第54話 思わぬ見落としと話し合いと
円卓の間の空気が冷えてます、綾星です。
助けて。
今日は、私が議題のメインなのでサニーレインの左隣、そのきっかけとなった先週の議題発案者のセラ様がサニーレインの右隣。
そのまま、セラ様の隣から、シャル、ノワ様、青薔薇様、ルージュ・エトワールと来て私で一周、七人全員出席だ。
始まりは特におかしなところもなく。
いつも通り、サニーレインが今日の議題を告げ、私が預かっていた内容について結果報告を始めたのだけれど。
まず、サニーレイン、シャル、ルージュに手伝ってもらいながら三大事務所の魔法少女に協力を得ていったところで体感室温が一℃下がった。
次に、シャルの魔法の事前検証のあたりでさらに一℃下がり、シャルと青薔薇様を中心とした試験運用チームの編成と指揮のあたりで、二℃くらい下がった。
冷えの発生源はセラ様だ。
いや、セラ様が特別何かをしているという訳じゃないし、不機嫌を撒き散らしているとかそういうこともない。
いつも通り、落ち着いた佇まいの麗しいセラ様だ。
いつも通り過ぎて彫像っぽくすらある。
ただ、その、あれだ。
この一週間を改めて振り返ってみると、円卓メンバーの中ではセラ様だけ何もしていない結果になってしまった。
いや、その、違うんです!
セラ様をハブろうとした訳ではなく……
訳ではないけど、結果的にそうなってしまっただけで。
うう、辛い。
推しの負担を除こうとしたら、推しをガッツリ仲間外れみたいにしてしまった場合どうすれば……?
「えと、あの、そんな感じでチーム制の試験運用は概ね成功と言ってよい結果になったかと。以上、制度実施に向けた調整の成果報告です」
ちょっと自分でもどうかと思うくらいの尻すぼみな感じでモニョモニョと報告を終えて座る。
ふかふかで座り心地のいいはずの椅子がなんだか針の筵だよ!!
円卓のメンバーには、都度都度、手伝ってほしいタイミングで協力してもらっていたから、セラ様だけが何もしていないことに気づけたのは私だけ……だけ?
ん?
いや待って、シャルには最初から最後まで……
あー?! 悪い顔してるぅ?!
しかもセラ様の隣だから、セラ様からは微妙にシャルの表情見えないし!
ちょっと、シャルぅ。絶対気づいてたでしょ?!
セラ様の隣の席に座っているところとか初めて見るし!
いや、いや、言い訳だ。
シャルがなにか邪魔してきた訳じゃない。
私が気づかなかっただけだ。
それはそれとして、ええと、どうすれば。
セラ様に手伝ってもらえるようなこと……
アストラ・クラウンで援護射撃……当たればポーン級が消し飛ぶのに援護もへったくれもない。
魔法講座的なもの……ルミナ出力が桁違いすぎて参考にならない。
握手会とかサイン会とか……チーム制度となんの関係も無いね!
えーと、えーと……。
よし!
「ちょっと、お手洗いに! ついでに外の空気吸って来ます!」
こういう時は、気分! 転換!
逃げたとか言うな!?
◇
――円卓の間
「ええ、はい。どうぞ、って早いですね」
「セラが泣かしたー」
サニーレインが苦笑するように呟き、ノワがセラを揶揄うように被せる。
「な!? 泣かして?! え?? 泣いてませんよね??」
「動揺しすぎですわ!」
「確かに、セラさんがちょっと仲間外れっぽい形になりましたけれど、そもそも、セラさんは器用にアレコレできるタイプではないでしょう? どーんと構えてればいいのでは?」
露骨に狼狽え始めるセラに、ノワが口を引き結んで顔を俯け、ルージュが叱咤を飛ばし、ブルーローズが淡々と刺す。
ぐりん、とブルーローズの席に顔を向けたセラは、その勢いとは真反対の酷く心許なげな顔。
「何もさせないことで、セラさんの面目を守ったステラさんは、セラさんをよく見ていると思いますけれど」
「試験運用で皆があれこれ工夫しているところにセラさんが来ましたら、全部、ドーンされてしまうでしょう? 何もしないことが、仕事を果たすことになる時もありますよ」
「もう! 皆さん揃って、私をアストラ・クラウン撃つだけが能の魔法少女みたいに!!」
わざとらしく肩をすくめるノワ。ちょっと呆れが混じった表情とセットで、セラの注目を引き、短く「自覚してるんじゃん」と呟く。
「ノワ! もう! もう! わ、私だって手伝えることくらい……くらい……」
「ないからこうなってるのでしょう? さっさとステラを追いかけて、話をつけて来なさったら?」
「チェネステ、だいぶ鈍いというか、いまだにセラとだけは推しとファンの関係で接してるんだから、伝えたいことをちゃんと言葉にしないと、何も変わらないよ」
グレイシャル・ムーンがわざとらしくステラ呼びを強調して煽るが、肝心のセラは右から左へ聞き流したかのように何の反応も示さない。グレイシャル・ムーンはお手上げのジェスチャーをし、ブルーローズがクスリと笑う。
