法少女リストをブックマークから開いて「スター ホワイト」で検索。
検索結果 0件
だよね! いないよね! スター・ホワイトなんて魔法少女、私知らないし!
いちおう検索条件なしにして検索も。
検索結果 152件
よし、特災庁のサイトが壊れたわけでもないから、スター・ホワイトは存在しない。
証明終了。
ブラウザ閉じたい。
でも、閉じたら負けだ。何の勝ち負けだ。
なんだよ「白き狙撃姫」とか「ビルの森の白雪姫」とか「見えざる白色彗星」とか。
好き勝手に煽るこういう雰囲気は苦手だ。
私はもっと静かに、淡々と、それでいて内側に熱量を秘めたファン活動の方が肌に合う。
ちょっと心を落ち着けようと、ブックマークから普段巡回する考察系サイトをチェックしていく。
どこも「スター・ホワイト」に関して言及してない。
そうだよね、真偽不明の情報に踊らされるような君たちではないと信じていたよ。
いや、今回はそれが裏目に出たのか。
考察系サイトで一つ気になる記事を見つけた。
『ファンサイト系ランキングの討伐数総計と特災庁公式討伐統計の乖離縮小に関する考察』
内容は、討伐数ランキングサイトに表示される各魔法少女の討伐数と、特災庁サイトに公表される討伐数のズレが、ここ一年あまりで縮小しほぼ誤差レベルにまでなっている要因についての考察だった。
ランキングサイトの討伐数は、魔法少女が所属する事務所の発表が根拠となっている。
この事務所発表の数値が、合同討伐時の重複カウントや誤認などで、言い方は悪いがかなり「盛った」数字になっているというのは、考察系ファンの間では通説だ。
そうなると、ランキングサイトの討伐数を合計すれば、特災庁の統計よりもかなり過大な数値となる。
考察系ファンがランキングサイトをほぼ無視する理由だ。
そこに着目し、変化を追って考察している記事は読み応えはあった。
あったのだけど、読んでいるうちに、だんだんと背筋がぞわぞわしてきた。
記事の著者は、特災庁通達に基づいた事務所発表数値の厳密化の傾向と結論付けている。
私の結論は違う。
ランキングサイトに載らない誰かの討伐数が、公式統計側に積み上がり、そのせいで、ランキングサイト側の「盛り」と相殺され、見かけ上のズレが縮んだのだ。
魔法少女ランキングサイトに載らない誰か。
ダレダロウ。
現実逃避はやめよう。
この記事には重要な示唆がある。
特殊災害対策庁が、私が駆除した隔獣をかなり正確にカウントしている可能性だ。
警報発表、避難指示発令は隔獣の観測・発生予測情報に基づいており、その避難指示の解除は発生が予測された隔獣の反応消失を持ってなされる。
この発生予測は、公表されている情報を見る限りかなり安全マージンをとっていて、隔獣発生に至らない誤検知もそれなりにある。
ある程度、この誤検知に紛れてると思っていたが、そうでもないかもしれない。
それともう一つ、今日は美宙のメッセージであわてて戻ったけど、いつもの避難中のルーティンなら、警報が出た自分の区域に加えて、境界層の歪みを利用して他区域も巡回する。
警報発表に至らない極初期の隔獣も見つけ次第に駆除していたが、それも統計に含まれていたとすると。
表計算ソフトを立ち上げて、考察データの中に紛れ込ませている駆除記録をチェックする。
先月は、合計すると十五回境界層に入って、三十九体の駆除。
アレ、けっこう数多い…?
ランキングサイトではなく、私が独自で構築した自動集計システムによる各魔法少女の隔獣駆除数データを見る。
最近あまりチェックしてなかったけれど、これはSNSに投稿される魔法少女の駆除報告を拾って共同討伐の重複を除くアルゴリズムにかけて、さらにAIによる予測補正をかけて算出したデータなので、自動収集にしてはかなり正確なデータだと自負している。
それによると、先月のセラ様の駆除数が六十五でトップ。さすがセラ様。
二位がルージュ・エトワールの五十一。瞬間的な火力ならセラ様を超えるともいわれる、最強魔法少女の一角。
三位がグレイシャル・ムーンの三十三。半年前に円卓入りした躍進著しいトップクラス魔法少女……
あれえ。
瞬きしても現実は変わらない。
やらかした?
いや、この集計データも正確なものじゃない所詮一オタクがつくったあやしいデータ。
誰だよ、かなり正確なデータだと自負してるやつぅ。
私だよ!
やらかした。これは完全にやらかした。
こんなに派手にやらかせば、いくら認識阻害があるとはいえ、無視されるはずがない。
認識阻害。
魔法少女が魔法少女として活動するにあたって生じる違和感とか、疑いとかが、ふんわりと打ち消される現象全般を指す。
そんな非科学的な、と言いたいところなのだけど、まさに認識が阻害されるとしか言いようがない現象が実際に起きるのだ。
例えば、目の前で少女が魔法少女に変身しても、誰も変身前の姿を正確に憶えていない。目撃者それぞれに聴取して似顔絵を作ろうとすると、互いに矛盾する特徴がわんさかと出てきて、全く別人の似顔絵が複数出来上がるとか。
例えば、隔獣を倒しに魔法少女が教室を抜け出しても、先生、○○さんが居ません、なんて声は上がらないとか。
とはいえ、なんでもかんでも都合よく作用するものでもなく、単に授業をさぼりたくて抜け出すと認識阻害は働かない。
また、魔法少女自身が自らの意志で正体を公開すれば、この謎現象は起きない。
ファンタジー極まる現象なんだけど、それを言い出すと、少女が変身して魔法少女になる方がよっぽど意味不明・原理不明・科学さんが行方不明なので、そういうもの、としか言いようがない。
私のコソコソ活動だって、この謎現象が無ければ、初日で破綻していた。
この認識阻害とされるもの。
今回の件を考え合わせると、誰がやったか、は分からなくても、何が起きたか、にまでは作用し難いのだろう。
撃った私の姿は認識できなくても、私が撃った光弾ははっきりと認識される。
その現象に名前が付くことも、ネットで広まることも阻害されない。
そうなれば、世間では確かに騒ぎになるのは分かる。
一度や二度なら、気のせいで済む可能性も無くはないが、そんなことが月に何十回も起きたら、話題にならない方がおかしい。
誰だよ、セラ様の三分の二近くのスコアを稼ぐ魔法少女。
古参セラ様ファンとして、そんな魔法少女がいたら、コラボ配信とか期待しちゃうよ。
そんなところにジャージの魔法少女が出てきたら?
魔法少女ファンとしては、まあ、ギリ許す。そういう個性もある。
だがセラ様の戦場に、ジャージ芋砂魔法少女が映り込むことを、セラ様ファンの私が許すかな?
難しいな!
セラ様が許すなら許す!
うぅ。
想像しただけでしぬ。
薄目を開けて、液晶ディスプレイを見るが、検索でヒットした数々のスター・ホワイトに関する記事は消えてくれない。
仕事してくれませんか、認識阻害さん。
無理ですか。そうですか。
半分ほど死んだ目になりながら、ブラウザをスクロールさせる。
『セラ様のライブ配信に映り込んだ謎の白光? 噂のスター・ホワイトか』
ひぃん。
『セラ様の眼前で隔獣消失!! 事務所は特段の発表はないと沈黙』
ひぎ。
何やってくれてんのスター・ホワイト!!
今度から、境界層内でもセラ様のライブ配信をチェックするべきだろうか?
いやいや、さすがに自殺行為が過ぎる!
記事になっているセラ様のライブ配信アーカイブを探し、再生する。
セラ様の一般配信はすべてチェックしているけど、境界層でのライブ配信はさすがにすべてとはいかない。
特に最近は、コソコソ活動してるからライブ配信までは見れてなかった。
スキップしながら倍速再生することしばし。
あった、たしかによく見知ってる白い光弾が画面内に小さく映る隔獣を撃ち抜いている。
ばっと射線方向を見るセラ様にあわせて、自動追従カメラがその方向を映す。
いきなり隔獣から視線を切ったセラ様の行動に戸惑うコメントがたくさん残ってる。
見覚えは、ある。
セラ様は見つけられないでいるけど、私は自分が潜伏していたビルを画面内にはっきり捉えた。
映像内に姿こそ映っていないものの、私は確かにこのビルから狙撃した。
まさか、セラ様が居たとは…
え、どうすれば。
どうすればいいと思う?
ねえ、スター・ホワイトとやら。
ネットの海を漂う、私が知らない謎の魔法少女は、当然だが何も答えてくれない。
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