ノワはノワで、セラの耳に痛いことをさらりと告げて、早よ行け早よ行けと右手をひらひらと振って見せていた。
「ええ。ちょっと、追いかけていきます。皆さん、失礼」
両手を、グッと握り締めて立ち上がったセラは、ジッとチェネレントラ・ステラが退室していった扉を見つめてから、足早に円卓の間を出ていく。
「世話が焼けますわね!」
「ほんとにね。チェネステ、口数は少ないのに全部顔に出るの、面白いよね」
「内心はだいぶ煩そうですけど」
「グレイシャル、よく見てるじゃん。気になるの?」
「そうやって余裕ぶってると、そのうち痛い目を見ますよ、ノ ワ 様」
パンパン、と手を打つ音に続けて、サニーレインが口を開く。
「はい、あの二人は置いておきまして、ローテーション制の開始に向けた話をいくつかしますから注目してください」
◇
お手洗いの宣言通りに用を済ませて、ついでに洗面所で顔を洗う。
魔法少女に変身してると、ちょっと現実感が遠のくというか、膜一枚挟むような感じになるから、顔を洗ってシャッキリ、みたいな感覚もそんなにしないんだよね。
いやしかし。
やってしまったなぁ。
セラ様の負担を除くことばかり考えていて、肝心のセラ様を蔑ろにするとか。
うぅ、セラ様に顔向けできないよ。
はあ。どんな顔して戻ろうかな。
わーっ、てなって出て来ちゃったけど、戻り辛っ!
最近、観察と仮説が足りてないぞ、私。勢いで突っ走ったら失敗するんだよ。
聞いてる? 先週の私ぃ。
「セラ様、悲しませてしまったかな……」
「どちらかというと、少し寂しい、ですね。推しを崇めるような接し方が特に」
「いやでも、ずっとそうだったから、今更、どうすれば……?」
「同僚として、仲間として、同じ魔法少女として接してもらうことは難しいですか?」
「っ……!! セ、セ、セ……!?」
「せ?」
セラ様ー?! え!? なんで?!
いつの間に?! いつから?!
ええと、ええと。
なんだっけ?!
「灰星さん」
「はい!」
「灰星さんが私を仲間外れにしようとか、そういうことをしないのは分かっています。分かっていますが、持ち上げられて飾られるような扱いは、寂しいです。苦しいです」
「……はい」
「友達にはなれませんか?」
「無理です!!」
えあ、あ、いえ、違うんです!!
その、その距離感はいきなり近すぎるというか。
「そこは、ハイ、と言う流れでは? ヴァイセやグレイシャル、キルシュ先輩とは仲良くしてるのに? 最近はブルーローズとも何かやり取りをしているようですし、さきほどはノワやサニーレインと仲良く喋りながら入って来ましたし」
いや、その、確かにその通りですけど……
「その中では、私との関係が一番最初ですよね? 灰星さんのコメントは全部大事にとってあるんですよ?」
初耳ぃ?! ちょっとその情報はずっしり来ますセラ様!!
え、いや、重……
そ、そんなに?!
「あの、セラ様……」
「セラさん」
「無理ぃ! 無理です。しばらく! いましばらくはセラ様でお願いします!」
「むぅ」
かわいいか?! く、セラ様の摂取過多で健康が身体に良い!?
「セラ様は、その、ずっとセラ様で。と、友達に、なるのが嫌なのではなくて、畏れ多いというか、眩し過ぎるというか」
「私、そんなに眩しい人間じゃないですよ? 魔法少女としても、便利棒でドーンしかできませんしぃ?」
「セラ様はそれで良いんです! そのドーン一つに努力を重ねるセラ様だから、私の最推しなんです。その……と、友達の件はちゃんと、向き合って考えます」
ジッと見つめてくるセラ様。いつも通りに麗しのセラ様。頬を膨らませてるように見えるのは、そういう気配をみせているせいか?!
「考えた結果、やっぱり無理とかは無しです」
「その、それは、しません。前向きに、その、ちゃんと友達になる方向で、心の整理というか、推しと友達を両立する方法を相談してきます」
「相談?」
「相談です。その、親友が、私と知らずにチェネレントラ・ステラファンになっていて……知った今は、親友でファンなので。私にはない知見を必ず得られるものと」
セラ様?! なんで噴き出したの?!
え? 面白いこと言ってないと思うけど……
「灰星さんは、そうですよね。あんまり待たせないでくださいね」
「が、頑張ります。予想外にセラ様が重たくてびっくりしましたけど……ちゃんと考えます」
「重たく?! え、おもたい……?」
セラ様?! あ、これ、お互いにちゃんと、もっとちゃんと話さないとダメなヤツ!
どこか落ち着けるところでゆっくり……いや、その前に会議ぶっちぎったままだった!!
「セラ様、セラ様。とりあえず戻りましょう。それで、会議のあと、少し話しましょう」
「デートですね!」
フルスロットル過ぎぃ!!
もう少し緩急、緩急を調整して……!!




